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先行指標においつく景気減速:米国経済動向

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.111

マクロ経済の動向(トレンド&トピックス)

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎

当方では従前より米国経済が近々減速局面に入ることを予想しているが、これがなかなか本格化しない状況が続いている。短期的には、2024年に入り雇用者数の伸びがやや鈍化するととともにインフレ率も低下基調にあるものの、4-6月期までのGDP成長率や直近の雇用統計などの実績指標を見る限り、景気の大幅減速を示すような悪化は見られない。中期的にみると、米国の調査機関カンファレンスボードが集計する米国の景気先行指数は、2022年時点ですでに米国経済の近々の景気後退入りシグナルを出していたにもかかわらず、その後約2年に亘り景気後退は実現していない(図表1。なお同機関は、米国の景気先行指数の6ヵ月前対比の伸び率が年率-4.4%を下回ることを、米国経済が近々景気後退入りするシグナルとしている)。こうした、先行指標と実績指標の乖離の理由は、以下に述べるように、個人部門における過剰貯蓄の存在と、コロナ期の企業部門の大幅な落ち込みとその反動の影響が一部の先行指標の悪化を過大に見せている可能性があると考えられる。もっとも、こうした乖離はまもなく解消し、現在の先行指標が示唆する通り、米国経済は緩やかな減速に向かうと見ている。

図表1:景気先行指数[米国]

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まず、景気先行指数を構成する指標の一つである消費者信頼感指数は、2022年以降継続的に低下している。しかるに、コロナ期に米国政府は家計支援のために配賦した給付金が過剰貯蓄として家計に積み上がっていたことから、2022年のロシア・ウクライナ問題発生以降の景況感悪化やインフレ上昇にも関わらず、個人消費は堅調に推移した。つまり、景気先行指数でとらえられない要因によって実際の消費が押し上げられてきたといえる。しかしながら、当方試算によれば、コロナ期以来の過剰貯蓄は2024年中には概ね底を尽く見込みである。個人消費はこれまでのバッファーなしの状態となって一旦減速に向かうだろう。

次に企業部門をみてみよう。同じく景気先行指数を構成する指標であるISM製造業指数の新規受注DIは、2021年をピークに継続的に低下している(図表2)。これに対して、実際の企業の資本財受注状況をみると、これも2021年をピークに伸び率が低下しているものの、直近までは前年比でプラスの伸びを維持している。新規受注の伸びはコロナの反動によるピークから低減して、見かけの景気先行指標は低下したものの、実際の受注額自体は増加を続けており、結果設備投資が米国のGDP実績値をプラス方向に押し上げ続けてきたといえる。しかしながら、資本財受注についても2024年に入ってからは前年比でマイナスの伸びを示す月が目立つようになっている。今後は、設備投資循環、これまでの金利上昇影響の蓄積や地政学問題などによる将来の不透明感がじりじりと企業設備投資を減速させることが考えられる。

図表2:資本財受注[米国]

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米国経済は現在需要超過の状況にあり、循環的にはそろそろ好調期からようやく減速に転換する局面に差し掛かっていると見ている。景気先行指標とその後の実績の乖離もようやく解消に向かいそうだ。

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執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのマネージングディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。 2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同... さらに見る

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