Posted: 14 Mar. 2025 5 min. read

第五章 M&Aにおけるデジタル戦略の重要性

【シリーズ】デジタル三現主義に基づく日本製造業のスマートファクトリー

執筆者 早川 琢磨

はじめに

日々新しいデジタルテクノロジーが誕生し、中には凄まじい勢いで普及していくものもある、まさにデジタル社会を生きる我々にとっては、デジタルテクノロジーの活用は避けられないテーマであることに異論を挟む余地は少ないと考えます。企業経営者の観点においては、自社の成長・生き残りを掛けて、いかにデジタルテクノロジーを活用して競争力を保つかが重要なテーマになっていると言えます。伴い、M&Aにおいても、従来に比べ、自社のデジタル戦略と照らし合わせた上で取引を進めていくことが益々重要になってくるのではないでしょうか。

 

M&Aにおいて企業が目指すものは?

M&Aにおける目的は様々ありますが、譲受側の目指すこととして、大枠として下記のような「事業の成長・拡大」や「人材の確保」など外的リソースを獲得することで事業運営をより強固なものにすること、と言えるかと考えています。

事業の成長・拡大
  • 既存事業の強化
  • 事業領域の拡大
  • 市場シェアの拡大
  • 成長スピードの状況
  • 多角化・新規事業への参入
  • 海外進出 など
人材の確保
  • 労働力確保
  • ノウハウ・スキルの獲得
  • スケールメリットの獲得
  • 効率性アップ など

そして、M&Aによる経営統合により、これらの目的を果たし、売上アップや利益改善、コスト削減等におけるシナジー効果を期待します。

 

統合(PMI)におけるありがちな誤算

しかしながら、M&Aが失敗するケースは枚挙にいとまがありません。
代表的な失敗事例としては、デューデリジェンスが不十分であったため、買収後に不祥事が発覚するケースや規制等の影響を捉えられず業績悪化するケース等に加え、期待した統合(PMI)のシナジー効果が得られず失敗するケースも頻繁に発生しています。

それでは、どのような、期待するシナジーに関する誤算があるのでしょうか?

  • 当該国が寡占化を警戒しビジネスを禁止したため、譲受企業が予想したスケジュールでシナジー効果を発揮できなかった
  • 当該国の景気低迷により狙っていたようなシナジー効果を得られず赤字が膨らんだ
  • 同一事業を手掛けているためシナジー効果を期待したが、技術に相互利用できる部分が少なく関連事業が赤字化した
  • 甘いシナジー効果の見積りにより、思った程の売上増加・利益改善が見込めず他社に売却した など

実際このように、計画が十分でないことや計画時想定からの状況の変化によって、期待するシナジーを得られないケースが多く存在します。

 

あるべき統合の姿

期待するシナジーに関する誤算の例からも、統合計画を立てるだけでは必ずしも想定するシナジー効果をすべて享受でき、失敗の可能性をなくせる訳ではないことが窺えますが、M&A計画段階であるべき統合の姿を予め描くことで、M&Aによる成功のイメージを持つことができ、失敗のリスクを減らすことに寄与できると考えています。

これより、デジタル社会におけるM&Aにおいて、デジタルテクノロジー活用を念頭においたあるべき統合の姿(イメージ)の例を紹介します。

企業統合においてコーポレート領域と工場領域では、譲渡企業と譲受企業との間で、双方の持つテクノロジーの利点を最大限活かす形での統合計画において、異なるイニシアティブが存在します。コーポレート領域においては、オペレーション効率化を図るため、基幹システム(ERP、WMS、MES等)を統一し、係る調達、製造、物流、販売、会計業務を標準化・自動化するための共通ITインフラ・ネットワークの構築が推進されます。他方で、工場領域においては、更なる省人化・自動化を図るため、ロボットや工場IOT等の活用により実現されている省人化・自動化の仕組みが展開されます。(図1)

 

テクノロジーシナジー効果最大化のための要諦

期待するテクノロジーシナジー効果を得るためには、どのようなことが必要でしょうか?

まず、M&Aの計画段階から自社のデジタル戦略と照らし合わせた上で、ディールにおいて見込むことのできるテクノロジーシナジーを明確にしていくことが肝要です。そして、ディールを進める中で、より詳細なシナジー考慮計画や効果獲得のための具体的施策案検討を実施することが必要となってきます。こうした入念な準備を行った上でテクノロジーシナジー施策を実行することで、期待する効果の得られる確度を高めていけるのではないでしょうか。

目指すべき対応方向性としては、最初のPre-M&Aフェーズから、自社デジタル戦略に基づいて、テクノロジーシナジー効果のM&A戦略立案への織り込み、デューデリジェンスへのテクノロジー(IT/OT/DT*1)関連分析のスコープ化することが望ましい対応となります。次にDealフェーズでは、BDD(ビジネス・デューデリジェンス)でのシナジー考慮計画へのテクノロジーシナジー観点織り込み、ITDD(ITデューデリジェンス)での統合を意識したテクノロジー(IT/OT/DT)関連分析を実施することが望ましい対応となります。そしてPre-PMI/PMIフェーズでは、PMI詳細計画におけるテクノロジーシナジー施策(自社案)の具体化に加えて、テクノロジーシナジー施策最終化、対象会社との合意形成およびテクノロジーシナジー施策実行とモニタリング、成果分析と見直しを実施することが在るべき姿と言えます。(図2)

*1 Digital Technology

 

おわりに

我々を取り巻く環境には、今後益々最新のデジタルテクノロジーが適用され、それらを上手く活用する個人・企業体だけが生き残っていけるようになることが想定されます。M&Aにおいては、従来のバリュエーション等の数値化も引き続き重要であるものの、デジタル戦略を描き、テクノロジーシナジーを目指した統合を計画し推進していくことがより重要であり、M&Aの成功を分ける大きな要素となるのではなっていくのではないでしょうか。今回発信させていただきました情報が、少しでも皆様が今後のM&A戦略を考える上で参考になりましたら幸いです。

(2025.2.25)

執筆者

早川 琢磨
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ディレクター

コンサルタントとして20年以上に渡り、基幹系他システムの構築(SAP、WMS、MES、SCM計画等)、経理/購買/サプライチェーン/アフターセールス業務改善(BPR)・業務委託(BPO)化の支援、プロジェクト管理・推進等に従事しており、近年は、製造業における生産性改善に向けた製造・物流オペレーション再構築、DX構想立案・ソリューション選定・導入支援およびM&AにおけるオペレーションDD、ITDD、工場DD、PMI支援を多数推進している。

※本ページの情報は執筆時点のものです。

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