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地方公営企業法の適用はなぜ必要?

公営企業の制度・会計制度シリーズ (4)

法適用とは、公営企業が新たに地方公営企業法を適用することをいいます。法適用により財務情報の適切な把握が可能となることから、経営方針等の策定に資する他、公営企業間での比較可能性や、経営の自由度、利用者によるガバナンスの向上が期待されます。

(1) 法適用はなぜ必要なのか?

法適用とは、地方公営企業法(以下「法」といいます。)を適用していない公営企業が、地方公営企業法を適用することをいいます。地方公営企業法の適用に当たっては、地方公営企業法の規定の全部を適用する場合(全部適用)と、財務・会計に関する規定のみ適用する場合(一部適用)があります。

法適用は総務省の要請により、各自治体において適用することが推進されていますが、そもそもなぜ法適用は必要なのでしょうか?

各公営企業においては、今後施設・設備の老朽化による更新投資によるお金が必要となる一方、人口減少等に伴う料金収入の減少が見込まれています。これらの環境の変化へ対応し、公営企業の本来の目的である「地方自治の発達に資すること」を達成していく必要があります。このためには、まず現状の財務情報を把握することが必要です。すなわち、いまどの程度の財産があるのか、経営成績はどうなのかを把握する必要があります。

法適用によりさまざまなメリットがありますが、最も大きなメリットとしては、各公営企業における財務情報の把握が可能となる点です。財務情報の把握により以下に掲げたような副次的なメリットを享受することが可能となります。

(2) 法適用におけるメリット

i) 財務情報の把握による適切な経営方針や経営計画の策定

官庁会計では、歳入・歳出という現金の流入と流出を把握するにとどまっています。これは、官庁会計の本来の目的が、税収に基づく予算主義によるものであり、予算の執行状況を把握するためには、現金収支に着目することが合理的だからです。しかし、公営企業においては、独立採算による経営が求められており、料金収入に基づく効率的な運営を行うことが必要であるため、予算主義のみで管理を行うことは必ずしも好ましくありません。

そこで、より効率的な運営を行うために、法適用を行うことが有効となります。特に財務規定等を適用することにより、取引の性質に着目し、恒常的な管理運営に係る取引(損益取引)と建設改良等の資産形成に係る取引(資本取引)を区分することが可能になります。

取引を区分することにより、毎年度の損益情報(経営成績)と、どの程度の財産があるのかという財政状態(資産、負債、資本の状況)が適切に把握できるようになります。すなわち、損益情報から料金対象原価の把握がより正確に行えるようになり、財政状態から資産の価値が把握できることから、料金の改定や将来の更新投資のスケジュールに有用な情報を把握することができ、適切な経営方針や経営計画の策定が可能になると考えられます。

ii) 公営企業間での経営情報の比較

財務規定等を適用することにより、各段階の損益(営業損益、経常損益、当年度純損益)が把握されることや、ストック情報として資産や負債の規模が把握可能となります。また法適用後の公営企業においては、同一の会計ルールで、貸借対照表、損益計算書およびキャッシュ・フロー計算書などの財務諸表が作成されることから、多面的に他の公営企業との比較が可能となります。

このように、公営企業間の比較可能性が高まることにより、各公営企業が経営成績や財政状態をより正確に評価・判断することが可能となります。

iii) 経営の自由度向上による経営の効率化とサービス向上

公営企業の財務規定等には、予算の弾力条項があり、一定の要件のもと予算を超える支出が可能となっています。

公営企業は経済性を発揮して収益の獲得を増大させることが求められます。しかし、業務量を増加すれば、予算を超える料金収入を得ることができるような場合に、支出予算が超過することを理由に、サービスを提供することができないということになると、予算制度が企業活動を妨げる要因となってしまいます。このような矛盾を回避するため、業務量の増加に伴い収益が増加する場合には、当該業務に直接必要な経費に限って、予算を超えて支出することが認められており、これを予算の弾力条項といいます(地方自治法第218条第4項、法第24条第3項)。法非適用企業では、弾力条項を適用できない経費として「職員の給料」が明記されていますが(地方自治法施行令第149条)、法適用企業ではこのような制約はありません。このように法適用後の公営企業においては、予算の弾力条項の範囲が、法非適用の公営企業より広範なものになっています。

また、法の全部を適用する場合は、一部を除き権限が首長から公営企業管理者に移るため、より機動性をもった意思決定が可能になります。

iv) 住民や議会によるガバナンスの向上

法適用により作成される貸借対照表、損益計算書およびキャッシュ・フロー計算書は、民間企業における様式とほぼ同一となっています。したがって、民間の会計の知識を有する議員や住民にとっても理解しやすいものとなっています。

また、公営企業においては出納整理期間がありません。そのため、官庁会計に比べて3か月早く決算書が提出されることから、よりタイムリーに公営企業の財政状態や経営成績の把握が可能になります。

なお、法第30条に基づき議会へは決算書が提出され、住民にも決算の要領を公表することになっていますが、よりガバナンスの向上を図るためには、ホームページ等を使って住民にも広く予算書・決算書を公表することが有用となります。

以上のようなメリットを享受することが可能となるため、法適用が推進されています。

 

 

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