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ポイント1:ゴール(目指すべき姿・なすべき行動)の焦点を定める

組織風土改革を成功させる3つのポイント

組織風土改革を成功させるポイントの1点目、『ゴール(目指すべき姿・なすべき行動)の焦点を定める』について詳述する。

「目指すべき姿」はなぜ重要か?

組織風土改革を進める上でまず欠かせないのが、「目指すべき姿」である。当たり前に思うかもしれないが、意外にもこの「目指すべき姿」が曖昧なまま、組織風土改革を進めようとしている会社は多い。

例えば、「チャレンジ」という言葉を「目指すべき姿」として掲げている会社があったとしよう。社員の多くが「チャレンジ」の重要性を理解し、日々の業務活動の中でも頻繁に「チャレンジ」という言葉が交わされている。非常に模範的な状況にも読み取れるが、「チャレンジ」の意味を聞いてみると、経営層・現場に関わらず一人ひとりが全く違うことを述べるのだ。このように、「目指すべき姿」が理解・浸透しているようで、実は全くもってそうではなかったということも珍しくない。

もう1つ事例を紹介しよう。ある会社では選りすぐりのメンバーでプロジェクトを立ち上げ、「目指すべき姿」について徹底的に議論し、こだわりを持ってこれを7つのメッセージで定義した。ところが、こだわったが故に数が多くて結局何からやればよいのか理解してもらえず、言葉としても定着せずに終わったのである。

これらのような状態では、当然ながら組織風土改革を進めようにも経営層から現場までが個人ごとに向いている先が異なるため、成功の可能性は限りなく低くなる。一方で、「目指すべき姿」が社員1人ひとりにとってわかりやすく、同じ解釈ができる言葉で共感を得られれば、それこそが組織風土改革の強力なエネルギー源となるため、「目指すべき姿」をきちんと定めることは非常に重要であると言える。

 

そもそも何のために「目指すべき姿」を目指す必要があるのか?

組織風土改革が求められる場面においては、(程度の差はあるが)社員に対して「これまでのやり方を捨て、全く新しい考え方・行動をとってもらう」ことになる。従って、これを社員に理解・納得してもらうためには、「なぜいままでのやり方を捨てる必要があるのか」「なぜその全く新しい考え方・行動が必要なのか」をきちんと明確化することが重要である。

加えて本来的には、組織風土改革そのものが目的ではなく、その先にある経営ビジョン・戦略の達成、持続的成長をしていくための組織風土改革であるため、中長期の経営ビジョン・戦略に紐づけて、「なぜ?」を明確化させることがより望ましいと言える。

※「目指すべき姿」の定義/再認識は、Mission/Vision/Valueで言うところのValue(共通の価値観や思考・行動様式)を再考することに繋がりうるが、本コラムでは割愛する

 

「目指すべき姿」に対する解釈は揃っているか?

「目指すべき姿」を有効に機能させるために最も重要なポイントの1つが、解釈である。先に挙げた例で言えば、「チャレンジ」といったキーワードを掲げたときに、この言葉を否定する経営層は恐らくいないだろう。一方、「チャレンジとは何を指すか?」と問われれば、ある人は「全く新しい取り組み」と述べ、ある人は「いまの取り組みをさらに加速させること」と述べるなど、経営層の中でも異なる意見を持っていることも決して少なくない。

ここで述べたいのは、異なる意見を持っているから悪いということではなく、実は解釈が異なることを見過ごした/見落としたまま、組織風土改革を進めることが最も危険であるということだ。様々な経営層がそれぞれ同じことを社員に伝えているはずなのに、どうにも社員が同じ方向を向いていない。これでは、いつまで経っても「目指すべき姿」には到達できない。

「目指すべき姿」を定める/見直すときには、まず経営層の間で各々がどのような考えを持っているのかを理解し合うことが必要である。具体的には以下の3つの問いを明らかにすると良い(図1)。

  • 変えてはならない(=今後も大事にしなければならない)価値観や思考・行動様式は何か?
  • 変えなければならない(または新たに会得しなければならない)価値観や思考・行動様式は何か?
  • (既に「目指すべき姿」がキーワードとして存在する場合)その「目指すべき姿」はどのような価値観や思考・行動様式を指しているか?

これらの問いについて経営層が意見を出し合い、違いを認め、それでも共通して持たなければならない価値観や思考・行動様式を議論して決めることで、一貫した「目指すべき姿」を創り上げることができる。

なお、この解釈や「目指すべき姿」を定義する場面においては、経営層だけでなく、改革におけるキーパーソンを巻き込んでおくと、後の展開も非常に円滑に進みやすいことを補足しておく(詳細はポイント2のコラムを参照)。

 

図1. 「目指すべき姿」定義の進め方
※クリックまたはタップして拡大表示できます

 

そのうえで、経営層一人ひとりが自分の言葉で「目指すべき姿」を語り、各現場ではどういう行動を指すのかを具体的に示しながら社員に発信・その行動を自ら示す過程で、経営層自らの組織風土改革が進むとともに、組織全体に波及する動きを作ることができると考える。

 

「目指すべき姿」にはどのような要素を盛り込むべきか?

これまで、「目指すべき姿」が経営ビジョンに準ずること、またその解釈を経営層から率先して理解し、揃えることの重要性を論じてきた。ではこれらを踏まえて、「目指すべき姿」には具体的にどのような内容を盛り込むべきか。当社では以下の5つの観点から「目指すべき姿」に盛り込むべき内容を議論するようにしている(図2)。

 

図2. 「目指すべき姿」に盛り込むべき要素
※クリックまたはタップして拡大表示できます

勿論この5つの観点が絶対というわけではないが、これらの観点は少なくとも社員が企業活動の中で行動指針を意識すべきシーンであり、①-⑤のシーンで社員一人ひとりが「目指すべき姿」を意識し実践することができれば、大概の場面で「目指すべき姿」に到達できていると言えるだろう。

 

「目指すべき姿」がわかりやすく焦点を絞ったものになっているか?

最後に、「目指すべき姿」をキーワードやコンセプト、言葉として定義・発信する際には、極力具体的かつシンプルな言葉で、社員が覚えられるボリュームで示すことをお勧めする。当社のコンサルティング経験の中でも、折角言葉は練られているのに、文字数やキーワードの数が多すぎて社員が覚えられず、結果浸透していないというケースを何度も目にしてきた。発信時の丁寧なコミュニケーション、展開後の浸透施策の実行時に社員に覚えてもらうための工夫や仕掛けが必要なのは勿論だが、出来る限り「数回聞けば覚えられる」程度のシンプルかつ端的な分量(可能であれば、キーワードは3つ以内に絞る)で「目指すべき姿」を定めることも、重要な要件の1つだと考える。
 

筆者:伊藤 拓哉(デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー)
※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。
 

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