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製造業の回復がカギ:アジア地域の経済動向
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.98
リスクの概観(トレンド&トピックス)
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎
中国経済動向に注目が集まる中、東アジア・東南アジア地域においては景気動向にかなりのばらつきがみられる。現在これらの地域が新たなグローバルリスクの震源地となる蓋然性は低い。他方、アジア各国・地域はその貿易相手国である中国や米国の経済環境、また半導体・電子部品など特定産業のグローバルな動向の影響を受けやすく、いわばかかる経済・産業動向の鏡の役割を果たすこともある。したがってアジア各国・地域の経済動向を定点観測しておくことは、本邦企業にとって現地ビジネスの有無にかかわらず有益なことであろう。
2023年のこれまでの東アジア・東南アジア経済に共通する動きは、輸出入の停滞で製造業が景気の足を引っ張る形になっていることである。世界的な貿易の縮小動向と同じく、アジア主要国でも輸出と輸入の前年比の伸びがいずれもマイナスに転化している国が多く、特に経済成長を外需に頼っている国にとっての痛手となっている。
一つの例は、半導体や電子部品の輸出国・地域が、昨年後半からの半導体サイクルの悪化に直撃したケースで、韓国、台湾、ベトナムがこれに当たる。これらの国・地域は中国などアジア圏やASEAN域内のみならず、米国などグローバルな市場を相手に生産輸出をしており、グローバルな半導体市況の悪化により、2022年末から今年の前半にかけて経済が失速した。もっとも、グローバルな半導体市況サイクルもまもなく需給が好転に転じると考えられることから、今後これらの国・地域の経済も底入れしよう。
次に、たとえばタイでは、コロナ禍において大幅に減少した観光収入がまだ十分に回復していないことに加え、総選挙後の組閣をめぐる政治空白などもあり内需や政府支出の減少が経済回復の足かせとなっている。また同国ではASEAN、米国、中国を主たる相手方とする、一般機械・電気機器・輸送機器など財の輸出が低迷している。マレーシアでは、内需やサービス輸出は堅調であるものの、ASEAN、中国、米国向けの電子機器などの輸出の低迷が成長の足かせとなっている。これらの国の景気の悪化度合いは先の三つの国・地域ほどではないが、コロナ以降の景気回復ペースが外需不⾜により抑制されている形となっている。ただし特にASEAN地域内においては、各国の景気の低迷が貿易を通じて相互に悪影響を及ぼしうるため、ASEAN内の貿易に依存した経済の回復は、米国など域外貿易依存の経済や産業よりペースが遅くなる可能性がある。
逆に、輸出が停滞しても内需の強さで相応に堅調な成長を維持しているのがインドネシアである。同国では、インフレの鈍化や早期の利上げ停止に一部支えられた個人消費や、国内での民間設備投資が堅調である。
総じて、東アジア・東南アジア地域の経済がそろって順調に拡大できるまでにはまだ多くのハードルがあるといえそうだ。特にこれらの国の共通の貿易相手国である中国経済は引き続き下方リスクを抱えている。コロナ禍からの回復過程において、非製造業に比べて製造業が相対的に軟化していることはグローバルにもみられる傾向であるが、特にアジア地域にとって、海外経済がより多くのモノを消費する環境が整うまで、景気のパスには紆余曲折が避けられないだろう。
執筆者
勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター
リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る