最新動向/市場予測

サステナブルファイナンスの取組みと課題~国内外の規制動向や議論が急速に進展

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.86

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
菅谷 幸一
 

今夏、国内では、サステナブルファイナンスに関連した文書が相次いで公表された。本稿では、主に本邦のサステナブルファイナンスの取組みや課題についてその概要を確認したい。

まず、日本のサステナブルファイナンスの取組みの全体像について、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議が、7月、「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書-持続可能な新しい社会を切り拓く金融システム-」(以下、第二次報告書)を公表した。同報告書は、2021年6月公表の第一次報告書で提言された、「企業開示の充実」、「市場機能の発揮」、「金融機関の投融資先支援とリスク管理」の3つの柱に沿った2021事務年度の施策の進捗と新たな課題を整理・提言するものである。サステナブルファイナンスの推進策については、個別分野では相応の進捗が見られるとしつつ、いずれも更なる課題が生じており、対応の継続・深化が必要であると指摘されている。

次に、第二次報告書でも取り上げている、個々の施策について、ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会が、7月、企業のESGの取組みを評価するESG評価機関等について評価の透明性・公平性を確保するための「行動規範」(案)を取りまとめ、評価を利用する機関投資家や評価を受ける企業への提言と併せた報告書を公表した。行動規範(案)については、金融庁が、パブリックコメントを踏まえ、夏頃を目途に最終化する予定としている(本稿執筆時点(2022年9月19日)では未公表)。また、7月、金融庁より、「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」(ディスカッション・ペーパー)、「ソーシャルプロジェクトの社会的な効果に係る指標等の例」(ソーシャルボンドガイドラインの付属書4)がそれぞれパブリックコメントを経て確定・公表された。加えて、8月には、金融庁と日本銀行が、3メガバンクおよび大手3損保グループとの間で実施した、気候関連リスクに係るシナリオ分析の試行的取組(パイロットエクササイズ)の結果を公表。本エクササイズは、上記第一次報告書における提言を踏まえ実施されたものであり、国内では初めてとなる取組みである。

なお、第二次報告書の提言については、金融行政における重点課題および金融行政に取り組む上での方針を取りまとめた「2022事務年度行政方針」にも反映されている。同行政方針に示されるサステナブルファイナンスに係る方針として、(1)企業のサステナビリティ開示の充実、(2)市場機能の発揮、(3)金融機関の機能発揮、(4)インパクトの評価、(5)専門人材育成が掲げられており、これらは、第二次報告書において示された3つの柱と一部の横断的論点に沿った内容となっている。

第二次報告書等で示されたサステナブルファイナンスに係る課題や施策は、3つの柱に加え、横断的な論点も含まれ、様々なものが存在し、広範な分野にわたる。背景には、持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定等により掲げられる持続可能な経済・社会の実現に向けた、気候変動対応をはじめとする、国内外での急速な環境変化が続いていることがあると言える。今後もサステナブルファイナンスを取り巻く状況が大きく変化していくことが見込まれ、規制の動向や議論の行方を引き続き注視する必要があるだろう。

そのうちの一つ、注目度の高い動きとして、企業のサステナビリティ情報開示を巡る議論が急速に進展している。国内では、2022年4月に発足したプライム市場の上場企業に対し、改訂コーポレートガバナンス・コードに基づく、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)または同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実が求められている。また、金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの提言を踏まえ、有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄が新設されることとなっている。国際的には、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)によるIFRSサステナビリティ開示基準の策定が年内に最終化される予定であり、欧州や米国においてもそれぞれのサステナビリティ報告や気候関連開示の枠組みの策定が進んでいる。企業においては、国内外で高まる開示要求への対応として情報開示の充実化を迅速に検討しつつ、気候変動対応を含むサステナビリティへの取組みを加速していくことが望まれよう。

図表   第二次報告書の主な内容

※画像をクリックすると拡大表示します

執筆者

菅谷 幸一/Koichi Sugaya
有限責任監査法人トーマツ マネジャー

証券系シンクタンクにて、地方銀行をはじめとする金融機関の事業動向・経営環境の調査・分析業務に従事。財務省国際局国際機構課出向中は、主に国際金融規制、FSB、IMFを担当。金融庁企画市場局市場課出向中は、主にソーシャルボンドガイドラインを担当。現職にて、海外金融規制動向の調査業務等に従事。

お役に立ちましたか?