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【コラム】コーポレートガバナンス・コード改訂により追加された知財規定への対応方針

企業価値を向上させる知財情報とは何か?

コーポレートガバナンス・コードの改訂案において、知的財産の開示項目について追加規定した補充原則が提示された。本稿では、この追加規定に対応するために開示すべき知的財産に関する情報を検討するにあたって有用な対応方針について紹介する。

コーポレートガバナンス・コード改訂の背景

2021年4月6日に公表された「コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)」の改訂案において、「知的財産への投資等について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すること」を、追加規定した補充原則が提示された。この補充原則が追加規定された背景には、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第23回)」において、ESG投資において知的財産に関する情報が株価に影響することを示唆する資料(下図、参照)の提出等があり、知的財産の創出が企業価値に与える影響が大きいことが改めて認識された結果であるといえる。

知的財産をはじめとする無形財産
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コーポレートガバナンス・コード改訂への対応方針

CGコード改訂により、知的財産に関する情報を開示しなくてはいけないことが決まったものの、CGコードはプリンシプルベース(原則主義)を採用しているため、開示すべき情報について具体的な指示や決まりがあるわけではない。そのため、上場会社各社は、CGコードの趣旨を踏まえて自ら開示すべき情報を決定する必要がある。

ここで、各企業の知的財産を統括する部門が初めに検討すべき事項は、「自社の知的財産に関する情報を開示することによる企業価値向上の可能性」、言い換えれば、「企業価値を向上させるような知的財産に関する情報の有無」である。この最初の検討段階において、知的財産に関する情報の開示による企業価値の向上が見込めないと判断された場合、できる限り省力化したミニマムな対応を図ることになるだろう。

一方、知的財産に関する情報の開示によって企業価値の向上が見込める、または知的財産に関する情報の開示によって企業価値の向上を図りたいという企業は、「知的財産に関するどのような情報が投資家にとって有意義なのか」を把握するべきである。そのためには、知的財産を統括する部門内だけで検討するのではなく、投資家と対話する機会のある経営層を巻き込んだり、社外の機関投資家の意見を聞いたり等、投資に関する生の声に耳を傾けることが重要となる。

知的財産に関する情報を投資家などに任意に開示する際の指針が示されている「知的財産情報開示指針(経済産業省)」では、指針を作るにあたって機関投資家に対して行われた質問票調査の結果が掲載されている。これによると、投資家が企業価値を評価する際に判断材料として活用される割合が高い項目等として、企業のコア技術に関する概略、企業・事業の戦略、技術の市場性・市場優位性についての経営者の分析と討議等が挙げられている。

投資家が求めているのは、個別具体的な特許や技術情報ではなく、投資家向け広報の中で企業の経営陣が発する経営方針に関する説明を裏付ける情報である。そのため、知的財産を統括する部門内だけで検討してしまい、投資家目線に欠けた知財指標を開示するなどの対応を行ってしまうことがないよう注意が必要である。なお、この調査は製造業を対象としたものであるため、非製造業への適用は、適宜、検討されるべきである。
 

コーポレートガバナンス・コード改訂への対応スケジュール

CGコードの改訂は、2021年6月を目途に適用が開始される予定であり、上場会社は、遅くとも2021年12月末日までに今回の改訂CGコードに対応した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を開示することが求められる予定である。参考までに関連スケジュールを以下に示す。

コーポレートガバナンス・コードに沿った報告書の提出期限のタイムライン。原則2021年12月30日まで。
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最後に

以上、CGコード改訂により追加された知財規定への対応方針を示した。CGコードは、法的拘束力がなく、開示内容についても詳細な規定がないため、開示情報を省力化したミニマムな対応を取ることも可能であると考えられる。しかしながら、こうしたミニマムな対応では企業価値が向上することはなく、また社内外における知財に対する認識が向上することもない。今回のCGコード改訂を、知財の重要性を内外に示す良いきっかけと捉え、自社の知財部の活動に対する社内外の意見に真摯に向き合い、今後の知財戦略に活かしていくことをお勧めする。

本コラムが貴社の活動の一助を担うことができれば幸いである。
 

コーポレートガバナンスコードの本格的な対応を検討される方は下記のサービスページもご参照ください。

>>知的財産価値評価
>>知的財産ポートフォリオの価値評価
>> IPランドスケープ
>>知的財産デューデリジェンス
>>国内外子会社の知的財産マネジメント
>>権利活用/収益化支援

 

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