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IR事業に求められるスマートシティ(推進の仕掛け①)
データ利活用型スマートシティの取り組み推進に有効な仕掛け「推進組織と動機付け」
IR事業の誘致を推進している自治体の多くは、スマートシティ構想をRFP(Request for Proposal)等の提案要求項目に含めており、IRエリアのテクノロジーを利活用したソリューションの提供、および最先端技術の実践・実証、体験の場としたい意向が伺えます。
本記事では、先稿で解説した、海外のデータ利活用型スマートシティの先進事例から得られた示唆となる、3つの仕掛けの中から、「推進組織と動機付け」について解説します。
目次
- 産学官民の多様なステークホルダーによる推進組織が重要となる
- 目指す目標と推進する動機付けが重要となる
- 日本のIR事業におけるスマートシティの目標と推進組織の方向性
- IRのRFPを勝ち抜くためにはスマートシティ構想への取り組みが必須となる
- デロイト トーマツの各分野の専門家が連携し、日本におけるスマートシティの行政の推進と、企業のビジネス参入を支援します
産学官民の多様なステークホルダーによる推進組織が重要となる
IR区域およびその周辺地域においては、IR事業の運営を担う民間企業が中心となり、ボトムアップでデータ利活用型スマートシティの推進を主導することが想定されます。その際に欠かせない要素が、産学官民連携で組成される組織の存在です。
データ利活用型スマートシティの推進にあたっては、IR区域内外を含む、まちの様々なデータ(例:交通データ、人流データ等)を収集し、社会課題の解決に資するソリューションの開発、提供に活用します。
この際、民間企業のみが取り組みを主体的に推進する場合、データを取得されることに対する個人プライバシー保護を巡る不安や反発が生じることも想定されます 。
そのため、地域住民、NPO等が推進組織のメンバーとして関わることで、地域課題の解決策としてのスマートシティ推進の意義や、プライバシー保護に対する理解につながります。
また、データ利活用のために各種法規制を緩和すること、助成金や補助金といった形で実証実験を支援すること等、スマートシティの推進にあたっては、行政の果たす役割が非常に重要となります。
さらに、学術機関等から適切な有識者を巻き込み、データ利活用をリードする専門家を揃えることで、まちのステークホルダーが納得する形で活動を進められるでしょう。
データ利活用型スマートシティの推進にあたっては、テクノロジーに明るい人物が取り組みを主導していくことが求められます。オランダのアムステルダムの官民連携組織であるASC(Amsterdam Smart City)では、インフラ・テクノロジー企業等、テクノロジーに明るい専門家を組織の主要メンバーとして登用しています。特にASCのCTO(Chief Technology Officer)は民間コンサルティング会社出身で、アムステルダム市のCTOを兼務していることから、行政と民間の懸け橋として機能しています。
そして、ASCおよびCTOが、多様なステークホルダーを巻き込むためのアクションプランやコミュニティ活動の活性化を促し、ソリューション創出のサイクルを生み出しています。
また、多くのステークホルダーが連携してスマートシティを推進している事例としては、アメリカのオハイオ州コロンバス市が挙げられます。スマートシティの推進に必要な有力ステークホルダーを巻き込む手段として、コロンバス市内の民間企業CEO(Chief Executive Officer) 70名以上から成るColumbus Partnershipがハブとなって、ステークホルダーの巻き込みを推進しています。
目指す目標と推進する動機付けが重要となる
推進組織に求められる大きな役割の一つに、都市課題の特定と目標の設定があります。推進組織はまちのスマート化に際し、どのような課題にどうやってアプローチするのかをタイムラインと共に示し、多様なステークホルダーが関与し推進する動機を促す事が重要です。
上述したコロンバス市では、都市の目標・目指す姿として「交通渋滞、交通事故、乳児死亡率、貧困、失業などの課題を解決するため、2020年までに都市全体で効率的且つ効果的な人とモノの流れを実現する高度道路交通システムを整備する」ことを掲げています。
アムステルダム市は、温室効果ガスの排出量を1990年比で2025年までに40%、2040年までに75%削減することを目標に掲げ、スマートシティ実現に向けた取組みを推進し、「Digital City」、「Energy」、「Mobility」、「Circular City」、「Governance & Education」、「Citizen & Living」、「Smart City Academy」の7分野で300近い取組みを展開しています。
日本のIR事業におけるスマートシティの目標と推進組織の方向性
上記から、日本のIR事業においては、各自治体が抱える課題やスマートシティの取組み状況に応じて、目標や推進組織の役割を個別に検討する必要があります。
例えば、IRが開業するエリアでは、大量の観光客が訪れることが予想されるため、周辺地域における交通渋滞の緩和やオーバーツーリズムによる弊害を軽減させるための取り組み(スマートパーキング、MaaS等)を目標に置く必要があるでしょう。
また、既にスマートシティを推進する組織が存在する場合、IR事業者は当該組織に加わり、自治体が目指している課題解決に対してどのような貢献できるかという目線で提案をしていく方法が望ましいと考えられ、一方、スマートシティの推進がこれからの自治体では、IR事業者から積極的に推進組織を組成し、自治体をはじめとする多様なステークホルダーの参加を促しながら推進組織の役割を検討していく方向性が考えられます。
そして、IR事業者から、テクノロジーやまちづくりに強い、また国内のスマートシティに深い知見を要する人物を推進組織へ選出することで、IRとその周辺地域の懸け橋となることが期待できると考えられます。
IRのRFPを勝ち抜くためにはスマートシティ構想への取り組みが必須となる
RFPを勝ち抜くためには、下記のとおり、高度なプロジェクトマネジメント力とスマートシティにおける高度な専門知識といった、RFPの回答をまとめるレベルの高い取り組みが必要です。
- スマートシティ構想における市民、行政が抱えるまちづくりの課題や期待サービス、および提供する民間企業の事業スキームや事業性に関する課題や期待を深く読み取り、舵取りする高度なプロジェクトマネジメント
- スマートシティ構想におけるRFP回答をまとめるための、都市開発の知見、エネルギー領域、データ領域、モビリティ領域など多岐にわたる事業領域の知見、および要素技術の専門知識
デロイト トーマツの各分野の専門家が連携し、日本におけるスマートシティの行政の推進と、企業のビジネス参入を支援します
デロイト トーマツでは、Deloitteの海外ネットワークにより、海外都市のスマートシティに関する取り組みや成功事例・ベストプラクティスおよびその要因等の知見を数多く有しています。
デロイト トーマツは、企業のスマートシティに関するビジネス参入戦略の策定や事業計画の策定といったビジネス参入・事業化支援だけにとどまらず、法規制への対応やレピュテーションマネジメントなどのリスク管理の支援をおこないます。
また、スマートシティの推進を検討する地方自治体に対しても、基本構想、基本方針策定支援業務などのサービスを提供します。
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IR(統合型リゾート)ビジネスグループでは、Deloitteのグローバルネットワークを活用し、海外事例等を踏まえた、スマートシティに関連する幅広い調査・分析・助言も行っています。
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