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調査レポート
生成AIに対する消費者反応のグローバル比較
Digital Consumer Trends 2023 日本版
「Digital Consumer Trends 2023」は、消費者の生成AIに対する印象や利用状況に関する項目をはじめて追加した。本稿では生成AIにフォーカスをあて、調査結果をもとに生成AIに関する消費者動向を日本、英国、ドイツ、オランダ、イタリア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの各国を比較し考察する。
目次
- 急速に広がる生成AIの認知
- 欧州に比べ低い教育目的の生成AI利用
- 生成AIを有償でも利用するニーズは日本ではまだ途上
- 欧州に比べると、日本では生成AIにより生み出されたコンテンツへのネガティブな反応は低い傾向
- 生成AIの業務活用に対して、日本はやや慎重傾向
急速に広がる生成AIの認知
日本において生成AIは全体の約半数(49%)に認知されており、若年層ほど認知率は高い傾向にある(図1)。55歳~75歳の中高年層にも4割近く認知が広がり、従来のテクノロジーの認知の広がりと比べ急速である。また、全体の回答者における利用率は16%、生成AIを認知している回答者の約3割(34%)である。
国際比較では、日本の生成AIの認知は欧州各国と同程度まで広がってきている。一方、全体の回答者における利用率は16%と、他国と比較し低い水準にとどまっている(図2)。
利用者のうち1週間に1回、または1日に1回生成AIを活用する割合のそれぞれにおいて英国が最も高い(図3)。利用率や認知率の高いノルウェーにおいても1週間に1度以上生成AIを活用する割合(22%)は低いことから、生成AI利用は広がるものの未だ試用段階にあるといえる。
ツール別には、生成AIを知っている回答者のうちChatGPTの利用率が日本も欧州各国と同様に突出して高い (図4)。また、欧州各国は日本と異なり、Snapchat「My AI」が2番目に高い利用率となっている。「My AI」とはChatGPTの技術を用いたSnapchat上のAIチャットボット機能である。Snapchatは、欧州ではZ世代に当たる13歳~24歳の9割が利用するまでに定着しており1、利用率が高い背景と考えられる。
年代別に比較すると、各国ともに18-24歳の利用率が一番高く、若い世代から生成AIの利用が進んでいるようである(図5)。日本もその傾向に変わりないが、18~24歳, 25~34歳, 35~44歳のそれぞれの年代で欧州各国と比較し20ポイント前後利用率が下回っている。先に述べたSnapchatのような若者の利用率が高いSNSのツールなどに生成AIが組み込まれ、触れやすい環境にあるかどうかが利用率の違いの要因となっている可能性がある。
欧州に比べ低い教育目的の生成AI利用
日本の生成AI利用者の8割は個人的な目的であり(81%)、欧州各国と比べ10ポイント程度高い(図6)。一方で仕事での利用割合(23%)は、欧州各国と比較しやや低い。また、欧州各国で3割程度は教育目的に活用されている中、日本では教育目的での利用率もとりわけ少ない(9%)。
7割近くの日本企業は現時点では生成AIの業務利用を禁止しているという調査結果がある2。このように日本企業では生成AIの職場利用を承認する割合が少ないことから、仕事目的での利用が他国と比較し少ない傾向にある可能性がある。
教育目的での利用が少ない点に関しては、2022年11月のChatGPTの出現以降、日本の有名大学において学生による大学での生成AI利用の禁止や懸念が表明されている3。前述の企業からの反応と同様に、そうした大学からの生成AIに対するネガティブな対応の発信が散見されている点も、教育目的での利用加速に至らない要因の一つと言えるかもしれない。
日本では2023年7月に文科省より小中高校向けの生成AI利用に関するガイドライン(初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン)が出され4、まずはパイロット的な取り組みから開始すること、ファクトチェックを習慣づけること、教員側のAIリテラシー向上や働き方改革につなげることなどの基本方針が提示された。このガイドラインでは教育現場への活用も目指しており、日本においても今後の利用促進が見込まれる。
一方、欧州では既に広がる生成AI利用の中で、イタリア政府がChatGPTに対する一時利用禁止を発表した5ことなどを受け(既に解禁済)規制強化の動きが強まり、EU議会は2023年6月にAI規制を定めるAI法案に対して生成AIも含めた修正案を採択し、12月には大筋が合意された6。また、2023年9月にはUNESCO(国際連合教育科学文化機関)より、政府各国が速やかに学校での生成AI規制を行うべきであるとし、教師と学習者に向けたガイダンスを発表した7。
日本においては、ビジネスや教育も含めた利用拡大に向けた方策を検討すると同時に、他国の動向を注視し生成AI規制をどう設け活用していくかについても、合わせて議論を進めていく必要がある。
生成AIを有償でも利用するニーズは日本ではまだ途上
生成AIを有償でも利用するニーズは、国内ではまだ成長途中のようだ。生成AIの利用者のうち、有償サービスを利用することに「同意する」または「既に利用している」と回答した割合は、英国(43%)やドイツ(37%)が4割程度であるのに対し、日本(28%)では3割未満と開きがある。また生成AIを有償で利用することに「強く同意する」と回答した割合に絞ると、日本では2%であり、欧州諸国と比べ生成AIを有償でも利用するニーズが比較的少ない。
欧州諸国と日本の生成AIの有償化に対する開きは、生成AIの利用シーンと関連があると考えられる。生成AIを有償でも利用するニーズの比較的高い英国やドイツでは、生成AIを使っている回答者の3割程度が仕事や教育目的での生成AIを利用していると答えており(図6)、日常的な業務や教育の現場で生成AIを活用していると想定される。そのため、複雑で大量のデータ処理が必要な日常業務に耐えうるレスポンスを提供可能な有償の生成AIニーズが高まっているのではないだろうか。一方、日本では私的利用が中心となるため、試し利用や遊び目的で生成AIに触れることに留まっており、迅速なレスポンスやピークタイム時のアクセシビリティの向上までニーズが至っていないと考えられる。
欧州に比べると、日本では生成AIにより生み出されたコンテンツへのネガティブな反応は低い傾向
AI技術により生み出されたコンテンツが世の中に普及し始めている。イラストや映像の分野では、従来のノイズ除去などの補助ツールとしてAIを活用するだけでなく、ユーザーの望むコンテンツをAIが簡単に生成できるようになり、生成AIが作成した画像や動画がインターネット上で広く出回っている。また音楽の分野では、生成AIを駆使して楽曲制作や配信ができるサービスもリリースされており、一般ユーザーが生成AIを使いプロ並みの音源を作成、配信し始めている。このように生成AIがコンテンツ作成の領域に浸透する中、生成AIにより生み出されたコンテンツを消費者はどのように感じているのかを国別に調査した。
生成AIの認知者のうち、生成AIにより生み出された音楽に対して聴く意欲がなくなると同意した割合(「強く同意する」、「やや同意する」の合計)は、日本(27%)が最も低く、英国(50%)やスウェーデン(43%)、ドイツ(41%)が比較的高い傾向にある。また聴く意欲がなくなると強く同意した割合に絞ると、欧州各国が15%以上なのに対し、日本では7%と半分以下である。一方で、聴く意欲がなくなることに同意しない割合は各国2割程度で同じ水準である(図8)。
このように、生成AIにより生み出されたコンテンツへの反応が国内では薄い傾向にある。前述の通り日本国内での生成AI利用は私的利用が中心である。そのため、生成AIにより生み出された音楽が個人の枠を超えておらず、コンテンツ自体への評価がまだ測れていないのではないかと考えられる。また国内では、従来からボーカロイドや二次創作など一般ユーザー作成のコンテンツが流通している。そのため、一般ユーザー作成のコンテンツの延長として生成AIが作成した音楽を一つのカテゴリーとして捉え、忌避感が軽減されている可能性もある。
ただ、国内でもAIを活用して生み出した「AIタレント」が企業CMに起用されるなど、コンテンツ作成の分野で生成AIの活用場面が広がりつつある。今回の調査で示されたコンテンツへの反応が将来日本で大きく変わる可能性もあり、今後の動向に注目したい。
生成AIの業務活用に対して、日本はやや慎重傾向
生成AIの業務ユースケースは、情報収集や分類・要約、コンテンツ生成(テキスト・画像・映像・コード)など幅広い分野で広がりを見せているが8、その一方でデータ漏洩、著作権、情報の精度(正確さ、回答の偏り)などのリスクが懸念され9、企業への本格導入が進んでいないケースもみられる2。
日本における生成AIの利用率(16%)は他国と比較し低い水準に留まったが(図2)、勤務先における生成AI活用への見通しについても、今回比較した国の中では、「強く同意する」または「やや同意する」と回答した割合が最も低い結果となった(23%)。日本では生成AIのリスクを懸念し、業務活用に慎重傾向であることも結果に影響していると推察する。(図9)
生成AI活用におけるリスクのひとつに「情報の精度」が挙げられるが、その中でも「情報の精度(正確性)」の観点では、生成AIはもっともらしい文章等の作成が可能な一方で、生成した内容に虚偽が含まれる可能性があるとされる。しかし近年ではAIへの指示文(プロンプトエンジニアリング)次第で、生成AIから有用な回答を引き出すアプローチの検討も進んでおり、業務でのユースケースも増加している10。
「生成AIは常に、事実に基づく正確な返答を作成するか」という問いに対しては、英国では約3割が「同意する」(「強く同意する」または「やや同意する」)と回答した一方で、日本は英国と比べるとやや低く(20%)、北欧(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)でも2割未満と低い結果が出ている。加えて、北欧では否定的な割合が約半数以上と他国と比べて多いのが特徴的である(図10)。
日本では生成AIの利用率が欧州各国と比較すると低い結果となったが(16%)(図2)、利用頻度においても「毎日利用している」と回答した割合も、英国(9%)と比較すると、日本(5%)や北欧(4-5%)は若干低い結果となっている(図3)。業務での活用や利用頻度が高く、生成AIでの業務活用に一定の経験値がある国の回答者は、活用ノウハウへの一定の知見があり、適切な指示出しや活用方法を把握しているため、回答者が正確な回答を引き出すことが認識していると考えられ、調査結果にも一定程度反映されていると推察する。
また「情報の精度(回答の偏り)」については、生成AIはインターネットやデータベースに流通しているデータを学習させているため、元となるデータに偏りがあれば生成結果も自ずと偏りのあるデータとなってしまう。また、AIの学習用データは欧米の言語や文化的コンテンツが中心であり、それ以外の言語や文化に対する配慮が薄くなってしまう場合がある。
「生成AIの回答に偏りがない」という記述に対して、日本は「同意する」と答えた割合が他国と比べて低く(11%)、「どちらでもない」という回答も比較的多い結果となった(36%)(図11)。生成AIの回答が欧米圏では特段違和感なく受け入れられる内容であっても、現状では、日本では違和感があるケースもあると考えられる。
約半数が生成AIによる将来の求人数への影響があると考えている
生成AIを認知している人のうち、「生成AIにより将来的な求人数が減少するだろう」という記述に対して、各国ともに半数近くが同意している。特に英国では「同意する」という割合が高い(64%)。一方、日本はやや低く(45%)、「どちらとも言えない」との回答も多くみられた(32%)。(図12)
また「職務の一部が生成AIに置き換わることへの懸念」については、英国では懸念を示す割合が対象国の中で最も高かった(48%)。日本では懸念を示す人もいる一方(26%)、まだよくわからないと考える人も多い結果になった(26%)(図13)。
業務利用割合や利用頻度が高く、生成AIへの一定の経験値がある英国では、生成AI活用の可能性を一定評価しており、求人数や仕事への影響があると捉えていると想定される。一方で、日本ではそもそもの利用率や業務活用も途上段階にあり、業務への影響は一定想定されるものの、その実態はまだよくわからないと考えている人も多い可能性がある。
そのほか、北欧(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)では、生成AIによる仕事への代替可能性について、否定的な意見も多い結果となった(「同意しない」が半数以上)(図13)。北欧地域は、幸福度ランキング上位の常連国であり、教育体制の充実などがある福祉国家であり、失業者への国策の充実もしている。そうした環境下において、自身の仕事への不安も低い可能性もあると推察する。
最後に、2022年から2023にかけては生成AI関連のアプリケーションのリリースが相次ぎ、AI技術(特に生成AI)の「社会実装」が躍進した1年であった。また今後の生成AI市場は今後10年間、2年ごとに倍増する可能性が高いとみられ、急速に成長すると予測されている11。
生成AIの業務利活用が進み、我々の未来の働き方を変えていくことが期待されるが、日本では他国と比べやや慎重な立ち上がりとなっている。生成AI自体が一過性のブームで終わるのか、企業にさらに浸透していくのか、また遅れをとっている日本が諸外国に追いつけるかという観点でも、今後も継続的に注視していきたい。
1 『Snapchat』欧米でZ世代の9割利用 日本展開の戦略は, 日本経済新聞, 2022/12/18; https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0673O0W2A201C2000000/
2 BlackBerry, BlackBerry独自調査、日本の組織の72%が、業務用デバイス上でのChatGPTおよび 生成AIアプリケーションの使用を禁止する方針であることが明らかに, 2023/9/7; https://www.blackberry.com/ja/jp/company/newsroom/press-releases/2023/blackberry-research-finds-banning-apps-including-chatgpt-and-tiktok-threatens-employee-satisfaction-and-ability-to-attract-young-talent
3 「ChatGPTでなく、自分の文章練り上げて」京大入学式で湊総長, 朝日新聞, 2023/4/8;
https://www.asahi.com/articles/ASR477KVXR47PLZB006.html
東北大学,「Tohoku University Online Class Guide - ChatGPT等の生成系AI利用に関する留意事項(学生向け)」, 2023/4/24; https://olg.cds.tohoku.ac.jp/forstudents/ai-tools
上智大学,「ChatGPT 等の AI チャットボット(生成 AI)への対応について」, 2023/3/27; https://piloti.sophia.ac.jp/assets/uploads/2023/03/27162222/23f430e7f216cbe188652f8a6855c493.pdf
4 文部科学省,「初等中等教育段階における 生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」, 2023/7/4;
https://www.mext.go.jp/content/20230710-mxt_shuukyo02-000030823_003.pdf
5 イタリア、ChatGPTの一時禁止を解除 使用条件満たす, 日経新聞, 2023/4/29; https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN290630Z20C23A4000000/
6 European Council, Artificial intelligence act: Council and Parliament strike a deal on the first rules for AI in the world, 2023/12/9; https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2023/12/09/artificial-intelligence-act-council-and-parliament-strike-a-deal-on-the-first-worldwide-rules-for-ai/
7 UNESCO, UNESCO: Governments must quickly regulate Generative AI in schools, 2023/9/7;
https://www.unesco.org/en/articles/unesco-governments-must-quickly-regulate-generative-ai-schools
8 デロイト トーマツ, 生成AI(Generative AI)のビジネスへの影響, 2023/5;
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/institute/articles/generative-artificial-intelligence.html
9 デロイト トーマツ, 生成AI(Generative AI)から企業価値を生みだす方法, 2023/4; https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/institute/articles/generative-ai-for-enterprises.html
10 デロイト トーマツ, 対話型生成AIを活用するためのプロンプトガバナンス, 2023/9;
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/ai-institute/prompt-governance.html
11 デロイト トーマツ, グローバルAI活用企業動向調査 第5版, 2023/5;
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/ai-institute/state-of-ai-2022.html