最新動向/市場予測

一段と流動化する国際秩序:最近のBRICSを巡る動き 

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.112

リスクの概観(トレンド&トピックス)

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
廣島 鉄也

トランプ氏が米国の大統領に返り咲くこととなった。第2期トランプ政権の政策は、米国のみならず、世界の政治経済に大きな影響を及ぼし得るものであり、各国の政府や企業は高い関心を寄せている。

トランプ氏が唱えている財政面からの景気刺激や規制緩和による米国企業のサポートは、米国経済に押し上げ方向の力を加える。このこと自体は世界経済にプラスとなる。しかしながら、米国経済が依然、個人消費を中心に強めに推移していることを踏まえると、一段の景気押し上げが物価に与える影響には注意する必要がある。仮に、関税の引き上げが広範に、かつ大きな幅で行われ、さらに各種の移民抑制策が厳密に行われれば、物価にはさらなる上昇圧力が加わることとなる。そのような展開となった場合、連邦準備制度理事会(FRB)の利下げシナリオは見直しを迫られ、金融面のストレスは強まるといった展開もあり得る。

ここで注意が必要なのは、一連の公約の実行スピード、その実現度合い、さらにはそれらが経済物価に影響を及ぼすまでのラグを考慮した場合、想定される効果がどのようなタイミングで、どの程度顕現化するかについては、不確実性が極めて高いということである。金融資本市場では、想定される効果を先取り的に一気に織り込もうとするような動きも見られるが、企業としては、各種の影響が出るタイミング、度合いを丹念に見極めつつ、様々なシナリオを用意して対応策を検討する必要があろう。

国際政治の面では、米国がIPEF(インド太平洋経済枠組み)といった多国間協調の枠組みへのコミットを弱める、ないしそもそも枠組みから離れる動きが再び見られるようになり、各国は独自の連携枠組みの強化や二国間の連携強化に向かうものと考えられる。こうした中、既にみられているような、先進国を中心とする既存の国際秩序の流動化が一段と進展し、いわゆるグローバルサウス諸国の相対的な重要性が増していくことが想定される。

このような脈絡において、最近のBRICSを巡る動きは注目に値する。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、当初、投資先として期待される新興国のニックネームとして誕生し、2009年から年次首脳会議が開かれるようになったが、特段の動きがない状態が続いていた。しかしながら、2023年の年次総会で加盟国の増加を発表。現在はオリジナルの5か国に、イラン、エジプト、UAE、エチオピアの4か国が加わり9か国体制となった。さらには、タイ、マレーシア、インドネシアといったアジア新興国をはじめ、多くの国が加盟を希望し、「パートナー国」という形で参画するとされている。

これまで新興国の多くは、既存の国際機関や国際フォーラムで地位を向上させることを目指してきたが、このように既に独自の連携枠組み作りを始めている。また、ロシアやイランといった欧米による制裁対象国がメンバーとなっている枠組みに、比較的大きな新興国が次々に加盟を希望するといったことは、少し前であれば考え難かった。この点も新たな動きと言える。BRICSは、国家間で貿易決済などを行う新通貨やSWIFTに相当する国際送金システムの創設に関する議論を行っている。実効性がある国際金融制度やインフラの構築は容易ではなく、この部分に関しては強い懐疑論が多く聞かれているが、やはり今後の動きはフォローする必要があろう。

企業が国際戦略を考え、グローバル・サプライ・チェーンの見直しを行っていく上では、今後の米国による関税引き上げの直接的な影響や米中関係の行方が最大の注目点だが、既存の国際秩序が一段と流動化し、多くのグローバルサウス諸国が独自の動きを取り始めていることも、次第に重要な変数になっていくものと考えられる。

リスク管理戦略センターの活動内容については、以下よりご覧ください

リスク管理戦略センター(CRMS)トップページ

CRMSによる最新情報をお届けします。

リスク管理戦略センター(CRMS)サービスポータル

CRMSの専門家による著書、執筆記事、ナレッジなどを紹介します。

執筆者

廣島 鉄也/Tetsuya Hiroshima
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、マクロ経済、地政学リスク、リスク管理高度化など、幅広いアドバイザリー業務を提供する。
日本銀行で、金融政策運営のほか、グローバル経済や内外の金融市場の調査、金融機関のモニタリングといった、幅広い政策関連業務に従事。国際部門の業務やIMFへの出向などを通じ、国際金融分野の仕事も多く経験。...さらに見る

お役に立ちましたか?