Posted: 16 Jun. 2022 2 min. read

成功するM&Aのために押さえておきたい3つのキーファクター

【シリーズ】『経営モデル変革の最前線』-Merger for growth-

2021年、日本企業が関連する合併・買収案件は過去最多を記録した。件数における割合は少ないものの、日本企業による海外企業の買収も年々増加しており、買収金額ベースでは国内企業同士の買収を大きく上回る。コロナ禍を経てもなお、国内はもとより海外企業の買収が企業戦略の重要な選択肢であることに疑いはない。

一方で、報道等もされている通り、昨今でも、買収時に上乗せしたプレミアムを超えるシナジーの実現どころか減損処理を強いられるなど、買収前の想定通り成果を上げるM&A案件は限定されている実態もある。デロイト トーマツが過去に調査した結果では1999年~2015年の間の1000億円以上の買収案件においては約30%の企業が減損を計上している。

その要因には、「時間を金で買う」と銘打って海外企業を買収するも、そのハードルの高さから合併・買収後の統合プロセス(PMI)が形骸化、或いはそもそもPMI活動自体を行っておらず、結果的に子会社として連結するにとどまっているだけのケースが多く見られる。 

また、日本企業はM&A推進において資産・人材のリストラクチャリングを対象外とする傾向が強く、バリューチェーン上の重複機能や資産等、成長戦略実現に必要不可欠な対象を特定し、思い切った打ち手を講じる次元まで踏み込めていない企業も数多い。

このような状況を経て、M&A実施から一定期間経過した段階でPMI活動を総括し、今後のValue Upを図る「Post PMI」に取組む企業を多く目にする。Post PMIでは当初想定した最低限のシナジーが実現しない、場合によっては買収した企業そのものの事業環境が悪化しているなど、過去の取組みを振り返りながら目下の課題に手を打つ必要がある。

そこでは以下①~③が成功への鍵(Key to Success)となる。改めて以下それぞれに掲げる問いと向き合って頂きたい。


①  「やり切る」こと


対象会社のことを完全に理解できているか?

まず、基本的なことではあるが、デューデリジェンスや対象会社主要メンバーから取得した情報だけでなく、自らの足で定量・定性情報を取りに行くことで対象会社の理解度は格段に上がる。
 

徹底したガバナンスを追求できているか?

欧州企業を買収した製造業A社は人材派遣だけでは対象会社の状況が不透明になりがちであるため、対象会社CEOをグローバルCOOとした上でA社執行役員に登用し、自ら事業状況をA社経営陣に報告させることで事業状況の透明性を担保した。
 

経済合理性を追求し切れているか?

製造業C社は米国企業を買収。統合時に両社の資産・ケイパビリティを比較。自社拠点の維持に固執することなく、合理的・客観的な判断に基づき、対象会社の工場を維持し、自社の工場を閉鎖し効率化を図った。

 

②  「当たり前を続ける」


統合効果のモニタリングは継続できているか?

D社は、10年で利益を倍にするという目標のもとで英国企業を買収。約3年は自分たちが企図していたシナジーが計画通り実現できているかをモニタリングした。その後は効果の由来が買収によるものか段々と見えづらくなってきたが、断念せず5年間継続してシナジー効果をモニタリング。結果として、5年後のシナジー目標に対し、コストシナジーは完全にクリア、売上シナジーについてもほぼ達成することができた。
 

事業状況に応じた制度見直しは実施できているか?

E社は、規程類は一度作るとその瞬間からビジネスと乖離していくので、定期的に対象会社との間で意見交換する機会を設け、規程を見直している。買収直後に作成した規程では、対象会社に権限をあまり与えなかったが、対象会社マネジメントとの信頼関係の構築とともに、より経営の自由度を与える形で責任権限規程を見直した。

 

③  「初心に帰る」こと

買収目的とPMI活動は首尾一貫しているか?

F社は、直近15年にて海外3社を買収し、事業強化を目論んだが、子会社間で戦略が異なりシナジーが創出されず(全体方針を軽視)、営業赤字や減損の発生などに陥っていた。打開策として、外部コンサルタントを招き入れた上で業界知見に基づき、

•  当該市場概要分析

•  ターゲットポジショニングの把握

• 製品及び製品ラインナップの競争力評価

•  シナジー創造機会の特定 等

の事業性の客観的な再評価を実施、スタート地点とゴールの再設定にもとで挽回策としてPMIの再設計・実践を行った。

 

今回、Post PMIとして成功への鍵を掲げたが、当然、PMI自体がこのような観点で進められることが望ましい。買収時の労力・決断に報いるためにも、しっかりとしたPMIを計画し、M&Aをきっかけとした真の成長・トランスフォーメーションを遂げてもらいたい。

関連リンク

PMI  for Growth

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

 

富野 賢治/Tomino Kenji

富野 賢治/Tomino Kenji

デロイト トーマツ グループ パートナー

大手通信会社、外資系コンサルティングファームを経て現職。主に製薬、通信、電機メーカー、消費財において、M&A/PMI、事業化・シナジー創出支援、組織再編におけるプロジェクトマネジメントを実践。IEBE Business SchoolにてMBA取得。