Posted: 28 Jun. 2021 5 min. read

第4回 内部通報制度を通報件数で評価することの是非

連載:内部通報制度の有効性を高めるために【第2部 調査結果から考察する内部通報制度の高度化】

内部通報制度の整備は大多数の企業で完了

本調査では93.7%の企業で内部通報制度を設置済みでした。この傾向はこの調査を始めた2016年の94.3%から同程度で推移しています。

 

図1 内部通報制度の有無

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内部通報の件数を指標とできるか

大多数の企業で制度が整備済みということがわかりました。では受信している通報はどういったものでしょうか。筆者は通報件数が有効性に直接関係するとは考えていませんが、企業の担当者からは「経営陣から内部通報の件数が少ないことを指摘される」という声をよく耳にします。通報が何件以上あったら有効だ、とは一概には言えず、業種業態の違いでも通報件数は上下します。内部通報制度の良し悪しを計るために通報件数を指標とするのは難しいと思います。

下図は内部通報件数の推移です。10件未満が過半数を占めます。「件数を指標としている、あるいは受信件数を増やすことを求められている」という声を多く耳にするということは、内部通報件数は年々増加していくのが自然に思われますが、実はそれほど増えていません。
件数を指標とすることの是非はさておき、件数を伸ばすことは容易ではないと言えるでしょう。

 

図2 内部通報件数の推移

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内部通報件数以外の指標が必要-利用者に直接尋ねる

それでは何をもって評価すべきかですが、直接従業員に聞くのが合理的でしょう。完全匿名の従業員アンケート調査が現時点では最適なのではないかと考えています。
制度の認知、制度の利用経験、制度利用時の満足度、制度の利用をためらったことがあるか等の設問で内部通報制度の有効性を測ることができるのではないかと考えます。通報件数が多い場合でも、もしアンケートで「認知率が低い」「不正を知っても通報しない人が多い」等の結果が出た場合に、果たして、制度は有効に機能している、と主張できるでしょうか。
もしアンケート調査を採用するのであれば、重要なのは”完全匿名でなければならない”ということです。内部通報は通報者情報の秘匿、不利益取り扱いの禁止が肝になる制度ですので、アンケートも同様にプライバシーには気を配らなければなりません。年齢性別はもちろんですが、職位、勤務先の事業所すらも企業によっては個人特定の材料になり得ます。
また、通報が発生した場合は一連の対応が終了した通報者に、不利益取り扱いがあったか等の満足度調査を行うことも有効性を測る指標として活用できるでしょう。

その他、公益通報の本旨と筆者が考える組織不正の告発がどれだけ通報されているか、を指標として用いるのはどうでしょうか。
筆者は、内部通報制度とは社会や会社のためを思って通報するものであり、従業員本人の個人被害の軽減のために利用するものではない、と考えています。ハラスメント等の個人被害を訴えるものを内部通報制度で解決するのは困難と考える理由は本ブログ第2回や、第1部の第11回[1]で述べたとおりです。個人被害を通報しても通報者が内部通報制度に過剰な期待をもってしまい「会社がしっかり対応してくれない」といった不満を感じるケースが多くなってしまうのではないかと感じています。

下図は内部通報に占める組織不正の告発の比率を尋ねたものです。組織不正とは、ハラスメントなどの個人被害を除く不正のことを指します。
これをみると、通報件数の多寡によらず「実績がない」「1割未満」「1:9」を含めると大多数を占めます。多くの企業でハラスメントなどの個人被害の通報が多数を占めていることがわかります。

 

図3 内部通報件数(行)と内部通報の中で不正の告発が占める割合(列)

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下図は組織不正が占める割合の経年比較です。徐々にではありますが、確実に組織不正が占める割合が増えています。

 

図4 内部通報の中で不正の告発が占める割合

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通報件数に注目しがちですが、例えば重篤な組織不正が内部通報制度を介さずマスメディアに直接内部告発され第三者委員会が組成される事態になったと仮定して、以下の2つのケースではいずれの内部通報制度が、より有効だったと感じるでしょうか。

  • 直近1年間の通報実績は20件で、すべてハラスメント等の個人被害を訴える内部通報
  • 直近1年間の通報実績は1件だが組織的な不正に関する内部通報であり、解決まで至っている

いずれの場合も前提条件が”第三者委員会が組成され“ですので、どちらのケースであっても、結局内部通報制度は有効に機能していなかった、と結論づけられてしまうかもしれません。
しかし、前者に対しては、組織不正を通報しにくい制度の問題だったのではないか、後者に対しては、制度は機能していたが、なんらかの理由で今回の通報は内部通報制度を経由しなかったのではないか、つまりこの2例であれば後者の方がより有効性が高い、と筆者なら考えます。

次回は、組織不正の告発が通報されるようになるにはどうするかを述べていきます。

[1] 連載:内部通報制度の有効性を高めるために 第1部 第11回
https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/risk-management/2020/wcms-reject.html

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執筆者

亀井 将博/Masahiro Kamei
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
ISO/TC309 37002(Whistleblowing)日本代表兼国内委員会委員、元内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会委員。
金融機関、自動車関連、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わず内部通報の外部窓口サービスの提供、および内部通報制度構築を支援。
その他、リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
外部セミナー、インハウスセミナー講師を始め内部通法制度に関する寄稿記事の執筆多数。

 

和田 皇輝/Koki Wada
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社

J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。
2010年より内部通報制度関連業務およびソーシャルメディアコンサルタント業務に従事。
金融機関、自動車関連、建設業、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業、ITなど業種業態規模を問わず企業の対応を支援。
現在インハウスセミナー講師を始め内部通法制度構築助言や通報対応業務、ソーシャルメディア関連助言業務を担当。

 

※所属などの情報は執筆当時のものです。