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暗号資産に関するプルーデンス規制の枠組み:自己資本規制と開示における取扱い

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.109

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ファイナンシャルサービシーズ
楠田 祥也 

銀行の暗号資産エクスポージャーに関するプルーデンス規制の枠組みの整備が進んでいる。近年の暗号資産や関連サービスの拡大は金融システムや銀行の健全性にリスクをもたらす可能性があり、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は2019年以降、関連する国際基準の策定に取り組んできた。本稿では、これまでにBCBSが公表した最終規則文書等をもとに、特に自己資本規制と開示における暗号資産の取扱いを概観した上で、本邦銀行への潜在的な影響を検討する。

プルーデンス規制における暗号資産の取扱いを巡っては、2022年12月にBCBSから最終規則文書が公表された。これは、バーゼル規制枠組みにおける暗号資産エクスポージャーの取扱いに関する国際基準を定めたものである。具体的には、自己資本規制、流動性規制、レバレッジ規制、大口エクスポージャー規制、情報開示等における暗号資産の取扱いの明確化が行われている。このうち、自己資本規制に関しては、分類要件をもとに暗号資産を2つのグループに分けた上で、グループごとに異なる資本賦課を行うことが求められている。すなわち、一連の分類要件を全て満たすグループ1の暗号資産(トークン化された伝統的資産、ステーブルコイン等)については、既存のバーゼル規制枠組みに基づいた資本賦課が行われる。例えば、信用リスクの計測においては、銀行勘定で保有するトークン化された社債には、トークン化されていない社債と同じリスクウェイトが適用される。他方、分類要件を1つでも満たさないグループ2の暗号資産(裏付資産のない暗号資産、アルゴリズム型ステーブルコイン等)は、より高いリスクをもたらすとみなされ、保守的な資本賦課が要求される。特に、ヘッジ認識基準(高い流動性を有すること等の基準)を満たさないグループ2bと呼ばれる暗号資産(ビットコイン等)に対しては、1250%のリスクウェイトが適用される。さらに、グループ2の暗号資産エクスポージャーについては、銀行のTier1資本の2%を超えてはならず、通常は1%以内に制限することが求められている。なお、BCBSは暗号資産市場の急速な発展を踏まえて、当該基準の更なる改善や明確化を行う可能性があると言及している。実際に、BCBSは2024年7月に、現行の暗号資産基準に関する一連の対象を絞った改訂を最終化している。具体的には、ステーブルコインがグループ1bの暗号資産に分類され、規制上の優遇措置を受けるための要件に関する一部改訂等が行われた。

また、暗号資産エクスポージャーの開示上の取扱いに関しては、2024年7月にBCBSから最終文書が公表された。これは、プルーデンス規制に関する最終規則文書に含まれる開示要件に基づき、標準化された一連の開示テンプレート等を定めたものである。BCBSは、銀行向けの共通のテンプレート等を導入することで、開示の一貫性向上や市場規律の促進を図ろうとしている。こうした枠組みの下で、銀行は暗号資産に関する定性・定量情報を開示する必要がある。前者については、銀行の暗号資産関連の活動や関連するリスク等に関する定性的な情報開示が求められている。また、後者については、主に暗号資産エクスポージャーに関連する自己資本・流動性要件(信用リスク、市場リスク等)に関する定量的な情報開示が要求されている。もっとも、一部の開示要件は、銀行の重要な暗号資産エクスポージャーを対象としている。BCBSは最終文書において、特にグループ2の暗号資産に適用される重要性の概念に関する明確な定義を導入している。

このように、銀行のプルーデンス規制においては、自己資本規制や開示を中心に暗号資産の取扱いの明確化が図られている。BCBSが公表した暗号資産に関する上記の基準は、いずれも2026年1月1日から施行予定である。各法域の当局は、この期日までにBCBS基準の国内実施に向けた取組みを進めることになる。例えば、アジアでは、2024年2月に香港金融管理局(HKMA)が、BCBS基準に基づいた暗号資産エクスポージャーに関する規制枠組み案の市中協議を開始している。他方、本邦では同様の国内実施に関する取組みは進んでいない状況である。今後、BCBS基準が実施された場合、銀行の暗号資産関連ビジネスには著しい影響が及ぼされると想定される。例えば、BCBSは2024年7月の基準改訂の際に、ステーブルコインがグループ1bに分類されるための要件として、安定化メカニズムに関するデューデリジェンスや統計テストの実施等を追加的に要請している。これにより、銀行が暗号資産を正確に分類するためには、相応の規制対応コストが発生すると見込まれる。また、グループ2bの暗号資産に対しては、保守的な資本賦課やエクスポージャー制限が適用されることから、銀行がこうした暗号資産を保有することは困難になるであろう。もっとも、諸外国と比べると、本邦では、暗号資産交換業者の登録・監督や、金融商品取引法上の暗号資産取引規制の整備が早い段階で進められており、暗号資産に対しては比較的厳格な規制・監督が行われている。こうした背景もあり、本邦の銀行は暗号資産関連の活動に対して慎重な姿勢を維持しているため、BCBS基準が国内で実施されたとしても、銀行への影響は限定的になると考えられる。世界的には暗号資産市場の拡大が見込まれる中、関連ビジネスを検討している本邦銀行にとっては、こうしたプルーデンス規制が自社に及ぼす影響を評価した上で、適切なリスク管理やガバナンスの枠組みを確立することが重要であろう。

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執筆者

楠田 祥也/Shoya Kusuda
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ファイナンシャルサービシーズ

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