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再び注目される中国の過剰生産問題:中国経済や米中対立への影響

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.110

リスクの概観(トレンド&トピックス)

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
廣島 鉄也

中国経済が弱めの動きを続けている。足元、小売売上高の伸びが2%台に止まるなど、個人消費の低迷が目立つ。不動産市場の調整が長引いており、住宅販売に関連する家具や家電といった派生需要には下押し圧力がかかっている。また、住宅価格の低迷は、マインド面への悪影響や債務負担の重さから消費を押し下げる、いわゆる逆資産効果につながっている。さらには、若年層を中心に雇用・所得環境の改善が鈍いことも、消費にとっては大きなマイナス要因となる。中国では、ゼロコロナ政策の解除後、経済再開によってサービス業を中心とする消費の拡大が見られていたが、そうした特殊な押し上げ要因にも一巡感が見られている。高成長期の中国経済を支えてきた投資に関しても、不動産開発投資が低迷を続けていることは言うまでもないが、インフラ投資も伸び率を低下させており、経済全体のけん引役を期待することは難しい。

この間、輸出は比較的堅調な動きを示しており、中国経済全体の下支え役となっている。ただし、こうした動きの中に、中国国内の過剰生産に伴う低価格品輸出の増加が含まれていることには、注意する必要がある。中国の過剰生産問題は、これまでもたびたび通商問題に発展してきたが、今回も不動産市場の調整に伴う建設需要の低迷から、鉄鋼製品の輸出ドライブが見られており、先進国、新興国の両方の企業から批判の声が上がっているほか、いくつかの国で関税引き上げの動きが見られている。また、電気自動車(EV)についても、中国メーカーによる低価格攻勢が続いており、欧州で7月から暫定追加関税が課されているほか、米国では関税をこれまでの25%から一気に100%に引き上げることを決定した。このほか、太陽光パネルや半導体関連でも、中国からの低価格品の輸出が、各国から問題視されている。

中国経済の先行きという観点からは、中国による低価格品の輸出が、各国との通商問題に発展している以上、輸出主導の経済成長の持続性には、疑問符が付くということになる。このため、本来的には内需拡大が必要ということになるが、インフラ投資の投資効率が低下傾向にあることや、当局がかつてのように債務の積み上がりを伴うような景気刺激策を回避する傾向を示していることもあり、即効性がある内需拡大策を取ることは難しい。また、消費に関しては、上述のような不動産市場の調整の影響もあるが、さらには少子高齢化の進展という、人口動態上の逆風があることも大きなハンディと言える。人口動態の変化の影響を、政策的に押しとどめることは容易ではない。高齢化に伴う財政負担の増加や将来不安の高まり、家計の行動の保守化・消極化といった現象が、徐々に広がっていく可能性がある。生産年齢人口が減少に転じていることもあり、中国では潜在成長率が低下プロセスにあると考えられているが、そのペースが加速している可能性には留意する必要がある。

中国の低価格品輸出を巡るもう一つの論点は、米国を中心とする各国との通商・外交関係への影響であろう。共和党の大統領候補であるトランプ氏が、中国からの輸入品について一律60%の高関税を課すことを公約としており注目を集めている。もっとも、既に広く認識されているように、バイデン政権は、トランプ政権時代の対中強硬策を緩和するような方向には動かず、足元でも、上述のように追加関税措置を決めている。やはり、米国大統領選の結果に関わらず、米国の対中強硬姿勢は続き、各国もその影響を受け、時に必要な対応を迫られる構図が続くということになろう。

ここで難しいのは、中国と米国、中国と他の諸国との間には、経済的に非常に強い相互依存関係が構築されており、各国の中国に対する経済・通商面の政策も、様々な例外措置が含まれるなど、複雑なものにならざるを得ないということであろう。中国とのデカップリングは現実的ではなく、各国はデリスキングを図ろうとするが、国によっても産業によっても、その必要性、ないしコストは様々であり、時に、足並みの乱れも生じる。一方、中国は他国が自国製品への依存度を高めるような方策を取ろうとする。企業には、こうした複雑、かつ流動的な構図の中で、自社への影響を冷静に見極めていくことが求められよう。

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執筆者

廣島 鉄也/Tetsuya Hiroshima
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、マクロ経済、地政学リスク、リスク管理高度化など、幅広いアドバイザリー業務を提供する。
日本銀行で、金融政策運営のほか、グローバル経済や内外の金融市場の調査、金融機関のモニタリングといった、幅広い政策関連業務に従事。国際部門の業務やIMFへの出向などを通じ、国際金融分野の仕事も多く経験。...さらに見る

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