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IR事業に求められるスマートシティ(推進の仕掛け②)
海外事例にみるデータ利活用型スマートシティの取り組み推進に有効な仕掛け「場づくり」
IR事業の誘致を推進している自治体の多くは、スマートシティ構想をRFP(Request for Proposal)等の提案要求項目に含めており、IRエリアのテクノロジーを利活用したソリューションの提供、および最先端技術の実践・実証、体験の場としたい意向が伺えます。
本記事では、海外のデータ利活用型スマートシティの先進事例を俯瞰した結果得られた示唆として、3つの仕掛けのうち、「場づくり」について解説します。
目次
- ソリューションの創出に必要な場づくりが重要となる
- 【必要な環境1】ステークホルダーへのベネフィットの設計と共有
- 【必要な環境2】ソリューションを創出しやすい環境
- 【必要な環境3】データ活用・循環の仕組み
- IRのRFPを勝ち抜くためにはスマートシティ構想への取り組みが必須となる
ソリューションの創出に必要な場づくりが重要となる
IR区域およびその周辺地域においては、IR事業の運営を担う民間企業が中心となり、ボトムアップでデータ利活用型スマートシティの推進を主導することが想定されます。
その際に欠かせない要素の一つが、まちの課題へアプローチするソリューションの創出に必要な下記の環境を整備することです。
<必要な環境>
- ステークホルダーへのベネフィットの設計と共有
- ソリューションを創出しやすい環境
- データ活用・循環の仕組み
【必要な環境1】ステークホルダーへのベネフィットの設計と共有
より多くのステークホルダーの参加を促すためには、各ステークホルダーがソリューションの創出に関与する事によって享受できるベネフィットを設計、かつ明確化することが求められます。
また、ベネフィットの設計に加え、各地域のスマートシティ構想との関連性や、その構想を達成するための戦略・戦術についても幅広く協議できる環境づくりにも注力する事が重要です。
ベネフィットの設計と共有にあたり、想定されるアクションとして下記が挙げられます。
- ステークホルダーとなる企業・団体のビジネス機会の特定
- ステークホルダーとなる住民や来訪者も当事者として参加を促す仕組みの整備
例えば、ポルトガルのカスカイス市では、スマートシティの取り組みに関与する事のベネフィットを設計(住民生活の向上、まちの知名度の向上、ステークホルダー間のネットワーク形成、将来の長期的なインセンティブ、研究成果の実行機会の獲得、市民に対する取り組み貢献ポイント付与など)することで、ステークホルダーからの参加、協力の獲得と、推進組織への継続的な関与による組織力強化に取り組んでいます。
IRにおいても、各地域が抱える課題に対して、ソリューションを提供できると見込まれる協力パートナーを選定し、具体的なベネフィットを提示することや、IRへの来訪者および地域住民に対して、各種取り組みに参加することのインセンティブが与えられるような環境を整備することで、多くのソリューションが生まれる事が期待されます。
【必要な環境2】ソリューションを創出しやすい環境
テクノロジー主導ではなく、課題解決主導型のソリューションを生み出すためには、よりハンズオンでの支援が必要です。その際、リビングラボの整備や支援プログラム等の提供が有効な打ち手となり、想定されるアクションとして下記が挙げられます。
- リビングラボのガイドライン策定
- テーマに応じた専門家からの協力
- 中小・スタートアップが必要なリソースのマッチング
フィンランドのヘルシンキ市では、カラサタマ街区全体をリビングラボとして捉えています。ソリューションを多く創出する仕掛けとしてのリビングラボを整備し、住民の約1/3が実証実験に参加し、取り組みテーマや課題に精通した専門家のアドバイス等を取り入れながら、アジャイル方式でソリューションの実証に取り組んでいます。
カラサタマ街区での各種取り組みには、100社以上のスタートアップ・中小企業が参加し、20個以上の実証実験、更に一部のソリューションが実用化されるなどの成果をあげています。
IRは国内外、老若男女を問わず、様々な観光客が来訪すること、そして多岐にわたる産業が関連する裾野が広い事業です。そのため、IR事業者はソリューション開発においても幅広い分野の中小・スタートアップに対して積極的に環境整備を提供することで、従来の発想にとらわれない、多様な顧客の体験価値向上につながるソリューションが創出されると考えられます。
参照:Smart Kalasatama, https://fiksukalasatama.fi/en/
【必要な環境3】データ活用・循環の仕組み
データ利活用型のスマートシティを構築するためには、データを活用し、更に生み出されたデータを循環して再度活用する仕組みを整える必要があることから、都市OSといったデータプラットフォームの整備やデータ管理方針の策定が求められます。想定されるアクションとして下記が挙げられます。
- 領域横断データプラットフォームの整備
- 外部知見を活用したデータ管理方針の策定
例えば、ポルトガルのカスカイス市では、都市OSとなる「CitySynergyTM」を構築し、新しいソリューションに加え、既に提供されているソリューションとも連携することで、領域横断の分析や意思決定、ステークホルダー間の連携が促進されました。その結果、具体的な成果として、スマートストリートライトによる年間88%のエネルギー消費量削減 (年間約290トンのCO2削減)や、廃棄物管理により年間60万ユーロの削減、年間350トンのCO2削減、さらに市民の満足度が83%から93%に向上しました。
IRにおいても、データ利活用型スマートシティの構築に欠かせない基盤となる都市OSを開発・整備し、様々なデータ収集と分析環境を提供することで、各地域の課題にカスタマイズされたソリューションの創出を下支えることができます。
IR区域内においても、国内外からの来訪者個々の趣味・嗜好に合ったパーソナライズドサービスの提供や、IR区域全体を快適に過ごす環境づくりの実現につながるうえ、長期的には、IR区域外とも様々な方法でデータ連携することで、より広範囲におけるデータ収集と分析に基づいた、ソリューションの創出につながると考えられます。
IRのRFPを勝ち抜くためにはスマートシティ構想への取り組みが必須となる
RFPを勝ち抜くためには、下記のとおり、高度なプロジェクトマネジメント力とスマートシティにおける高度な専門知識といった、RFPの回答をまとめるレベルの高い取り組みが必要です。
- スマートシティ構想における市民、行政が抱えるまちづくりの課題や期待サービス、および提供する民間企業の事業スキームや事業性に関する課題や期待を深く読み取り、舵取りする高度なプロジェクトマネジメント
- スマートシティ構想におけるRFP回答をまとめるための、都市開発の知見、エネルギー領域、データ領域、モビリティ領域等多岐にわたる事業領域の知見、および要素技術の専門知識
デロイト トーマツの各分野の専門家が連携し、日本におけるスマートシティの行政の推進と、企業のビジネス参入を支援します
デロイト トーマツでは、Deloitteの海外ネットワークにより、海外都市のスマートシティに関する取り組みや成功事例・ベストプラクティスおよびその要因等の知見を数多く有しています。
デロイト トーマツは、企業のスマートシティに関するビジネス参入戦略の策定や事業計画の策定といったビジネス参入・事業化支援にとどまらず、法規制への対応やレピュテーションマネジメントなどのリスク管理の支援をおこないます。
また、スマートシティの推進を検討する地方自治体に対しても、基本構想、基本方針策定支援業務などのサービスを提供します。
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IR(統合型リゾート)ビジネスグループでは、Deloitteのグローバルネットワークを活用し、海外事例等を踏まえた、スマートシティに関連する幅広い調査・分析・助言も行っています。
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info-irbg@tohmatsu.co.jp
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