Posted: 24 Feb. 2022 2 min. read

入札方式M&Aにおける買い手側の成功の要諦

【シリーズ】『経営モデル変革の最前線』-Strategy Centric M&A Deal Execution-

国内市場規模の縮小やニーズの多様化等といった市場環境の変化により、企業は従前にも増してM&Aを活用した成長戦略を検討している。数字上でもその様相は顕著に現れ、日本のM&A件数はコロナ禍前である2019年まで8年連続で増加、コロナ発生直後の2020年にはやや減少したものの、2021年には過去最高となる4,280件を記録している(レコフデータ調べ)。
今後、コロナを契機とした生活様式の変化やDXの推進、組織再編の活発化等によりM&A件数が増加していく方向性に変わりはないだろう。

 

今後を見据え、企業は「M&Aにはどのような様式があり、どのような戦略で実現していくか」ということを把握し検討していく必要がある。M&Aには売り手と買い手が1対1で交渉を行う“相対方式”と、売り手1社に対し複数社で競争交渉を行う”入札方式”が存在する。買い手目線において、相対方式では売り手とお互いの条件を擦り合わせ、ディールを纏めることに注力すればよいが、入札方式では他の買い手の交渉状況もディールに影響するため、難易度が格段に上がってしまう。特に市場から評価の高い事業が売却対象になる場合は、同業他社や投資ファンド等の複数の買収希望者が参加するため、検討プロセスの設計や交渉の難易度も高くなっていく傾向にある。例えば、2021年3月に武田薬品工業が米投資ファンド大手のブラックストーン・グループに一般医薬品事業(OTC)を2,420億円で売却したニュースがあるが、これは同業製薬企業や投資ファンドが複数参加したと言われている。また、近時M&A市場を賑わせているセブン&アイ・ホールディングスのそごう・西武の売却に関しても、報道内容が示唆するところ、入札方式で検討が進められるのであろう。

これらの例のように入札案件は関係者の社運を賭けるような大規模な案件も多いが、先に述べたように腰を据えて検討できる余裕がない点がジレンマである。買い手であれば、情報や時間など制約条件の多い中で、最終売却先として選択されるという目標を達成しなければならない。企業規模が大きな会社間であればあるほど、社内調整等により難易度はさらに上昇する。また最終候補先に選択された場合でも、事業価値を大きく超えた金額でディールが実行されてしまい結果的にリターンが回収できない事象も発生しうる。したがって企業は、入札方式のM&Aにおける買い手の成功の要諦について予め理解した上で実行していくことが重要だ。

それでは、入札方式のM&Aにおける成功の要諦とは一体どのようなものだろうか。本稿では以下2点が重要だと考える。

①   制限環境下での情報取得

入札案件では売り手優位のスケジュール設定がなされ、また開示情報も限定的であるため、対象会社/事業の価値算出に必要な情報や対象会社の志向する経営方針・従業員雇用方針・取引スキーム等を確実に取得することは困難である。特にリソース・ノウハウが不足している企業/事業部では、限定的な質問数の中から前述のポイントを引き出す効果的な質問を選別するは難しいため、事前準備として想定シナジー・リスク分析や必要情報に関する質問の精緻化を実施することが成功のポイントになる。
 

②    説明できる意思決定(合理的な買収判断)

限定情報を基に一定合理的な価値算出ができた場合でも、社内合意がうまくいかず期待通りのディールを実現できないケースもある。売り手優位のスケジュール(主には短期スケジュール)では、社内合意に時間がかかってしまい落選するケースや買収前提で社内コミュニケーションが進んでおり、本社・事業部で目線合わせがなされていない高額で買収してしまうケースが存在する。このような事態を防ぐためには、事前に意思決定の指標や合意プロセスを明確にし、買収是非の判断がブレないようにすることが重要である。
冒頭に言及したM&A増加の背景はあるものの、M&Aを検討する企業は実行に向けて十分な事前検討を行うことが最優先であり、焦ってM&Aを行ってはならない。プロセスに必要な準備をしっかりと行った上でこそ、事業成長に資するM&Aが実現できるはずだ。

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています