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IR事業者(カジノ事業者)の参入規制と背面調査

統合型リゾート(IR、Integrated Resort) 

我が国におけるカジノを実現する手段として「世界最高水準のカジノ規制」が必要との方針が掲げられています。本稿では特定複合観光施設区域整備推進会議(通称、「IR推進会議」)の議論にも触れつつ、IR事業者(カジノ事業者)の参入規制の考え方と、カジノの負の面を払拭する手段の一つとして重要なプロセスと位置付けられる背面調査の概要を解説します。

I. はじめに

我が国におけるカジノを実現する手段として「世界最高水準のカジノ規制」が必要との方針が掲げられており「クリーンなカジノ」を目指した制度設計がなされています。

「世界最高水準のカジノ規制」を実現するためには、IR事業者がマネーロンダリングへの関与や反社会的勢力の関与の可能性がないこと、すなわち廉潔性を確保するプロセスを設ける必要があります。

 

II. 参入規制の考え方

世界最高水準のカジノ規制を達成するため、米国ネバダ州とシンガポールの規制をベンチマークとして、日本におけるカジノ事業の参入規制については、以下a.~f.を6つの原則として制度設計の検討が進められています。

<カジノ事業に係る参入規制の6つの原則>

原則

制度設計の方向性

原則a.
カジノ事業免許に基づく廉潔性確保と厳格な規制

 

カジノ事業者に対しては、免許制の下で厳格な規制を設けて、事業者及び関係者の高い廉潔性を確保すべきである
また、カジノ事業免許については更新制とすべきである

 

原則b.
カジノ事業免許の主体をIR 事業者に限定

カジノ事業免許を受けることができる主体は、一体性が確保されたIR 事業者に限定すべきである

原則c.
IR 事業者やその役員のみならず幅広く関係者の廉潔性等を背面調査により審査

IR 事業者、そのカジノ事業及び非カジノ事業部門の役員のみならず、IR事業活動に「支配的影響力」を有する外部の者等についても幅広く廉潔性等の審査の対象とすべきである

原則d.
株主等について認可制等で規制

カジノ事業免許に係るIR 事業者の株主等については、認可制等の下で、反社会的勢力の排除等その廉潔性を確保すべきである

原則e.
IR 事業者が行う取引(委託契約を含む。)についても認可制等で規制

非カジノ事業部門を含めIR 事業者が行う全ての事業部門における取引(委託契約を含む。)について、認可制等の下で、反社会的勢力等を排除すべきである

原則f.
カジノ管理委員会の体制を整備し、徹底した背面調査を実施

免許・認可の際の審査対象者のみならず、必要に応じて、あらゆる関係者(子会社等、2次・3次・それ以上の繋がりを有する者等を含む。)に対して、どこまででも徹底的な背面調査を行うべきである

出所:「特定複合観光施設区域整備推進会議(IR推進会議) 取りまとめ ~「観光先進国」の実現に向けて~」よりデロイト トーマツ作成

 

III. 諸外国における免許取得に関わる審査

諸外国を参考にすると、カジノ事業を行う場合、免許の取得が義務付けられていることが一般的です。

免許取得に先立ち、カジノ規制当局は、社会的信用、反社会的勢力との接点がないこと、犯罪歴がないこと、資金源を含む財政状態、運営・経営能力、経験、法令順守の組織内体制等の審査が実施されます。

また、カジノ事業者への免許交付に際しては、規制当局が背面調査を実施することが一般的になっています。

背面調査は、カジノ規制当局が免許申請者等に対して広範な情報提出を求め、その情報の確認を行い、分析結果を踏まえて追加情報を収集する等のプロセスを通じ、事業主体の廉潔性や事業運営の健全性等が確保されているか等を調査するプロセスとなります。

調査対象は、法人の役員や本人だけでなく、その配偶者、被扶養者等の親族、仕事上密接な関係を有する者等、カジノ規制当局が必要と判断したあらゆる関係者について調査されることもあります。

また調査の対象期間は過去一定年数(例えば、過去10年間)に遡って、情報提出が求められます。

調査に必要な費用の負担は免許申請者が負担することが一般的となっています。

<諸外国の事業免許の申請における確認事項の項目例>

調査事項

調査項目

一般(非財務)事項

・住所情報(過去の自宅の情報など)
・家族情報(婚姻情報、両親、子供、兄弟姉妹など)
・兵役情報(軍歴、退役、軍事裁判など)
・教育情報(高校以降の学歴)
・役員情報
・雇用情報
・刑事・民事訴訟記録
・犯罪情報(前科前歴)
・仕事で使用しているパソコンのデータやメールのデータ


財務事項

・過去一定期間の給与、その他の所得
・信託財産の保有状況
・過去一定期間の居住国以外における銀行口座の所有
・過去一定期間の個人的な外貨両替
・過去一定期間の一定額以上のローン実施
・証券会社、商品取引業者の口座
・銀行口座情報(金融機関名、口座番号、残高、入出金記録など)
・ローン、支払手形、その他の債務
・有価証券情報
・不動産情報(住所、登記情報、取得日など)
・金銭価値のある生命保険
・乗り物、絵画、コイン、アンティーク等のその他財産情報
・納税情報
・不動産担保情報
・偶発債務
・行政機関の先取特権や債務に関する訴訟提起
・破産宣告または倒産手続開始の申立て

出所:各国カジノ規制当局ホームページよりデロイトトーマツ作成

 

IV. 日本において考えられる背面調査

日本における背面調査の内容は、先行してカジノの合法化を認めている諸外国の例を踏まえ実施されることが想定されます。

背面調査の対象者は、カジノ事業に関連し利益を享受する範囲に及ぶと解され、カジノ管理委員会が調査に必要と考えるあらゆる関係者を対象とすることが検討されています。

背面調査の実施時期は、国がIR事業者に免許を付与するタイミングであるため、IR開業の直前と考えられますが、IR推進会議取りまとめの中でも「国が地方公共体を認定する段階で事業者に対して予備審査を行うのはどうか」、「国がガイドラインのようなものを示して、IR事業者の選定の段階で、地方公共団体に事業者の審査を一定程度行うプロセスを踏ませることも考えられる」といった議論がなされているように、地方公共団体による事業者選定の段階で、実質的な背面調査に相当する調査が実施される可能性があります。

IR事業者免許の申請を検討する事業者においては、背面調査に備え、事前の準備をする必要があると考えます。

デロイト トーマツ グループでは、背面調査に関連する以下のアドバイザリーサービスを提供します。

  • 我が国での議論及び諸外国の事例を踏まえた、役員、従業員及び地方自治体に向けた背面調査の解説
  • 企業に対するライセンス申請に向けた模擬調査
  • 個人に対するライセンス申請に向けた模擬調査 等

日本型IRの法制度の骨格となる、特定複合観光施設区域整備法(通称、「IR整備法」)上での背面調査制度の規定に関しては、連載「我が国のIRビジネス参入における法制度上の留意点」内の「カジノ管理委員会による背面調査 」に詳しく記載されていますので、ご覧下さい。

また、背面調査を実施するカジノ管理委員会に関するIR整備法上での規定に関しては、連載「我が国のIRビジネス参入における法制度上の留意点」内の「カジノ管理委員会の監督権限と背面調査 」に詳しく記載されていますので、ご覧下さい。

本記事に関して、より詳細な内容や関連資料等をご要望の場合は以下までお問いわせください。
IR(統合型リゾート)ビジネスグループでは、Deloitteのグローバルネットワークを活用し、海外事例等を踏まえたIRビジネスに関連する幅広い調査・分析を行っています。

IR(統合型リゾート)ビジネスグループ

info-irbg@tohmatsu.co.jp

IR(統合型リゾート)ビジネスグループとは

IR(Integrated Resort:統合型リゾート)実施法案の審議開始から免許交付までの間に、IRビジネスグループでは参入を目指す日本企業に対し、さまざまなアドバイザリーサービスを提供します。

また、カジノ施設の設置と運営にはさまざまな課題やリスクが指摘されています。そのため、IRビジネスグループでは、日本企業に対する事業支援サービスだけでなく、企業と自治体に対し、IR施設を設置・運営する上で懸念される課題と社会問題の解決に関するアドバイザリーサービスも提供します。

 

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