第5回 不正が通報されにくい窓口 ブックマークが追加されました
第4回は内部通報制度の有効性を測る指標について述べました。その中で、ハラスメントなどの個人被害を訴える通報ではなく、組織不正関連の通報が通報全体に占める割合の高さを指標とすることの可能性を示しました。第5回は組織不正が通報される割合が低くなった調査結果をご紹介します。
下図は、組織不正の告発の割合と、窓口の運営方法を集計したものです。
「単一窓口で受付と一次対応」を見ると他と比べて組織不正が告発される比率が低いことがわかります。通報者から見ると調査体制や秘密保持が脆弱に映ってしまうのかもしれません。
一方で「単一窓口で受付けるが、一次対応から相応しい部門にエスカレーション」と「通報事案によって窓口を分けて複数設置」はほぼ同じ比率となっています。「複数の窓口を作るとどこに通報すべきかわかりにくく、かえって通報者が混乱するのではないか」という声を耳にすることがありますが、組織不正の告発比率については大きな差異がないことがわかります。
図1 内部通報制度の運営方法(行)と内部通報の中で不正の告発が占める割合(列)
下図は、組織不正の告発の割合と、企業が利用する外部窓口の種類を集計したものです。
顧問弁護士のみを外部窓口としている場合で組織不正が告発される割合が低くなっています。顧問弁護士のみが窓口を担当している場合、独立性への懸念等通報をためらわせる何らかの理由があるものと思われます。また、外部窓口を顧問弁護士のみとする回答は全体の55.7%と過半数を占めており、多数派となっています。
また、「顧問弁護士」、「顧問弁護士以外の法律事務所」よりも、「顧問弁護士、専用事業者等の組み合わせ」、「通報受付の専用事業者」を選択するほうが組織不正の告発比率が高い結果となりました。通報者から見て、組織不正を訴える通報こそ弁護士が関与する窓口の方が利用しやすいだろう、という印象をもっていましたが、結果はそうではありませんでした。
図2 外部窓口の種類(行)と内部通報の中で不正の告発が占める割合(列)
下図は、組織不正の告発の割合と、内部通報以外のコンプライアンス関連施策の実施を集計したものです。
コンプライアンス施策は複数回答となっており、定期、もしくは随時の内部監査を実施している場合に組織不正の告発が少ない結果となりました。
一方で、従業員を対象としたコンプライアンスサーベイ(アンケート調査)を実施している場合、不正の告発比率が若干高くなりました。この理由として、コンプラアンスサーベイが通常すべての従業員を対象に行うことが多いため、従業員が「会社に不正を抑制する意思がある」「声を聞いてもらえる」と感じやすくなり、その結果、内部通報制度を運営する組織自体に対する信頼、忠誠心が向上しているのでではないかと推測しています。
図3 内部通報制度以外で実施するコンプライアンス関連施策の種類(行・複数回答)と内部通報の中で不正の告発が占める割合(列)
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連載:内部通報制度の有効性を高めるために【第2部 調査結果から考察する内部通報制度の高度化】
亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。
和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社
J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。
※所属などの情報は執筆当時のものです。