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最新動向/市場予測
金融セクターにおけるAI規制・政策の現状と今後の見通し
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.108
金融規制の動向(トレンド&トピックス)
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ファイナンシャルサービシーズ
楠田 祥也
近年、金融業界における人工知能(AI)の利活用が進んでいる。金融機関は、機械学習や生成AI等を活用することで、業務効率性の向上やコスト削減等を図ることができる。その一方で、AIの利用は、金融機関や金融サービスの利用者に対して様々なリスクをもたらす可能性がある。こうしたリスクに対処するために、世界の政府や規制当局は政策的な対応を進めている。本稿では、主に海外の金融当局等におけるAI関連の規制・政策動向を概観した上で、今後の見通しを考察する。
AIの規制政策を巡っては、各国・地域の政府や金融当局から様々な法令・ガイダンス等が公表されている(図表1)。例えば、米国では、2023年10月にバイデン政権がAIの開発・使用に関する大統領令を公表した。この大統領令に基づき、米国財務省は2024年3月に、AIに特有のサイバーセキュリティリスク管理に関する金融機関向けの報告書を策定した。財務省は2024年6月には、金融セクターにおけるAIの使用等に関する意見募集も行っている。同様に、米国の証券当局も金融・資本市場におけるAIの規制・監督アプローチの検討を進めている。具体的には、米国証券取引委員会(SEC)は2023年7月に、ブローカーディーラーや投資顧問業者に対し、予測データ分析やAI等を使用する際に投資家との利益相反に対処することを求める規則案を公表した。
これに対して、英国では、業界横断的なAIの規制枠組みの整備が進んでいる。英国政府は2024年2月、AI規制に関する白書に対する意見募集の結果等を公表した。この中では、業界共通の5つの原則(①安全性・セキュリティ・堅牢性、②透明性・説明可能性、③公平性、④説明責任・ガバナンス、⑤競争可能性・是正)に基づくプリンシプルベースの規制アプローチが定められた。また、英国金融当局も金融セクターにおけるAIの規制方法について独自の検討を進めている。健全性規制機構(PRA)と金融行為規制機構(FCA)は、健全性・コンダクト規制の観点から、金融サービスにおけるAI・機械学習の使用に関するディスカッションペーパーを策定し、2023年10月にその意見募集の結果等を公表した。もっとも、これは寄せられた意見を整理したものであり、金融当局としての政策提言や将来的な規制案等を示すものではない。
さらに、欧州では、世界に先駆けて、AIの包括的な規制枠組みが成立している。EU理事会は2024年5月、AIに関する統一的なルールを定めるAI規則案(AI法案)を採択した。欧州AI法の特徴は、リスクベースのアプローチを採用している点である。すなわち、AIはリスクに応じて分類され、リスクの高いAIシステムにはより厳しい要件が適用されることになる。なお、企業が同法に違反した場合には、全世界売上高の一定割合または所定の一定額の制裁金が課せられる。このほか、欧州では金融サービスにおけるAIの規制整備を図る取組みも行われている。例えば、欧州委員会は2024年6月に、金融セクターにおけるAIの利用に関する意見募集を開始した。また、欧州証券市場監督局(ESMA)は2024年5月、リテール向けの投資サービスの提供においてAIを使用する金融機関に対し、第2次金融商品市場指令(MiFID II)の要件遵守を期待するステートメントを公表した。
以上のように、諸外国では金融セクター等におけるAI規制・政策の検討や導入が進んでいる。こうした中、世界の政府や金融当局等は、AIの利用に伴うリスクに対処するために、今後も規制・監督の強化を継続すると見込まれる。国際的な動きとしては、金融安定理事会(FSB)は2024年11月に、AIの金融安定上のインプリケーションに関する報告書を公表する予定である。この報告書を受けて、各法域の金融監督当局や中央銀行は、AIが金融システムに及ぼすリスクの監視を一層強化する可能性がある。また、各国・地域の動きとしては、例えば、欧州では2025年からAI法の段階的な適用が開始し、大部分の要件は2026年から適用される見通しである。同法に違反した場合には高額な制裁金が課せられる可能性があることから、対象企業にはより厳格な規制対応が求められるだろう。このように、今後も世界的なAI規制の強化が予想される中、金融機関はこれらの規制動向を踏まえた上で、AIの活用を進めつつ内部リスク管理態勢の強化を図る必要があろう。特に、セキュリティ、透明性、ガバナンスの確保といった既存のリスク管理上の措置に加え、今後はAIの使用に伴う公平性(倫理)や著作権等に対するリスク認識を高めることが重要になると考えられる。
図表1 金融セクターにおける最近のAI関連規制・政策の動向
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執筆者
楠田 祥也/Shoya Kusuda
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ファイナンシャルサービシーズ