Posted: 15 Feb. 2022 2 min. read

M&A実践力向上を考える

【シリーズ】『経営モデル変革の最前線』-Strategy Centric M&A Deal Execution-

コロナ禍の状況が長引く中、生活者の価値観の変化やテクノロジーの進化と相俟って、製品やサービスに対する市場のニーズは昨今急速に変化している。同時に市場や競争に向き合う企業にとっても、将来へ向けた成長や変革が経営の重要な課題となっている。経営戦略を実現する手段の一つとしてM&Aの重要性が従前にも増して認識されるが、実際に個々の企業はM&Aを効果的に実践できているのであろうか。

 

リーマンショックに端を発した世界的な不況から脱した2010年代を通して、日本企業のM&A件数は一貫して増加の一途を辿ってきた。業界や事業の規模を問わず企業経営にM&Aが浸透していることを如実に示していると考える。企業が成長や変革を企図する時、自ら有するアセットのみで達成までの道筋を描けるケースは少なくなり、その過程において必要なリソースを取り入れていくM&Aはより必然のプロセスになっている、とも見ることができる。

一方で、デロイト トーマツ グループが過去に日本企業に対して行ったM&Aに関する意識調査において、成功と回答した割合は4割にも達していない。M&Aを成功に導くには、戦略ストーリー構想力、ディール実行力、そして実行後の経営力が何れも備わっていなければならない。それらの礎となる経営トップのコミットメントも不可欠である。このようなM&A推進の複雑さや難易度を考えれば、各企業が一朝一夕に成功を手にできるものではなく、試行錯誤を繰り返していることは想像に難くない。実際に代表的な大企業であっても、コーポレートの構想フェーズと事業部門の実行フェーズの間でM&Aの目的定義にズレが生じたり、M&A実行後の事業運営が、精緻な検討を経て作成されたはずの計画から大幅に乖離するなど「こんなはずではなかった」という事象が起きているのだ。

日本企業がM&Aの実践力を向上させていくには、何が求められるのであろうか。「M&Aに向けた取り組みの常態化」という言葉が一つのカギになると強く感じている。M&Aを個々の独立した一過性の検討機会と捉えることなく、中長期視点からリソースを配備することで体制を構築し、普段から能動的に取り組んでいく。また、標準的な検討プロセスを確立し、M&A検討推進の過程の中で絶え間なく直面する課題や論点に対して、合理的かつ適切な意思決定を行えるようにすることがM&Aを成功に導く第一歩であると考える。

将来へ向けた各企業の中期事業計画の達成は、従前にも増してM&Aの成否に大きく依拠している。戦略的に配備された専門リソースが、中計を事業部門単位で蓋然性のあるM&A戦略ストーリーに落とし込み、目の前に現れるM&Aの検討機会に意志を左右されることなく、潜在的なM&A対象に対して能動的に仕掛けるとともに、常にコンティンジェンシーのプランを持つことが重要である。

戦略ストーリーの具体化とともに、個々のM&Aディールエグゼキューションにおいては、戦略に則した合理的な意思決定を行っていくことも重要である。「買収ありき」でM&A検討を進め、描いた将来像を実現できないという失敗例は枚挙にいとまがない。ステークホルダーから支持を獲得し、失敗の可能性を低減する投資意思決定を洗練させていく必要がある。M&Aの目的定義、精査および意思決定のフレームワークを常時より築き上げておくことが望まれる。

これらの取り組みを常態化させていくことが個々のM&Aの成功確度を高め、またその積み重ねが中期事業計画の達成、ないしはその先にある企業の成長および変革の実現に繋がるものと考えている。将来に向けて、企業経営にとってM&Aの重要性は益々高まっていくであろう。日本企業がM&A巧者になるために、その実践力の向上を考えていきたい。

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荒木 毅/Tsuyoshi Araki

荒木 毅/Tsuyoshi Araki

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

国内およびクロスボーダーの領域において、M&A戦略策定、M&A対象選定、ディール検討推進(PMO)、ビジネスデューディリジェンス、企業財務・価値分析、交渉助言等、M&Aエグゼキューションプロセス全般に亘り一貫したサービスを提供する。製造業、重工業、エネルギー、テクノロジー、ヘルスケア等、幅広い業界に対して、ベンチャー投資からクロスボーダー大型M&Aまで、買収および売却ともに数多くの支援実績を有する。 関連するサービス: ストラテジー・アナリティクス・M&A(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ