Posted: 21 May. 2021 3 min. read

【徹底解説】2050年カーボンニュートラル実現に必要なJust Transition(公正な移行)とは?<後編>

※前編からの続き

グローバルで進むJust Transitionの政策化・制度化

前編で記したような経緯を踏まえ、Just Transition(以下JT)は現在、様々な政策や金融原則に織り込まれ始めており、今後企業経営に影響を及ぼすことが予想される。

政策面では、例えばパリ協定はその前文で、「この協定の締約国は、自国が定める開発の優先順位に基づく労働力の公正な移行並びに適切な仕事及び質の高い雇用の創出が必要不可欠であることを考慮する」ことを謳っている。また、欧州連合(EU)の成長戦略Green Deal内に、旧東欧諸国など石炭産業/地域の、移行の影響を最も受ける業界、地域の住民や労働者の支援に的を絞った資金メカニズム“Just Transition Mechanism”を設置している。スペインでは2018年に政労使が協議をし、石炭火力発電所の閉鎖を急ぐ際に、その場所に再エネ関連の施設を建設し、雇用のスムーズな移転に向けて政府が予算を投じることの合意がされている。

資本市場においては、国連 Principles for Responsible Investment (PRI)がESG投資家向けガイドライン“Climate change and the just transition”を発行し、JTとSDG各目標の関連性に関する分析に基づいて5つのアクションを提起しているほか、BNPパリバはその“Global Sustainability Strategy”において、サステナブル投資の道筋の一つとしてJTを位置付けている。

グローバルでもビジネスへの実装はこれから:日本は勝機にできるか

ただし、JTのビジネスへの実装はまだこれからだ。各国政府やIKEA財団などの出資により、企業のSDGsインパクトの横比較測定を開発しているWorld Benchmarking Allianceは、世界で特にGHG排出量の多い450社の取組みを評価するツール“Just Transition Assessments”を開発中である。そこでパイロット的に行われた自動車産業の分析によると、自動車電動化を主導する企業も含め、JTへの配慮が軒並み著しく低いとの結果が示されている。

また、「ビジネスと人権」に関するグローバルな情報ハブ機能を担うNGOであるBusiness & Human Rights Resource Centreによる風力及び太陽光のグローバル大手16社の人権対応調査によると、この産業の人権対応の実態は、特に人権侵害との関連が多く指摘されているアパレル、農業、採掘、ICT製造業とほぼ変わらないとの結果が出た。BHRRCによると、同産業に対する人権侵害批判の件数が、2010年から18年の間に10倍に増えている。

カーボンニュートラルに向けた競争に大きく出遅れた日本企業。しかし、先を行く先進企業は今後、高まるJT圧力にオペレーション、場合によってはビジネスモデルそのものの見直しを迫られる可能性もある。この機に、予め各ステークホルダーの利害を丁寧に織り込んだJTベースの「誰一人取り残さないカーボンニュートラル」を戦略化することで、ESG投資における企業価値を高め、脱炭素市場におけるシェアの拡大を狙うべきではないだろうか。

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山田 太雲/Takumo Yamada

山田 太雲/Takumo Yamada

デロイト トーマツ グループ  スペシャリストリード(サステナビリティ)

モニター デロイト スペシャリストリード(サステナビリティ)。大手国際NGOで12年間「持続可能な開発」の諸課題に関する政策アドボカシーに従事したのち、2015年の国連SDGs交渉に関与し、成果文書案の一部修正を勝ち取る。モニター デロイトではサステナビリティ潮流やステークホルダーの動向等についてインサイトを提供している。