Posted: 18 Sep. 2024 6 min. read

第四章 人とAIによる意思決定の進化

【シリーズ】デジタル三現主義に基づく日本製造業のスマートファクトリー

AIの活用を取り巻く現状

デジタル技術の活用という文脈の中で、AIの活用が話題に上がって久しい。どのようにAIを業務の中で使いこなしていくか、という問いに日々向き合っている、あるいは向き合わされている状況ではないだろうか。私たちデロイト トーマツ グループは、人の気づきや議論の結果がAIに新たなロジックを与える、人には見えていない事象をAIが可視化し示唆を与えることで人々の思考や議論を活性化させるといった、意思決定をはじめとする組織活動がAIを含むデジタル技術の活用によって強化されていくと考えている。人知とAIを融合するマネジメントを実現することは、組織知を高め強みを培ってきた日本製造業におけるスマートファクトリー化に肝要であると考えている。

手段としてのAIの活用

人知とAIを融合するマネジメントは、どのように実現できるだろうか。製造現場では日々付加価値が創出されている。同様に意思決定をはじめとする組織活動も日々実施されている。AI活用に対して、製造現場にある既存のデータを使って、もしくはAI導入を目的として、実証検証はしたという実績がある状況ではないだろか。他方で、AIを導入したものの肝心の組織活動や働き方については大きくは変わっていないことに課題感を持たれている状況ではないだろうか。

本連載の前章である第三章 製造現場から得られる1次情報の組織内活用では「製造現場データの1次情報」に関する考え方を紹介した。製造現場データの1次情報は、現場で発生する様々なデータを「イベント」を中心に関連付けることで人にとって分かりやすい情報を生成し、組織内での情報共有や意思決定の連鎖を可能とする。一つの情報単位を情報短冊(CTM:ConText Message)と呼ぶが、作業進捗や生産性、品質やトラブルに係るイベント情報(何が起こったのか)に対して背景データ(5W1H)および説明データ(規格、標準等)が紐づけられ、意味づけがなされている。

AI活用を手段として組織活動を変えるには、AIの母体となるデータが肝要である。AI導入だけであれば、どのようなデータであってもAIモデル生成に利用することができるが、データのクレンジング等の前処理、また、得られた結果が、組織の人間にとって理解・納得がいくかが問題となるケースも多い。一方、製造現場データの1次情報は、現場の知恵や経験をベースに定義されたものであり、自社の付加価値の創出に係わるデータ、いわば、製造現場ナレッジデータベースである。これをAIに適用することによって、AIならではの膨大なデータ処理や人が気づかない新たな示唆や知恵を生み出す。それこそが、組織活動の中におけるAIの活用であり、人知とAIを融合した新しい意思決定の在り方となる。

スマートファクトリー2.0におけるAIの活用

デロイト トーマツ グループの提唱するスマートファクトリー2.0は、製造現場の1次情報ネットワークを構築するFOA(Flow Oriented Approach)を基点として、製造現場の事実情報をもとに現場改善を進めること、イノベーションを創発することを目的としている。(図1)

図1

出所:デロイト トーマツ グループ

従来から日本製造業では、経営戦略・KPI・製造計画・作業指示など意図した事前情報に対して、実行管理するマネジメントや、製造現場での自動化やバリューチェーンでの情報連携を進めてきた。そのような実行管理の世界において、もし製造現場の能力不足や予期しないトラブルの発生のため目標未達が見込まれる場合には、迅速に結果・実績情報の報告が実行され、計画の見直しや社内外での調整が行われてきた。他方で、製造現場には毎日のように様々な事象が発生している。さらに市場も常に変化している。製造現場の実力に合わせて計画を見直すというアプローチでは、当初目標を下回るか、もしくは遅れを取り戻すために追加の労力や費用の発生によって収益性が悪化する状況が発生しているのではないだろうか。

スマートファクトリー2.0では、製造現場での異常や故障、予期しないトラブルやイレギュラーな事象といった、意図しない事後情報を活かす。製造現場の意図しない事実から、気づき、問題分析、改善案を生み出し、戦略や設計への情報のフィードバックの流れを強化する。そのような問題解決・改善の世界において、もし製造現場で予期しないトラブルが発生した場合、その意図しない事象を意味づけして製造現場データの1次情報とすることで、製造現場が計画の狙いに合わせて能力を高める改善活動ができることに加えて、マネジメントが計画側での改革の糸口とすることができる。この、現場での意図しない事実の発生を基点とした問題解決、改善、イノベーションに続くサイクルの中で、これまでの組織知に基づくAIを活用して、未知の問題に対しても迅速に解決策を見つけ、継続的に進化させていく。このような、組織とAIが相互に作用していくマネジメントサイクルの確立が、スマートファクトリーとして目指す姿ではないだろうか。

The Smart Factory by Deloitte

デロイト トーマツ グループは、デジタルを活用した将来の製造業の姿を示しスマート化を推進するためのイノベーションフィールド”The Smart Factory by Deloitte”と、デロイトネットワーク4,000名以上の領域専門家、ものづくりDXのソリューションを持つ様々なパートナー企業との業界の枠を超えた連携を通じて、製造業をはじめとするお客様の競争力・企業価値向上、ものづくりDX全体を支援します。

プロフェッショナル

芳賀 圭吾/Keigo Haga

芳賀 圭吾/Keigo Haga

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

重工業、産業機械、建機/農機製造業を中心に、20年以上にわたって製造業向けコンサルティングに従事。 事業戦略、ビジネスモデル策定から、設計開発・営業・サプライチェーン・サービスのオペレーション変革実行に至るまで幅広く支援している。 近年はデジタルを活用した事業構造変革に注力。 スマートファクトリーイニシアチブのリードも務める。 >> オンラインフォームよりお問い合わせ