Posted: 04 Feb. 2022 3 min. read

バイオコミュニティを束ねるネットワーク機関(米ボストン:MassBio)

【シリーズ】日本のバイオベンチャーエコシステムへの提言(Vol.2)

【Vol.2】バイオコミュニティを束ねるネットワーク機関(米ボストン:MassBio)

バイオテクノロジーを社会実装していくためには、アカデミア(研究機関)、大企業、バイオベンチャー、VC、医療機関等、多様なステークホルダーを束ね、その活動を最大化する存在が必要だ。その役割を担うネットワーク機関がボストン、ロンドン、サンディエゴ、ワーヘニンゲンなどバイオ産業が活性化している地域には存在する。このうちボストンはシリコンバレーと並んで、ライフサイエンス領域で世界最大のエコシステムを形成している。そこで著名なネットワーク機関『MassBio』を紹介する。[1]

本シリーズについて:近年、バイオテクノロジーは目覚ましい発展を遂げ、社会課題を解決し得る技術として、医療・健康のみならず、工業、環境、農業等様々な分野での活用が期待されている。我が国においてもバイオ領域での起業・投資が盛んになりつつある一方、日本のバイオベンチャーエコシステムは、依然研究シーズを事業化するに好ましい環境とは言い難く、大幅な巻き返しが望まれる[2]。当シリーズでは、デロイトの科学技術とビジネスのハイブリッドコンサルタント集団であるDTST(Deloitte Tohmatsu Science & Technology)にて実施した海外バイオコミュニティ調査を基に、今後日本が取るべきアクションや方向性に関して、事例を交えながら解説していく。(全6回予定)

MassBioの歴史は古く、設立は1985年まで遡る。ボストンはかねてよりハーバード大、マサチューセッツ工科大(MIT)といった世界的な研究機関に研究者が集まり、優れた研究成果を生み出してきた屈指の学術都市である。1980年代以降、BiogenやGenzymeなど、アカデミアから研究者がスピンアウト・創業するケースが増加し、スタートアップとの協業を模索する大手製薬企業(CVC)やベンチャーキャピタル、法律・会計・特許事務所、行政機関が特定地域に集積するようになった。このような状況を踏まえ、多様なプレイヤーを一つの傘の下に束ね、効率的にイノベーションを創出することを目的として、MassBioは誕生した。非営利組織であるMassBioは、メンバー企業の会員費によって運営されており現在の会員企業数は、1,400社を超える[3]。ボストンバイオコミュニティ内で活動する企業は、Mass Bioの会員となることで様々なメリットを享受できる仕組みになっている。

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具体的には、MassBioは以下に示す多様な取り組みを推進し、コミュニティ企業の成長やメンバー間のネットワーキングに寄与している。

■起業家支援プログラム(MassCONNECT)やアクセラレーションプログラム斡旋
・MassBio会員の研究者やバイオベンチャーに対し、コミュニティ内に属する連続起業家によるメンタリングやビジネス専門家による事業・知財戦略策定、資金調達支援などを実施

■インキュベーション施設(MassBio Hub)の提供
・バイオコミュニティの中心のケンダル・スクエアに位置し、数名規模の商談や数百名規模のカンファレンス・ピッチイベントに使用可能なスペースを提供。MassBio会員同士のコラボレーションを促進

■求人プラットフォーム(Career Center)の提供
・MassBio会員企業のみに求人情報投稿が許され、会員企業の人材確保を支援する他、バイオ系研究者に対するキャリア支援を実施。ボストンバイオコミュニティ内の高い人材流動性に寄与

さらに、MassBioは海外向けに積極的なアウトリーチを行うことでも知られる。MassBioが定期的に発行するIndustry Snapshotには、ボストンバイオコミュニティとして調達した資金調達額や、ボストン発バイオベンチャーのIPO/SPAC実績、プロジェクト進行中の創薬パイプラインなどが示されている。コミュニティ全体の魅力を可視化しており、世界中の研究者やバイオベンチャー経営者、機関投資家を惹きつけ、海外からヒト・モノ(シーズ)・カネを誘引している。こうして新たにコミュニティに参画したプレイヤーが更なる優れた研究成果・事業を生み出すことで、好循環を形成しているのである。

このような海外有力バイオコミュニティの成熟化において重要な役割を担ってきたネットワーク機関の取り組みは、日本が目指すグローバルバイオコミュニティ形成に向けた一つの道標となるだろう(Vol.3に続く)

[1] The Global Startup Ecosystem Report GSER 2021
[2]経済産業省『伊藤レポート2.0』(2018)
[3] MassBio 2021 Industry Snapshot

執筆者

森本 陽介/Yosuke Morimoto
有限責任監査法人トーマツ

薬事行政機関にて薬事行政に従事、医療系コンサルティングファームにてヘルスケア領域のコンサルティングを経て現職。地域におけるエコシステムの創出に向けて、多様なステークホルダーを巻き込んだ官民連携ビジネスの戦略立案と実行を支援。社会アジェンダ解決とイノベーション創出を基軸とした官民双方へのソリューション提示を得意とする。

 

小村 乃子/Noriko Omura
有限責任監査法人トーマツ

国内大手企業調査会社国際部及び国内大手シンクタンクにてリサーチ専門業務を経て現職。海外統計、海外情報データベース等のツールを用いた海外進出支援コンサルティングや海外のライフサイエンス施策におけるリサーチ経験を有する。その他、国内外のイノベーションエコシステム、アントレプレナーシップエコシステム分析や ODA関連のリサーチ業務に従事。

※所属などの情報は執筆当時のものです。

執筆者

森本 陽介/Yosuke Morimoto
有限責任監査法人トーマツ

薬事行政機関にて薬事行政に従事、医療系コンサルティングファームにてヘルスケア領域のコンサルティングを経て現職。地域におけるエコシステムの創出に向けて、多様なステークホルダーを巻き込んだ官民連携ビジネスの戦略立案と実行を支援。社会アジェンダ解決とイノベーション創出を基軸とした官民双方へのソリューション提示を得意とする。

 

小村 乃子/Noriko Omura
有限責任監査法人トーマツ

国内大手企業調査会社国際部及び国内大手シンクタンクにてリサーチ専門業務を経て現職。海外統計、海外情報データベース等のツールを用いた海外進出支援コンサルティングや海外のライフサイエンス施策におけるリサーチ経験を有する。その他、国内外のイノベーションエコシステム、アントレプレナーシップエコシステム分析や ODA関連のリサーチ業務に従事。

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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