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利上げ影響の顕在化が押し下げ要因に:2023年経済見通し
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.85
リスクの概観(トレンド&トピックス)
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎
来年2023年の主要国・地域の経済見通しは、総じて明るいとは言いにくい。米欧の金利引き上げ、欧州のエネルギー供給制約、インフレなどが本来の各国の成長力を抑制することになるとみる。当方の8月中旬時点のベースライン見通しは【図表1】の通りである。米国・欧州(ユーロ圏)で2022年比成長が減速する一方、中国と日本では加速する見通しの数字としているが、以下に述べるようにその背景は国・地域毎にまちまちである。
【図表1】実質GDP成長率ベースライン見通し
米国の来年の成長減速の主因は、FRBの利上げによる景気抑制効果の示現である。来年にかけ利上げの影響が遅行的に顕在化するのは企業部門だとみている。米国証券金融市場協会(SIFMA)調査によれば、米国における社債発行額は、2020年以降低金利環境で急増していたが、2022年の6月までの発行額は前年同期比26.3%減少している1 。金利上昇により社債借り換え環境が悪化すれば企業はこれまでのように潤沢なキャッシュフローを享受できず、ひいては雇用や賃金の抑制につながろう。また金利上昇による住宅ローンや自動車ローン借り入れ抑制効果が更に経済活動を押し下げよう。欧州は、インフレ率が他国比高く個人消費への影響が大きいとみられるほか、天然ガスなどエネルギー供給の制約が経済活動全体を抑制することから、2023年はほぼゼロ成長とみている。中国は、今年のゼロ・コロナ政策に伴う大型ロックダウンによる成長急減速のリバウンドで表面上は2023年に成長率は高まるものの、ここでもインフレによる消費減退や電力不足などが実態的な回復を遅らせよう。日本は、今年の新型コロナウイルス感染拡大で経済活動回復が遅れた分、来年には個人消費や設備投資が底堅く推移するとみる。
こうしたベースラインの見通しに対して、各国・地域では更なる下方リスクが存在する。米国の場合、利上げにもかかわらずインフレが鎮静化しないリスク、利上げが株価などのリスク資産価格を急落させて見通し以上の景気低迷をもたらすリスクがある。欧州は、ロシアからの天然ガス供給が完全に遮断された場合、あるいはエネルギー供給の不確実性が継続した場合、経済への影響は更に大きくなろう。またインフレなどへの不満を背景とした政治リスク等が南欧諸国の国債利回りを上昇させ、ソブリンリスクを高める可能性もある。イタリア、ドイツ、フランスなどの内政は不安定で、経済・外交リスクへの対処能力に不安がある。中国ではコロナ以外でも、不動産市場の悪化、銀行の不良債権など構造的な課題が多い。特に最近新たに目立つのは、住宅ローン借入者による返済拒否など、銀行システムに直接影響する社会の動きが広がっていることである。日本はコロナが依然経済活動を抑制する可能性があるほか、海外経済の影響(輸出)、インフレ(原材料輸入)など外的要因が成長を抑制するリスクがある。
こうしたリスク要因を大まかに色分け比較したのが【図表2】である。インフレ率が低下せぬままに景気の低迷が長引く状態が継続する、いわゆるグローバルなスタグフレーションのリスクは依然存在していると言える。図表からも明らかな通り、2023年にかけての経済等の下方リスク要因は欧州と中国において多いと言えるが、特に日本への影響が大きいのはやはり中国の動向であろう。当方試算によれば、中国の経済1%減速は日本経済に約0.3~0.4%の減速をもたらす計算になる。国内固有のリスク要因は大きくはないものの、海外の経済動向に左右されやすい日本については、国内の財政政策や金融政策のみではコントロールできないリスクがある。企業においては引き続きグローバルなリスク動向の把握と影響度評価が必要であろう。
【図表2】2023年にかけての主なリスク要因
index
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執筆者
勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター
リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る