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トランプ2.0の日本企業への影響:自動車・エネルギー・製薬・サプライチェーン

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.105

リスクの概観(トレンド&トピックス)

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎

米国にトランプ政権が再び誕生した場合の政策のうち、日本企業への直接影響が大きいのは、国内産業政策、通商政策、そして外交政策の3つであろう。ここではそれぞれの政策領域につき、日本企業にとっての主なリスク要因と考えられる対策を挙げておきたい。

まず、トランプ氏の国内産業政策は、米国第一主義に則り、米国内での生産・販売・雇用創出を優遇することが主眼である。米国内自動車産業や石油産業の優遇がこれに当たる。また、トランプ氏の政策は、伝統的な共和党のプロ・ビジネスな政策とも異なり、同氏の支持基盤である中間層に対する配慮も手厚いことが特徴である。例えば、薬価引き下げ政策は大企業よりもむしろ消費者を優遇する政策である。トランプ氏の選挙公約である「Agenda 47」では、自動車(排ガス規制緩和、海外製品関税引き上げなど)、エネルギー(化石燃料の採掘再拡大、エネルギー自給など)、製薬(薬品の国内生産回帰、薬価引き下げなど)の3つがしばしば言及されており、いわゆるトランプ2.0の影響に大きくさらされている業種だといえる。これらの政策に対し、日本の自動車産業においては、前回のトランプ政権期でも見られたように、日系メーカーによる米国現地生産の拡大などが対策として考えられる。日系の製薬会社も海外企業との連携で米国を含むグローバルな事業を拡大している産業であるため、提携などを通じた米国内現地生産を拡大することで一部の影響回避は可能である。しかし、薬価引き下げ政策は在米の製薬業界全体にとっての向かい風となる。現バイデン政権でも既にインフレ抑制法による薬価抑制策がこの業種の収益圧迫要因となっているが、この点は政権がトランプ氏に交代したとしても方向性は変わらない。

次に、トランプ氏の通商政策では、前回政権時と同様、米国の貿易赤字縮小が最大の政策となる。日本を含む世界に対する関税引き上げによる対外貿易赤字縮小政策が既に掲げられている。対中国では貿易赤字のみならず国家安全保障やデジタル覇権の観点からも、輸入関税引き上げや半導体関連輸出の制限が現政権以上に進むだろう。日本にとっては、こうした米国の通商政策への追随による対中国ビジネスの縮小、また中国経済の更なる減速による対中輸出の縮小などの影響が考えらえる。これに対し、米国内での工場建設や雇用創出は基本的にはトランプ政権に歓迎されることになろう。ただしここでも、トランプ氏は脱炭素化に反対のスタンスを取っていることから、バイデン現政権がインフレ抑制法で推進している対内グリーン投資の誘致は大幅に縮小されるだろう。代わって自動車などのオールドエコノミー主体の産業政策となろう。

最後に、外交・防衛政策につきトランプ氏はAgenda 47で「第3次世界大戦の阻止」「主戦論者の排除」を掲げ、海外の戦争等への米国の関与を引き下げる方針を示唆している。具体的に起きうることは、ウクライナ支援の停止やアジア安全保障からの撤退方針の表明である。米国の影響力の後退は、ロシアによる東欧地域への進出や中国の台湾・東南アジアにおける政治的、軍事的影響力が拡大する契機ともなりうる。これは、グローバルサプライチェーンの更なる寸断リスクにつながる。現バイデン政権においても、中東への介入からシーレーンに関わるサプライチェーンリスクが一部顕在化しているが、トランプ2.0成立の暁には、ロシアや中国の脅威の拡大でこのリスクが更に拡大する可能性がある。日本企業にとっては、主にアジアにおける軍事的脅威がその顕在化前に物流の停滞を招き、販売調達への支障や生産・輸送コストの上昇を招く可能性がある。たとえば、中国の台湾侵攻には至らずとも、台湾周辺への中国の軍事的脅威が高まると、台湾海峡やバシー海峡の貨物船等の運行に支障をきたすことが考えられる。他方中東では、トランプ氏の下ではバイデン政権以上にイスラエル支持・対イラン対立が激化し、中東のシーレーンの寸断リスクも現状以上に高まると思われる。

以上のうち、特にサプライチェーン問題は、米国大統領選挙結果如何に拘わらず当面の日本企業にとっての課題となりうる。自社事業のサプライチェーンの網羅的な把握、代替ルートの確保、コスト上昇の価格転嫁方針などは現状においても対応を要する課題である。

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.105

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  1. トランプ2.0の日本企業への影響:自動車・エネルギー・製薬・サプライチェーン(勝藤)
  2. トランプ関税のリスク:不確実性こそが最大の懸念材料(市川)

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執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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