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内部通報制度

組織の自浄作用のひとつ

内部通報制度を論じるためには「内部通報」の認識を共有しておくことが必要でしょう。

2022年6月1日に施行された改正公益通報者保護法 において「公益通報」は定義されています。しかし「内部通報」は定義されていません。一方、2021年6月に公開された内部通報制度の国際規格であるISO37002 では、内部通報を「通報された情報が通報時に真実であると信ずるに足る相当の理由を有する通報者による不正行為の通報」と定義しています。

このISO37002の定義に少し手を加え、以下のように内部通報を定義してみます。

  • 内部通報:通報された情報が通報時に真実であると信ずるに足る相当の理由を有する通報者による不正行為の主体組織に対する不正行為の通報

この内部通報の定義を用いることで、以下のように内部通報制度を定義するとわかりやすくなるのではないでしょうか。

  • 内部通報制度:内部通報を受信した組織が運営する内部通報に対応するためのシステム

つまり、不正を行ってしまった組織自身が、その不正を告発する通報を受け付け対応する自浄作用のためのシステムが内部通報制度であると考えられます。

内部通報制度に関連する用語の定義例とそれぞれの関係イメージ

内部通報制度に関連する用語の定義例とそれぞれの関係イメージ
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1. 内部通報制度の目的

自浄作用のために組織が内部通報制度を整備する目的は、一般的に以下の4点にまとめられます。

  • 抑止:不正の抑止-通報制度の存在を周知することで、不正行為を思いとどまらせる
  • 発見:不正の発見-不正行為を早期発見し、傷が浅いうちに対処する
  • 免責:努力の説明-いざというときに企業努力・姿勢を主張してペナルティの軽減を図る
  • 相談:風土を保つ-従業員の不平や不満、困りごとに耳を傾け、働きやすくする

目的の設定によって、内部通報制度の体制整備の性質や規模が異なります。受け付けそして対応する対象事案が違うからです。ISO37002には、こういった内部通報制度で対応する対象事案を組織自身が設定すべきであると記載されています。

特に“相談”にも対応する体制整備を目指す場合は、通報数が増えるだけでなく、事実を確認するだけではないカウンセリングのような機能も必要となるため、より多くの費用がかかります。

内部通報制度を整備する目的のイメージ

内部通報制度を整備する目的のイメージ
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2. 内部通報制度の体制整備

内部通報制度の体制整備のよりどころとして、日本には11条指針 および指針の解説 があります。これらの指針は、従業員規模300名超の体制整備が法規制上の義務として課される組織にとっては必須項目であり、300名以下の組織にとっては努力義務として参照すべき教科書となります。また、前述のISO37002には400項目以上の組織が具備を検討すべき具体例が記載されています。

そういった指針や規格の記載をまとめますと、内部通報制度の体制整備にはおおむね以下のような機能が必要になるものと考えられます。

内部通報制度に必要となる機能例

内部通報制度に必要となる機能例
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3. 危機管理体制と内部通報制度

内部通報制度には通報対象事案が事実であるかどうかを確認することが求められます。もし通報者の主張が事実である場合は、事案の対応は組織の危機管理体制に委ねられなければなりません。たとえ結果的に空振りであったとしても、内部通報制度から連携される情報が危機管理体制の中で検討され、対応のレベルを判断されることがなければ、内部通報制度がどんなに頑張っても、組織の自浄作用が求められた成果を産むことはないと考えられます。危機管理体制の定義や整備は内部通報制度以上に重要といえるかもしれません。

危機管理体制は内部通報制度と表裏一体となって機能すべき、組織の重要な自浄作用の要素といえるでしょう。

内部通報制度と危機管理体制の機能が体制整備段階から相互に整合しているイメージ

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i 公益通報者保護法(平成十六年法律第百二十二号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000122

ii ISO 37002:2021 Whistleblowing management systems — Guidelines
https://www.iso.org/standard/65035.html

iii 公益通報者保護法第11条第1項および第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_research_cms210_20210819_02.pdf

iv 公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)の解説
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_211013_0001.pdf

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