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スペシャル鼎談 トム・ダベンポート X デロイト トーマツ

日本企業が世界で勝つためにやるべきこと

2014年4月23日、トム・ダベンポートとデロイト アナリティクス日本統括責任者 矢部 誠、Deloitte Digital 日本統括責任者 石﨑 雅之の3者が、日本企業は激化するグローバル競争を勝ち抜くために、「アナリティクス3.0」時代の変化をどのように捉えて何をするべきか語り合った。

スペシャル鼎談 トム・ダベンポート×トーマツ 「日本企業が世界で勝つためにやるべきこと」

先進企業における成功事例

矢部:
アナリティクス3.0という新たな時代を迎える今、企業現場ではデータの活用において、どのような変化が起きていますか?

Tom:
組織が取り扱う情報の種類が非常に多様化しています。かつて、ピーター・ドラッカーが「企業情報システムにおける真の問題は、内部の情報を見てばかりで外の世界を把握することができていないことにある。」と述べていますが、昨今の動向でもっとも歓迎すべき変化は、新しい情報を求めて企業が外に目を向けはじめたことです。

ただし、大量のデータを目の前にして『さて、何か掘り出せないかじっくり分析してみよう』といったケースをよく見かけます。しかし、この場合はそもそものビジネス課題がはっきりしないので、どこにもたどり着けないことが多いのです。

石﨑:
アナリティクス3.0時代で先進的とされる成功企業には、どのような企業が挙げられますか?

Tom:
特に大企業における成功企業の代表として挙げられるのはゼネラル・エレクトリック(GE)でしょう。経営者の強力なリーダーシップの下で、ビジネスモデルそのものを抜本的に変革しようとしています。ガスタービンなどの業務用機器や医療用機器などにセンサーを取り付け、その通知を分析。それによって燃費効率を高めたり、予防保守をするといった新しいサービスを開始しています。つまりモノ売りからサービスへのシフトを加速しているわけです。さらに注目すべきは、この仕組みを支えるシステム基盤や人材を、サンフランシスコのベイエリアに設置したアナリティクス専門拠点に集約し、自社のためのデータ分析を行うとともに、他社が利用できるサービスとして提供を始めていることです。こうした変革には数千億円という巨大な投資と部門を超えたチャレンジを伴い、トップダウンの意思決定と経営者の主導が不可欠となります。

また、優れたマーケティング戦略を有している、フォード(Ford Motor Company)も成功企業の1つです。同社は、「車は、動くセンサーの塊になりつつある」と語ったビル・フォード会長を中心に、アナリティクスを活用することへの理解が深い経営陣がいることが特徴です。

そうした経営陣の下、社内のアナリストを集めて、例えばデータ分析に基づくデジタルマーケティングの最適化に注力しています。マルチチャネル分析などを使った様々なデジタルマーケティング施策を、ディーラーを巻き込んで実行するこの試みは、店舗への来店や購入といった消費者行動を85%引き上げ、車の購入者に対する顧客獲得単価を48%引き下げるという形で、確かな効果を上げています。

矢部:
製造業以外で、ビジネスモデルを変革した事例はありますか?

Tom:
その他の例として挙げられるのは、世界的なバイオ化学企業であるモンサント(Monsanto)です。同社は、ビッグデータを分析することで、『何個のタネを、どの深さに、どの程度の密度で植えるべきか』、『種まきや収穫の最適なタイミングはいつか』といった情報を農家に提供し始めています。これは、単に種子を販売するという従来のビジネスモデルとはまったく違うアプローチです。

日本企業はどうでしょうか。成功企業となる可能性を有する企業は多いと思います。例えば、私が愛用している日本の住宅設備機器メーカーも、その一社になる可能性があります。数十年前に初めて日本を訪問した際、温水洗浄便座に大変感銘を受け、米国の私の家には日本製便座が幾つもあります。このメーカーには、「住宅設備機器メーカーからサービス企業」へと変革する素晴らしい機会があります。座っている便座に「少し脱水症状気味ですよ」とか、「このままでは糖尿病になりますよ」などと言われるのは不自然に感じるかもしれませんが、これほど即時性があるものはありません。もしこのようなサービスが実現すれば、このメーカーは住宅設備機器メーカーから健康に関する不可欠なパートナーへと事業拡大するでしょう。

アナリティクスで成功するためには何が必要か

矢部:
アナリティクス3.0時代に成功している企業に共通する主要成功要因(KSF)にはどういったものがありますか?

Tom:
これについては、かなり長く研究してきました。以前、私は「分析力を駆使する企業」という書籍において、「DELTA」という考え方を定義しました。「データ・アナリティクス3.0」ではビッグデータの隆盛を踏まえてこれを「DELTTA」と再定義しました。

つまり成功している企業は、良質のデータ(Data)を持ち、データを活かす体制(Enterprise)が整備され、経営陣(Leadership)がデータ活用を重要視し、データ活用の目的(Target)が明確で、最適のシステム基盤(Technology)を持ち、それらを活かすデータサイエンティスト(Analyst)が活躍しているという特徴があると考えています。

特に伝統的な大企業で成功しているところは、こういった状態にシフトするために既存のデータや事業活動といったものから脱却して、新しい発想でビジネスを変革しイノベーションを起こしていることが特徴でしょう。こうした状況は、日本にも当てはまりますか?

矢部:
日本ではリーダーシップの形成が特に重要かつ困難なKSFだと感じます。アナリティクスは多くの企業では未だにCIOやIT部門によって運営されていることが多く、アナリティクス1.0時代に近い状況から抜け出せていません。

つまり、データサイエンティストが、ビジネスとITの架け橋となり経営者に積極的に助言するような仕組みが構築されているようなケースは稀です。データ経営に強い組織を構築していくためには、経営者の強いリーダーシップが必要でしょう。石﨑さんは、どう見ていますか?

石﨑:
成功している企業のデータ活用は、IT部門というよりも経営者と事業部門が主導していることが多いです。IT部門から支援は得るものの、経営者と事業部門が方向性を決定し全体を主導しています。システム導入を最終目的とすることのないよう、経営者と事業部門が主導し、目的を定めながらシステム活用していくという、ERP導入のKSFと共通点があるように思います。

日本企業の強みと課題

Tom:
データ活用における日本の強みはどういったところにあると思いますか?

矢部:
まず日本企業の強みの一つとして「現場力」が挙げられます。欧米に比べて一般的に勤務年数の長い日本企業の従業員は、自社の業務を熟知しています。そのため業務で活かされる「勘」は、いわゆる思い付きではなく、現場実務から得られる事実の積み重ねという根拠に基づくものであり、この特性は定量分析に対する受容性が高いと考えられます。

また、日本企業は効率や品質を少しずつ向上させる「カイゼン」が得意です。アナリティクス活用で成功する企業は、モデル構築し、分析を行い結果を検証するという過程のトライアル&エラーで試行錯誤を繰り返しながら最適化していくことに長けています。つまり、現場の「カイゼン」の思考が必須なわけです。こういった日本の強みが活かされる環境が整えば、日本企業が世界のデータ経営をリードすることも可能だと考えます。

一方で、先に言ったとおりリーダーシップの柔軟性は課題になります。上層部が下の人達から情報や意見を収集して提示された選択肢から意思決定していくようなボトムアップ式のマネジメントをしている企業では特に変革が難しくなるでしょう。意思決定に対する態度をボトムアップからトップダウンに変えることが重要です。

石﨑:
同感です。リーダーシップは常に課題であり、組織的な変化を自社にもたらすことが日本企業にとって最も難しいことでしょう。日本企業におけるアナリティクスの理解はまだ懐疑的な段階にあり、多くはアナリティクス1.0時代のデータ処理を行っているといえます。

日本企業においても、部門単位でデータ活用に取り組むケースは少なくありません。ただ、経営幹部の理解が不十分で、全社的な動きにつながっていないことが多い状況です。アナリティクスの効果を十分に引き出すためには、フロントエンドからバックエンドに至る企業活動全体の取り組みが欠かせません。そのためには、経営者の理解が必須です。

また、日本の場合、より内部データに焦点をあてすぎているようにも思います。日本企業はデータに対して完璧であろうとし過ぎているのです。長い時間とコストをかけ、顧客データや製品データを統合して素晴らしいデータセットを完成させても、それをどう活用すべきか分からず頭を抱えている企業が散見されます。

Tom:
「完璧なデータ」という表現は“Oxymoron”※ですね。つまり、これを追い求めるといつまでたってもゴールに辿り着けないのです。

既存のデータに拘りすぎて時間を費やすのではなく、新たな発想で仕組みを作り上げていく推進力が必要な場合もあるでしょう。GE、モンサントなどの大企業は、ビジネスモデルのマイナーな改良ではなくドラスティックな変革を行っています。こうした変革に対してトップダウンで意思決定できるような経営の柔軟性が大切なのでしょう。

※Oxymoron:修辞技法のひとつで「黒い光」や「賢明な愚者」など互いに矛盾する言葉を含む表現

勝ち抜くためのメッセージ

石﨑:
経営者がマインドセットを変え、新しい事業運営のやり方に順応していくにはどういったきっかけが必要なのでしょうか?

Tom:
突如、天から啓示を受け一晩のうちに「データ活用しよう」と経営者が考えを変えたような事例は少ないですね。米国では新しい幹部が、新しい思考とともに就任して、新たな空気を醸成するといった形でアナリティクス推進が行われることも少なくありませんが、日本ではそういった形の変革は少ないかもしれません。

ただ、なかには、CEOの持つビジネス課題を熟知した従業員が、アナリティクス活用の効果や重要性を根気強く提言し続けたケースも存在します。つまり、Small Start / Quick Winの進め方で、経営陣に徐々に価値を理解させていくことが重要なのでしょう。

矢部:
日本企業に対して、アナリティクス3.0時代に勝つためにメッセージをお聞かせいただけますか?

Tom:
日本企業は歴史的に見て、特に産業製品の分野で素晴らしい製品を数多く世に送り出してきました。これはビジネスの歴史における偉大な変革の一つでした。しかしながら、今日、私たちの眼前には新たな世界が広がっています。製品そのものだけではなく、関連するサービスや情報が、同等かそれ以上に重要になりつつあります。データのイノベーティブな活用によって製品やサービスにどういった価値を生み出せるかを競う戦いが始まっており、日本企業はこの競争に勝たなくてはなりません。そのためには、よりいっそう広い視野を持ち、意思決定の新しい方法を意識しなくてはなりません。

また、もし私が管理者であれば、短期間で成果を出すための活動に取り組みつつ、新しい仕組みを積極的に後押ししてゆくよう、経営幹部を説得します。完璧なデータ環境を構築するためのデータ統合に、多大な時間を費やすような悠長なことはしていられません。なぜなら、現在のビジネスに重要なのは「いかに短期間で価値を生み出すことができるか」だからです。いまや全世界のどの企業もが、その挑戦を始めています。日本企業には素晴らしい現場力がある。もし日本企業がグローバル競争に勝ち抜く意志があるのなら、経営層の意識改革こそが最も重要なポイントだと考えます。(鼎談:2014年4月23日実施)

トム・H・ダベンポート

デロイト アナリティクスのシニアアドバイザー。バブソン大学特別教授。企業活動におけるデータ活用の在り方について経営的な視点でメッセージを発信し、今日のデータ経営を牽引してきた世界的第一人者。著書に「分析力を武器とする企業」「データ・アナリティクス3.0」などがある。

 

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矢部 誠

デロイトアナリティクス日本統括責任者。外資系金融機関等での勤務を経て、2005 年にトーマツに入社。金融機関、製造業、流通業等に対するデータ活用による顧客管理、収益改善・コスト最適化サービス、不正調査支援サービスを含む多数の監査・コンサルティング業務に従事。2012 年にデロイトアナリティクスを立ち上げ、デロイト トーマツ グループが提供するあらゆるサービスへのアナリティクス適用を主導するとともに、先進分析手法やビッグデータ分析・活用基盤の研究開発部門をリードしている。

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石﨑 雅之

デロイトデジタル日本統括責任者。デジタルコンサルティング専門組織を率いて、クライアントのデジタル改革を支援する。コンサルティング会社のパートナーとして、シリコンバレーを拠点に数多くのトランスフォーメーションプログラムを推進後、大手IT会社の事業責任職を経て現職に至る。

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