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市場動向分析ツールで見える海外主要企業の出資戦略
-知られざる中国企業の戦略と今後-
デロイト トーマツが開発した市場動向分析ツールNapier(ネイピア)を活用し、実態把握が難しい中国企業の投資戦略とその狙いを明らかにし解説する。
昨今日本経済の低成長トレンドに基づくと、日系企業における海外展開(戦略)はもはや外せない戦略オプションとなっている。そのため、まず国内外の動向把握を的確に行うことが不可欠となるが、必要な情報を収集するための十分な調査リソースが確保できない、などの理由で取り組みが進んでいない企業も多いはずだ。動向把握には様々な方法があるが、市場動向分析ツール等の活用により、例えば、中国企業のような、企業情報が一般的に公開されず実態把握が難しい特性の企業の戦略を見る事ができる。実際どのような中国企業の戦略分析が行えるのか、そしてその分析結果を基に日系企業が取るべき戦略をどのように導くか。デロイト トーマツが開発した市場動向分析ツールNapierを活用した中国国営の電力配送会社の戦略分析を例に、知られざる中国企業の投資動向や狙いを明らかにし、一般公開情報に基づき解説する。
中国は「国進民退」の傾向が進み、主要企業の国有化の進展と規模拡大が進行するとともに、国家による企業や産業への統制が強まっている。その結果として、中国国営企業では既存事業以外の様々な事業領域における研究開発や投資が進み、国際的な競争力を強化してきている状況である。このため、中国企業の動向把握をする上で国営企業の動向を把握する重要性が増している。
しかしながら従来の調査手法では、情報開示が限定的な国営企業に対して十分な結果が得られないことが多い。代替策として特許情報の特性※を活用することで動向把握のための情報を得ることも物理的に可能であるが、その情報量は膨大なためヒトが瞬時に分析・理解することは困難である。そこで、ヒトに代わって、膨大な特許・技術情報を軸に出資関係等の情報も瞬時に可視化できるNapierを活用し分析を行う。
※特許は独占的排他性を獲得するために該当情報を公開するという特性を有する
中国主要電力企業5社の特許出願割合は、上位2社が約9割以上を占めており、研究開発機能が、一部の(国営)企業に集約され、国家主導で当該領域の投資戦略がとられていることが伺える。また、特許・技術領域の分散を当社独自のアルゴリズムによりスコア化して国内大手群と比較すると、国家戦略を担う中国の国営企業群とは、規模・カバー領域につき大きく異なることがわかる。
特に再生エネルギーやスマートエナジー領域は日本の主要電機・重電企業群よりも技術的多様性を有し、またサイバーセキュリティやフィンテック等、本業との関連が薄い事業領域でも高いスコアを有することも把握できる。
具体的な事例を見ると中国主要電力企業が、通信の国際標準団体である3GPPにおいて、最新の5G技術である5Gネットワークスライシングを活用したスマートグリッドのアーキテクチャを定義するなど、従来のコアではない事業領域への積極的な参入を行っていることが確認できる。
この5Gネットワークスライシングは現時点で国内通信事業者が商用導入する前段のフェーズであるという事と比較しても、中国主要電力企業が既存事業以外の技術領域へも積極的に投資していることが読み解ける。
また、Napierが有する特許関連情報からも、中国主要電力企業が、5Gの領域において日系国内通信事業者と同等の水準で投資・出資がなされていることが確認できる。
再び中国主要電力企業におけるコア事業の技術領域に視点を戻すと、Smart Energyで電力需給予測・ストレージ最適化への投資を加速していることが確認できる。
電力需給予測領での特許取得には、膨大なデータに基づく多様な予測モデルが不可欠であることから、この企業では既に需給予測で必要とされる需要サイド側の膨大で多様なデータを保有していると考えられる。
この企業が強みを有する投資領域に注目すると、フィジカルからデジタル領域までの両面を押さえており、国家レベルでのスマートシティ化を目指しているように見える。
これを後押しするかの様に、2021年末に公表された中国主要電力企業と中国の上場主要企業群との戦略的パートナーシップが公表され、電子取引・クラウドPF、SNS/広告等、検索エンジン、通信機器メーカーとの広範で多岐にわたる領域での提携構築が行われている。
日系企業における戦略検討のポイント
このような中国国営企業の取り組みは日本企業にとって「対岸の火事」では済まされなくなってくる。今後、これらの技術を欲する途上国では本稿で取り上げた様な中国企業との競争になるケースがより一層増加してくるからである。
日本国内では行政・研究機関が主導して、セクター・業界を跨いだイノベーションの創出等が取り組まれているが、国家主導で競争力強化を推進する中国企業ほどの規模やスピード感は見られない。
中国以外の国・地域に目を移してみると、EU、特にドイツにおいて、世界をけん引する国内の各産業の企業が積極的に企業間連携や規格化を通じたルールシェイピングが進んでいる。
また、データ連携という観点でも、欧州では異業界間のデータ連携が進んでいる一方、日本は同一業界内でのデータ連携程度に留まっており、異業種間の連携があまり進んでいない。
このような環境下において、日系企業では(前述のように)国内外の動向を的確に把握し、その上で必要な戦略的対応(アクション)が取られているか、またこのアクションそのものを事業部任せにして、主体的なとりくみになっていないか、再検討(点検)が必要になると考えられる。
今後より一層スピードが求められる社会課題解決と経営戦略の融合(という戦略テーマ)は、自社展開のみならず、共通の仲間を作り且つ新たな仕組みを創る事が、重要なポイントとなるのではないか。
(参考)市場動向分析ツールNapier
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