Posted: 06 Sep. 2022 2 min. read

M&Aを成功に導く、PMIのタイミング・準備とは

【シリーズ】『経営モデル変革の最前線』-Merger for growth-

前回のブログでは、Post PMIとして成功への鍵について「やり切る」「当たり前を続ける」「初心に帰る」の3点を挙げた。同時に、本来はPMI(Post Merger Integration)自体がこのような観点で進められることが望ましく、買収時の労力・決断に報いるためにも、しっかりとしたPMIを計画を進めて欲しいことを述べた。それでは、PMIはどのタイミングでどう進められるべきか。

 

少し前の調査結果だが、経済産業省とデロイト トーマツにて共同推進した「我が国企業による海外M&A研究会」は、自社の海外M&Aを成功と捉える企業が37%に留まっており、M&Aステージ別に取り組みを評価するとPMIフェーズに課題があることをまとめた。(図①)

 

 

M&Aを行う上では、対象企業を自社の戦略を実現するための最良のパートナーとして本当に買うべきか、M&Aの効果を実現するフェーズであるPMIを見据えて検討する必要がある。その検討開始タイミングによってM&Aの成否に大きな違いが生まれることが分かった。調査結果を見ると、案件の初期からPMI準備に着手していた企業ほど、当初目標とした価値をPMIにおいて多く実現できている(図2)ただ、回答企業のうちバリュエーション段階までにPMIの検討を開始しているのは約半数に留まっている。調査結果からもPMIの検討を早期に、できればデューデリジェンス開始以前に始めることの重要性が分かる。

 

 

 

もう1点、日系企業が陥りがちな課題として、ディールとPMIの断絶が挙げられる。M&Aが成立するDay1前後で担当者が変更される企業は少なくない。ディール段階で得た情報が適切にPMI担当者に引継がれず、首尾一貫したM&Aが実現されないケースが散見される。(図3)にあるように、この点も成否の分かれ目と言える。

 

 

 

こうした課題の解決に向けて、PMI体制整備とM&Aの期待効果を実現するPMI実行計画の策定を、Day1前より着手することが必須となる。

PMI実行計画策定の前提として、統合基本方針(Integration Blueprint)として、統合後の事業ビジョンやシナジー、統合に向けた取り組みを検討し、PMIプロジェクトにおける拠り所とする。統合基本方針をもとに、Day1における状態とEnd-State(最終的なあるべき姿)を定義し、そこに向かうべきアクションを策定する。

 

Day1までに必須なタスクの大別としては、法令の遵守に係るものとステークホルダーとの関係維持に係るものがあり、それぞれについて事前に網羅的に洗い出すことでDay1時点での「機能不全」に陥ることを防ぐことができる。

 

また、End-Stateの状態定義においては、買収目的やDeal Valueに立ち返ったうえで、期待効果を算出し、それを実現するためのシナジー施策を検討することが重要となる。

 

M&A、特にクロスボーダーM&AにおけるPMIの重要性はますます高まっている今だからこそ、PMI実行計画の策定のタイミング、またDay1前後への備えを進めておきたい。

 

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富野 賢治/Tomino Kenji

富野 賢治/Tomino Kenji

デロイト トーマツ グループ パートナー

大手通信会社、外資系コンサルティングファームを経て現職。主に製薬、通信、電機メーカー、消費財において、M&A/PMI、事業化・シナジー創出支援、組織再編におけるプロジェクトマネジメントを実践。IEBE Business SchoolにてMBA取得。