新時代のデータドリブン型M&Aとは?~データの活用とレガシーからの移行~

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新時代のデータドリブン型M&Aとは?~データの活用とレガシーからの移行~

コロナ禍でもM&Aはそれまで以上の活況を呈している。そこでは「10年でやることを1年でやろうとしている」ことから、ディールを短時間で高い精度で実現していくことが求められている。本記事では、「せっかち化」するM&Aを背景にその成功確度向上に向け、M&A戦略立案に最先端のAI技術とビッグデータ分析技術を活用するトレンドについて解説する。

I. 従来型のM&A

1.M&Aの世界で起きているトレンド

まず下図をご覧いただきたい。昨年(2020年)1年間で、世界で実行されたM&Aの規模の月次推移である。世界は昨年3月頃から一斉にロックダウンに入ったが、その解除後の6月以降、実行額が急増していたことがわかる。結果、昨年1年間での総実行額は3兆ドルにせまり、そのうち2兆ドルが7月以降の下半期に実行されている。この間、企業の手元資金は3.9兆ドル、ドライ・パウダー(ファンドがまた投資に回していない投資待機資金)は2.5兆ドルにまで積みあがっており、この勢いは今年になってもまだ衰えることなく続いている。

Global M&A Activity - 2020
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さて、筆者はM&Aの世界に身を投じて20数年の間に数回の大不況を経験してきたが、こと今回のCovid-19に端を発した国内不況についていえば、M&Aの領域では「不況どこ吹く風」という空気すら感じる。もちろん外食・運輸・旅行・アパレル等、業界によっては壊滅的なダメージを受けてしまっているところもあるものの、そうした中にあって余剰資金があるところは新たなケイパビリティ獲得に向け投資を加速させており、そうではないところは「次代の本業」から外れた事業の切り出し(カーブアウト)を加速させながら、そこで得た資金を本業への投資に回す傾向が顕著となっている。同僚や業界の諸先輩方からも「10年でやることを1年でやろうとしている」という声を多く耳にする。

そして、M&Aをご支援させていただいている日常でも、「今すぐやりたい」「今期中に完了させたい」「その上での課題があったら解決法も含めて助言してほしい」というご相談が本当に増えた。強いて言えば、昨年夏以降、M&Aの世界が「せっかち化」してきているという実感である。
 

2.起きている課題

では、このように「せっかち化」したM&A需要を実現していく上での最大のボトルネックは何であろうか? 筆者達のグループでは、主にIT(レガシー的情報システムから、最新のデジタルテクノロジーまで)を中心とした統合・分離をご支援させていただいているが、往々にしてここにボトルネックが内在していることが多い。プレディールの段階では「データがそろっていないのでシナジーを分析できない」、ポストディールの段階では「その時間枠ではITが対応できない」と言わざるを得ないことが多かった。結果、プレディールの段階では限られた時間の中でアクセスできる限られた社内外のデータに基づきM&A戦略の立案やシナジー試算をせざるをえず、またポストディールでも従来型のウォーターフォール的なアプローチで情報システムを順次刷新(もしくは統合)していくがために、それが完了するまでシナジー実現が後回しにされてしまっていた。

しかし今、プレディール段階では、人の経験知というバイアスのかかった仮説とそれを証明するために集められた限定的なデータをあざ笑うかのように、最新のAIとビッグデータ分析技術に基づいてM&A戦略を立てていくという、もうひとつの手法が生まれてきている。以下に、そのトレンドの紹介と解説を行う。

 

II. AI・データ活用技術のコモディティ化がもたらす変化

まず背景として、AIやデータ活用技術をめぐるトレンドを簡単に紹介する。近年、機械学習やAI技術製品を提供している企業と協議を行うと、「機械学習技術自体は既にコモディティ化しつつある」という認識を語る企業が多い。SAP Analytics CloudやSalesforce Einsteinなど、主要なエンタープライズITシステムは機械学習エンジンをモジュールのひとつとして既に取り込んでいる。機械学習ツールであるDataRobot、H2O Driverless AI、dotDataといった製品も、API連携によりERPやBIツールと一体となったプラットフォームの構築に対応している。

現実には、こうしたAIツールやデータ活用ツールを業務適用するためにはユースケースの開発など障壁も多く、日本企業において活用が十分に進んでいるとは言えない。また、組織・人材の面でデジタル化の推進に課題を抱える企業には、買収した企業でまず大規模なDXを実施し、そこで得たベストプラクティスを本社に適用することで全社的なデジタル化を推進するケースも見られる(デジタルショーケース)。

しかし一方で、こうしたAIツールやデータ活用ツールの「民主化」は、企業のデータ活用に対する意識やアプローチを変化させていると言える。従来型の「まず仮説を立ててから、データを取得して検証する」という順序とは逆に、「まずは大量のデータを機械学習で処理して、それから仮説を立てる」というアプローチを志向する企業が現れている。M&Aの推進にあたっても、こうしたアプローチを可能とするソリューションが必要と考えらえる。


 

III. 従来型M&A・戦略立案手法の限界とAIソリューションが開く可能性

1.従来型M&A・戦略立案手法の限界

さて、Smart X等の進展に伴い、新たなテクノロジーが既存技術と融合し、新しい市場形成が行われ、競合企業・提携候補企業が、同業界だけでなく、業界横断的に幅広く存在することになった。また、その業態も技術型からビジネスモデル型まで幅広く存在するため、既存の戦略立案手法ではすべてを把握する事が出来ず、戦略立案アプローチの抜本的な転換が求められている。

従来型の仮説に基づく絞り込み的な戦略立案手法は、「仮説の質」、「選択されるデータ」に調査・分析結果が大きく左右され、その実施方法は、属人的なスキルに大きく依存している。また、その調査・分析には、膨大な時間を要するため、一過性の作業にならざるを得ず、急激に変化する市場・競合企業の動きを正確に把握し続けられるものではない。
 

従来型M&A・戦略立案手法の限界~新たな手法に求められるものとは?
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2.AIソリューションによるM&A・戦略立案手法の高度化と可能性

この課題に対応するため、モニターデロイトでは、通常では把握できないR&Dの内訳をIPデータを活用した当社開発のアルゴリズムによりスコア化し、各専門家が市場分析等の際に活用する各種データも収集し・組み合わせる事により、瞬時に解析行うAIツールを開発した。

加えて、弊社AIツールが提供する直感的なデータ・ビジュアライゼーション・ツールは、数値・データ情報だけでは見落としがちな、データ間の関係性の理解を深める事を支援する。

また、AIツール活用は、M&A・戦略部門の限られた人材の時間を、調査・分析とった作業から、分析結果の解釈・意思決定といったより付加価値の高い領域にシフトさせることでき、新時代のより複雑化したM&A・事業戦略の成功確率をあげることに貢献すると考えられる。
 

AIソリューションによるM&A・戦略立案手法の高度化と可能性
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3.貴社に適合する実施方法の検討

AIを活用した新たな手法の導入には、依然として懐疑的な見方も散見されるため、一足飛びの導入ではなく、いくつかの案件をパイロット的に実行する事で、新たなアプローチに対する貴社内のご理解の醸成と新たな運用体制に対する検討が不可欠であると考える。モニターデロイトでは、伴走型の実行支援により、貴社に最も適合するアプローチでの実装をご支援する。

 


4.外部向けセミナー「ニューノーマル時代のM&A – 経営戦略の構築におけるデータ活用」

Moody's Analytics グループのビューロー・ヴァン・ダイク様主催のセミナー(2021年7月19日開催)にて、弊社M&A Technologyグループがニューノーマル時代に求められるデータ活用について、昨今のトレンドと事例を交えながら解説を行います。本記事にご関心をお持ちの方は是非とも本セミナーにご参加ください。

申し込み先:こちら
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