第一章 デジタル戦略に基づく日本製造業の強みの再生 ブックマークが追加されました
日本の製造業は、変化・変動に対応することが求められている。日本の製造業を取り巻く外部環境には、労働力人口の減少、カーボンニュートラルや、資本主義vs覇権主義の動きに伴う経済安全保障ブロック経済化といった、従来にない大きな社会構造変化・変動がある。
他方で、デジタルテクノロジーの進歩はより一層加速している。製造業においてデジタル技術を如何に活用すれば良いのか。日本の製造業では、今までデジタル技術を活用する働きかけはなされている。現場改善ツールの一つとしてインダストリー4.0やIoTといった製造デジタル化、現場の省人化、効率追求や業務スピードアップのために製造現場にデジタル技術が取り込まれてきた。
しかしながら、日本の製造業は、競争力の低下という課題に直面している。グローバル競合は、新興国企業も、最先端のデジタル技術をフル活用して急速に品質や業務スピードをキャッチアップするのに加えて、欧米先進企業はそれにとどまらず、デジタルツインやAI、シミュレーション等によって、事業環境の変化に対して生産技術やオペレーションの革新を不断に行い、ゲームチェンジを仕掛けてきている。
従来、日本メーカーが高い競争力を誇ってきた自動車産業においても、EV化の中で、欧米や中国の新興専業メーカーが革新的な製品構成・製法を実現して、圧倒的なコスト低減を実現し、日本メーカーの取り組みにも影響を与えつつある。海外勢のほうが、「しなやかに」かつ「したたかに」デジタルを使って事業環境の変化に対応している。マクロ的な社会構造変化・変動に対しても自らを変革し対応していく力は強いかもしれない。
社会のデジタルシフトがより一層加速していく中、日本勢と海外勢との差はこのまま開いていくのか?その答えは否であると考える。デジタル化のなかで、日本企業のもつ継続的な改善や変革をもたらす力を更に強化できると考えている。しかし、そのためにはデジタル化のステージをあげなければならない。私たちデロイト トーマツ グループでは、競争力復活のカギは、日本の製造業の強みを伸ばしていくデジタル活用「スマートファクトリー2.0」にあると考えている。
これまでの日本のスマートファクトリーの取り組みは、①計画、現場への指示から制御、実績収集、判定・報告までをデジタルでつなぐ自動化の軸、②市場・顧客要求から製品仕様・構成、生産技術や作業指示、製品利用に至るまでのバリューチェーンでの情報連携の軸、であった。個別の工程での効率化、省人化、スピードアップに取り組み、コスト優位性を創り出す活動である。これを私たちは「スマートファクトリー1.0」と呼んでいる。しかしながら、その取り組みはワンショットに終わることも多く、デジタルで見える化された先に、より競争力維持・強化につながるような変革活動は起こせてきただろうか。
デロイト トーマツ グループが提唱するスマートファクトリー2.0とは、日本の製造業が強みとしてきた、事業や業務の現場の事実に着目し、組織が連動して、その問題や変化・変動に対する改善策を立案、実行する、その問題解決・改善のサイクルを、デジタルを最大限活用してより高速に回す、製造業の中でのデジタル活動の第三の軸、「組織活動の強化」軸にフォーカスしたデジタル変革である。
また、スマートファクトリー2.0は、スマートファクトリー1.0で得られた現場のデジタルデータをもとに、組織内での問題解決・意思決定とアクションを迅速に生み出すデジタル活用である。現場だけに閉じず、関連部門や経営までスケールさせて組織全体で解決策を導く、変化を創り出す。組織の気づきと意思決定を活性化し、プロアクティブなアクションを生み、一連の活動から生まれる組織知を集約し活用する。その結果、組織活動が強化される。様々な現場の情報をあたかも人の神経と頭脳が働くかのようにデジタルで繋げ、新たな示唆を生み出し、全体最適に繋げていくインテリジェンスパフォーマンスを実現する。
重工業、産業機械、建機/農機製造業を中心に、20年以上にわたって製造業向けコンサルティングに従事。 事業戦略、ビジネスモデル策定から、設計開発・営業・サプライチェーン・サービスのオペレーション変革実行に至るまで幅広く支援している。 近年はデジタルを活用した事業構造変革に注力。 スマートファクトリーイニシアチブのリードも務める。 >> オンラインフォームよりお問い合わせ