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国際政治変動と金融政策シフトの中で:2024年の10大リスクシナリオ

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.101

リスクの概観(トレンド&トピックス)

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎

当方では、2024年の10大リスクシナリオを図表1の通り選定した(リスクシナリオ詳細は図表2ご参照)。これらは、当方の2024年の政治経済のベースライン予想に対するリスクシナリオを、その蓋然性と影響度の観点から順位付けしたものである。本レポートではこれらのリスクのうちの主要なものにつき、いくつかの領域に分けて概観する。

図表1:2024年10大リスク

1
西側諸国と中国の分断拡大による世界経済の下振れ
2
グローバル金融危機
3
不動産セクターを起点とした中国経済危機
4
日銀による急激な金融引き締め
5
第5次中東戦争
6
台湾有事
7
ウクライナ危機のエスカレーション
8
欧州政治対立の強まり
9
新興国の政治・経済危機
10
資源争奪の激化

 

まず、中国を巡るリスクである(10大リスクのうちの「1. 西側諸国と中国の分断拡大による世界経済の下振れ」「3. 不動産セクターを起点とした中国経済危機」)。米国や欧州各国が半導体等の対中国輸出規制や中国資本の排除を更に強化し、中国がこれに対抗して重要鉱物禁輸の措置に出るなどした結果、グローバルなサプライチェーンの分断が更に進み、民間経済活動を大きく低下させるシナリオである。西側諸国の民間部門の対中国「デ・リスキング」も、円滑に進まない場合は西側諸国と中国の双方の経済に大きな影響を与える可能性がある。実際に民間企業でも、中国撤退には至らずとも既に中国に代わる資源調達先や販売先への転換を模索する動きもあり、海外から中国への対内直接投資は2023年第3四半期にネットマイナスに転じた。中国経済については、不動産市場の悪化が進行してこれが融資平台なども通じて金融システム危機をもたらすリスク、対中国制裁の影響で生産が停滞して家計所得の更なる悪化をもたらすリスクが考えられる。中国に依存する日本企業にとって中国経済リスクは継続的に警戒すべきリスクである。

次に、主要国の金融政策や金融システムに係るリスクである(同「2. グローバル金融危機」「4. 日銀による急激な金融引き締め」)。米国では既にFRBが政策金利を5%台に引き上げており、この影響が今後経済成長を抑制すると当方ベースラインでは見ている。リスクシナリオとして、金利上昇に伴う債務者の金利負担拡大や景気減速によるキャッシュフロー悪化で、消費者や企業の借入返済が滞り、銀行の与信費用が増加して金融システムを悪化させるシナリオが考えられる。また、米国の中堅銀行の中には依然金利上昇に伴う保有債券の含み損拡大のリスクや、商業用不動産貸出リスクを抱えているものも多い。米国に比べ景気の低迷が目立つ欧州でも同様に不良債権増加のシナリオが考えられ、これらがグローバルな金融危機に発展する可能性には引き続き留意が必要であろう。日本銀行は2024年にマイナス金利政策解除など金融政策の正常化を進めると見込まれるが、仮に拙速な利上げや緩和縮小が実施された場合、金利上昇が同じく景気を過度に抑制して日本が再びデフレに陥るリスクシナリオが考えられる。これらのシナリオの蓋然性は決して高いとはいえないものの、顕在化した場合のグローバル経済や日本経済への影響が大きいため、リスクとして想定しておくことは必要であろう。

更に、地政学関連のリスクである(同「5. 第5次中東戦争」「6. 台湾有事」「7. ウクライナ危機のエスカレーション」)。ハマス・イスラエルの衝突にアラブやイランなどの周辺国が本格参戦して中東地域が戦争状態になるシナリオ、台湾総統選挙後の新政権のスタンスによっては中国が台湾への軍事的圧力を高め、場合によっては軍事侵攻に至るシナリオ、そして、ロシア・ウクライナの軍事衝突がエスカレートしてロシアによる核脅威の拡大やNATOの参戦に至るシナリオも、蓋然性は低いとはいえ資源や食糧などグローバルな経済に多大な影響をもたらすシナリオである。

国家・地域間対立で顕在化しうるリスクシナリオとしては「10. 資源争奪の激化」が考えられる。脱炭素化や経済安全保障の観点から重要鉱物などの資源に対する需要が高まってくるのに対して、中国や西側諸国が、アフリカ・中南米・アジアの資源国に対する政治的・経済的影響力を高める競争が激化するシナリオがありうる。資源国側は今後重要鉱物を資源外交のカードとして活用して、供給を制約するなどの政策を実施する可能性もある。かかるケースではグローバルな資源供給が滞るほか、場合によっては政治対立や軍事衝突に発展する可能性もあろう。

最後に、地域的なリスクとして「8. 欧州政治対立の強まり」「9. 新興国の政治・経済危機」をあげておく。EUにおける極右勢力の拡大などが政治的な足並みの乱れを加速させ、欧州の財政問題の再発や移民問題を巡る外交リスクが高まるシナリオ、中東欧、中央アジア、中南米などでの国家間対立の拡大、または南アジアやアフリカ諸国の経済・債務問題が拡大するシナリオである。これらはいずれも、現状は地域内の問題にとどまっているものの、これがグローバルなリスクに拡大する可能性は想定しておくべきであろう。

図表2:2024年の10大リスク(シナリオ)

1
西側諸国と中国の分断拡大による世界経済の下振れ
米国大統領選が迫る中、米国による中国製品・資本の一段の排除、中国による重要鉱物・技術の輸出規制等の応酬が頻発する。欧州でも、台湾・人権問題に絡んで中国が一部の国に経済的圧力をかけ、EUが対抗措置を講じるなど対立が激化する。対中投資は収縮し、各国経済は生産活動の低下・インフレの上振れに直面する。
2
グローバル金融危機
米欧銀行の経営不安を起点とした金融システムの不安定化、もしくは想定以上の米欧経済の悪化による不良債権の急増がトリガーとなり、グローバルな信用収縮が生じる。
3
不動産セクターを起点とした中国経済危機
不動産市況の持ち直しが遅れ、不動産企業や土地収入に依存する地方政府の破綻が相次ぐ。融資平台に投融資していた金融機関の経営悪化が信用収縮や景気の急激な悪化をもたらし、各国の対中輸出も激減する。
4
日銀による急激な金融引き締め
賃金上昇を伴ったインフレが定着したと日銀が判断し、マイナス金利の解除にとどまらずコンスタントな利上げを進めていく。想定以上に早い金利上昇に景気・金融システムが耐えきれず、日本経済はデフレ状態に逆戻りする。
5
第5次中東戦争
イスラエルとハマスの軍事衝突にレバノン・シリア・イエメンの武装勢力が参戦する一方、米国が武装勢力への攻撃レベルを引き上げる。イランが武装勢力を支援する形で本格的に参戦し、戦線が中東全域に広がる。周辺シーレーンの封鎖などもあって原油価格が高騰し、不確実性の拡大と相まって世界経済が下押しされる。
6
台湾有事
米中間の偶発的な衝突や、中国が容認できないような台湾新政権の独立志向の強まりなどをきっかけに、台湾海峡で本格的な軍事衝突が発生する。南シナ海・東シナ海を含む広範な海上封鎖、サイバー戦争、制裁の応酬や現地企業の接収、日本の本格関与等へと事態が発展する。
7
ウクライナ危機のエスカレーション
ウクライナの反転攻勢が奏功する中でロシアの政治不安が高まり、限定的な核使用、NATOの一時参戦等へと事態が発展する。経済面では商品市況の高騰、欧州を中心とした景気の大幅悪化、金融市場の動揺が生じる。
8
欧州政治対立の強まり
高インフレへの不満や移民の増加などを背景に、各国の国政レベルや欧州議会選挙でもポピュリスト極右勢力が影響力を拡大する。反EU的な政治姿勢が浸透することで、EUが機能不全に陥る。ECBによる南欧国債の保有量の圧縮が重なる中、EU域内の対立が南欧金利の上昇を招き、再び債務危機へと発展する。
9
新興国の政治・経済危機
ウクライナ・中東への対応に追われる西側諸国の機動力の低下や、ロシアの影響力の縮小、西側と中露陣営の対立等を背景に、東欧・中央アジア・南米等で領土紛争が発生したり、重債務国の経済再建に遅れが生じる。新興国の政治・経済不安は移民・難民の増加や、一部コモディティの需給ひっ迫を通じて先進国に波及する。
10
資源争奪の激化
中東・アフリカにおける政情不安や中国・ロシアの影響力拡大を背景に、天然ガスや脱炭素社会に不可欠な重要鉱物の供給が不安定化する。日本を含む各国ではインフレの上振れや生産活動の阻害に直面する。

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.101

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  1. 国際政治変動と金融政策シフトの中で:2024年の10大リスクシナリオ(勝藤)
  2. 2024年の日本経済:「金利のある世界」のイメージ(市川)

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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