Posted: 15 Feb. 2022 3 min. read

バイオベンチャーの事業成功の鍵を握るギャップファンド ~バイオベンチャーエコシステムとの連携が重要~

【シリーズ】日本のバイオベンチャーエコシステムへの提言(Vol.3)

近年、バイオベテクノロジー業界では、大学や研究機関からスピンアウトしたバイオベンチャーの存在感が増している。ゲノム編集や再生医療などの革新的な技術が進展する中で、特定市場をターゲットに効率的な研究開発を行うバイオベンチャーの役割は、今後ますます大きくなることが予想される[1]。

本シリーズについて:近年、バイオテクノロジーは目覚ましい発展を遂げ、社会課題を解決し得る技術として、医療・健康のみならず、工業、環境、農業等様々な分野での活用が期待されている。我が国においてもバイオ領域での起業・投資が盛んになりつつある一方、日本のバイオベンチャーエコシステムは、依然研究シーズを事業化するに好ましい環境とは言い難く、大幅な巻き返しが望まれる[2]。当シリーズでは、デロイトの科学技術とビジネスのハイブリッドコンサルタント集団であるDTST(Deloitte Tohmatsu Science & Technology)にて実施した海外バイオコミュニティ調査を基に、今後日本が取るべきアクションや方向性に関して、事例を交えながら解説していく。(全6回予定)

バイオベンチャーのような研究開発型企業が成功するためには、中長期的な目線で研究開発を支えるシームレスな資金供給が重要であり、そのためにはバイオベンチャーエコシステムを通じた円滑な資金供給が肝心だ。そのヒントとなり得る取り組みの一つとして、研究シーズの事業化成功の鍵を握るギャップファンドを紹介する。

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海外バイオコミュニティにおけるギャップファンドの役割


研究シーズの事業化段階では、シーズの実用可能性が検証できておらず、資金調達のためには事業計画の妥当性が問われる。また、市場ニーズに立脚した事業計画を投資家に的確に説明する高度なビジネスコミュニケーション能力が求められる。これは、ビジネス経験の無い研究者にとって非常に高いハードルと考えられ、PoC(Proof of Concept)費用の調達に苦戦し、投資を十分に受けられないまま事業化に至らないケースが散見される。

このような状況下では、基礎研究の事業化を目的にした、主に大学の学生や教員を対象に供給される返還不要の資金であるギャップファンドプログラムが有効と考えられる。しかしながら、文部科学省の調査によると、国内でギャップファンドを整備・活用している大学は約20%に留まっている[3]。 

一方、本連載の Vol.2 で紹介した米ボストンバイオコミュニティでは、コミュニティ内有力大学で整備された豊富なギャップファンドが研究シーズの事業化に奏効している。興味深いのは、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ボストン大学など、ギャップファンドプログラム内で多様なニーズに対応する約2万5千ドル~15万ドル程度の事業化資金を供給しているだけでなく[4]、バイオコミュニティとリレーションを持つメンターがプログラムに参画し、各ビジネス専門家(起業家、会計士、弁護士、コンサル、VC等)と連携、研究者にとってハードルが高い事業計画書や資本政策策定のハンズオン支援を実現している点だ。海外有力バイオコミュニティにおいては、ギャップファンドプログラムが単なる資金供給のみならず、バイオコミュニティと連携したビジネス面のハンズオン支援機能をも果たしている。この仕組みこそが、海外有力バイオコミュニティが優れた起業環境を実現していると言われる所以であろう。

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我が国においても、10兆円規模の大学ファンドの整備が進められており[5]、シーズの事業化を目的とした資金供給の充実化が図られようとしている。単なる資金供給に留まらず、研究者と各ビジネス専門家を橋渡しするMassBio(参照:Vol.2)のようなネットワーク機関の整備も並行して進め、研究者に対するビジネス面のハンズオン支援およびメンタリングを手厚く実施することが肝要となるだろう。潤沢な資金に加え、コミュニティとしてビジネスをバックアップすることにより、研究シーズ事業化の成功確率向上が期待できる。

次稿Vol.4では、研究者と密に連携し、研究シーズの事業化からグローバル展開まで一気通貫でハンズオン支援を行う、サイエンスのバックグラウンドを持ったベンチャーキャピタリスト集団について触れていきたい。

[1]経済産業省『バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会』(2017)
[2]経済産業省『伊藤レポート2.0』(2018)
[3]文部科学省『大学等におけるベンチャー創出支援体制の実態に関する調査」(2019)
[4]文部科学省『日米欧におけるギャップファンドの活用実績に関する調査』(2011)
[5]文部科学省『大学ファンドの創設について』(2021)

 

執筆者

森本 陽介/Yosuke Morimoto
有限責任監査法人トーマツ

薬事行政機関にて薬事行政に従事、医療系コンサルティングファームにてヘルスケア領域のコンサルティングを経て現職。地域におけるエコシステムの創出に向けて、多様なステークホルダーを巻き込んだ官民連携ビジネスの戦略立案と実行を支援。社会アジェンダ解決とイノベーション創出を基軸とした官民双方へのソリューション提示を得意とする。

 

小村 乃子/Noriko Omura
有限責任監査法人トーマツ

国内大手企業調査会社国際部及び国内大手シンクタンクにてリサーチ専門業務を経て現職。海外統計、海外情報データベース等のツールを用いた海外進出支援コンサルティングや海外のライフサイエンス施策におけるリサーチ経験を有する。その他、国内外のイノベーションエコシステム、アントレプレナーシップエコシステム分析や ODA関連のリサーチ業務に従事。

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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