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最新動向/市場予測
じわりと高まる海上貿易のストレス
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.107
マクロ経済の動向(トレンド&トピックス)
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
シニアマネジャー
市川 雄介
日本経済の生命線とも言えるグローバルな海上貿易が、このところストレスに晒されつつある。主要航路の平均コンテナ運賃は、コロナ禍によるロックダウンとその後の経済再開という混乱期(2021〜22年)を乗り越えてからは下落基調にあったが、イスラエル・ハマス紛争に伴いイエメンのフーシ派が紅海における船舶への攻撃を激化させたことで、昨年末から上昇に転じた(図表1)。上昇の動きは一旦ピークアウトしていたものの、4月以降は再び反転し、6月下旬時点ではおよそ2年ぶりの高水準に達した。当初、紅海の状況は大きな混乱なく対処可能という見方が多かったが、需要の増大やアジアにおける悪天候などが重なる中で運航能力の余裕が失われ、運賃上昇に弾みがついたようだ。製品を運ぶコンテナ以外にも、鉄鉱石や石炭、穀物等を運搬するドライバルク船や、各種の原油・石油製品を運搬するタンカーの運賃も、同じく上昇基調を強めている。
図表1 海上貨物輸送の運賃
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以上の運賃はグローバルな平均値であるが、エリアを絞ってみると窮状が一段と鮮明になる。海上航路の主要なチョークポイント(通航に支障が生じると大きな影響が出る要衝)における荷動きを確認すると、フーシ派攻撃の影響が直撃するスエズ運河の通航量が激減し、代わって迂回ルートとして喜望峰経由の荷動きが急増していることがわかる(図表2上)。変動の大きさは過去に例がなく、極めて強いストレスがかかっている状況だが、内訳を見ると特にコンテナ船への影響が大きい(図表2下)。
最も警戒されている中東以外のチョークポイントでも、昨秋頃から荷動きに下押し圧力がみられることに留意したい。例えば、ウクライナ戦争の影響を受けるボスポラス海峡の通航量は、2023年入り後は持ち直しの動きがみられたが、足許にかけて再び下落が鮮明になっている。また、地政学リスクに限らず、干ばつによる水位低下を受けて通航制限が長期化したパナマ運河のように、気候変動要因が影響しているケースもある。ボスポラス海峡やパナマ運河は紅海周辺と異なり、ドライバルクやタンカーが大半を占めることから(図表2下)、これらの地点における航行の遅延や運賃・通行料の上昇は、各国にとってはエネルギーや穀物の輸入価格を押し上げる要因となる。なお、日本が輸入する原油の大半が通過するホルムズ海峡や、中国による海上演習が増えつつある台湾海峡では、今のところ大きな異常はみられていない。
図表2 主要なチョークポイントにおける荷動き(上)と内訳(下)
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各種運賃は上昇していると言ってもコロナ禍後の急騰局面に比べれば水準は低く、現時点で影響を過大視する必要はない。ただし、イスラエル・ハマス紛争もウクライナ戦争も出口は一向に見えず、パナマ運河に影響した異常気象も世界的に頻度が増していることを踏まえれば、海上貿易の乱れを一過性のものと割り切るべきではないだろう。
日本経済への影響については、直接的には海上運賃の上昇が国内のインフレ圧力となる。企業間サービスの価格動向を把握する企業向けサービス価格指数(SPPI)をみると、これまでも外航貨物輸送料が一定の押し上げ要因となってきたことがわかる(図表3)。すなわち、外航貨物がSPPIに占める割合は1%未満と小さいが、大きく上昇した2022年にはSPPI全体の上昇率2%のうち、0.5%程度を占めていた計算だ。企業が支払う運賃の上昇は、消費者・企業向けの最終製品やサービスの価格に転嫁されていくことになる。
図表3 日本の企業向けサービス価格上昇率の推移
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執筆者
市川 雄介/Yusuke Ichikawa
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター シニアマネジャー
2018年より、リスク管理戦略センターにて各国マクロ経済・政治情勢に関するストレス関連情報の提供を担当。以前は銀行系シンクタンクにて、マクロ経済の分析・予測、不動産セクター等の構造分析に従事。幅広いテーマのレポート執筆、予兆管理支援やリスクシナリオの作成、企業への経済見通し提供などに携わったほか、対外講演やメディア対応も数多く経験。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて修士号取得(経済学)。