Posted: 09 May 2022 2 min. read

ノンコア事業・資産の「賞味期限」を見逃さず売却するためには

【シリーズ】『経営モデル変革の最前線』-Merger for growth-

「成長が期待できる事業ほど高く、成長が期待できない事業ほど低い」

成長の定義は各社によって様々であるが、これが一般的な買収における買収金額算定上の法則であり、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を算定手法とすれば、この傾向はさらに顕著となる。

 

一般的に、買収時には、当該事業・企業・施設(以下、事業等)に対し、被買収企業による十分な投資が行われ、良い人材が揃っている事を望む。一方で、売却時には立場が逆転する。投資を抑え、キャッシュを吸い上げ、良い人材を他事業部等に配置転換し、ギリギリまで搾り取ったノンコア事業等を売却しようとしても残念ながら良い価格はつかない。施設等の場合には、メンテナンス不足のため売却時に瑕疵が発覚する事例も少なくない。

このような現象は、既存の事業ポートフォリオからノンコア事業等を切り離す際にしばしば起こる。事業ポートフォリオ管理上は、ノンコア事業であっても、総合採算の中で管理・評価され、継続事業等として最適な意思決定が行われている。しかし、一方で、非継続事業としてみた場合、しばしば最適な売却時期を逸しているケースがあるのだ。

「最適な売却時期」とは、交渉できるだけの余力が残っているうちに売却することを意味する。過去実績が右肩下がりになっておらず、投資が一定程度維持されており、良い人材が残っている状態であれば、価格や条件交渉力が十分あると言える。次の成長エンジンである新たな事業を買収するための原資の一部としても活用できるだろう。

さらに、成長エンジンの買収は大型化する傾向があるため、同一会計年度にノンコア事業等の売却を実施できるのであれば、キャッシュフローへの影響を限定的にすることが可能だ。売却を買収より前に完了できるとしたら、買収によるブリッジファイナンスの額も軽減できるはずである。現在の金利水準が相対的に低いとはいえ、金利負担は無視できない。

また、大規模ディールの前後も注意が必要だ。ディールは、明示的であるか否かに関わらず、何かしらのメッセージを市場に向けて送っている。大規模ディールの後のノンコア事業の売却は、大規模ディール前の売却と比べて、交渉相手に足元を見られたり、自ら金利負担削減のために売却を急ぐあまり、十分な交渉時間を割く事ができない場合もある。

M&Aが企業戦略の1つの手段として一般化した今日において、オーガニック戦略とインオーガニック戦略は、表裏一体であり、双方のオーケストレーションが求められる。事業部・財務部がそれぞれ独自に奮闘するのではなく、連携が必要なのだ。持ち込み案件に頼るだけでなく、自らも案件を発掘し、キャッシュフローをコントロールする仕組みが必要であり、その仕組みを維持するためには、事業部と財務部の共通言語が必須となる。

無論その実現は、一朝一夕には難しい。故にまずは、買収検討時と同様に、潜在的なノンコア事業等のリスト作成と初期的な評価を行ってみては如何だろうか?

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