第2回 生成AIアバターの特徴とサンプルアプリケーション ブックマークが追加されました
本連載では、顧客接点を大きく変革していくポテンシャルを持つ生成AIアバターについて、登場の背景および近未来に実現が期待されるユースケース、さらには導入に向けた考え方について、技術的な側面を抑えながら紹介していきます。第2回の本記事では、生成AIアバターの概要と特徴および、デロイト トーマツが開発しているサンプルアプリケーションについて解説します。
「アバター(化身)」という言葉について、ゲームやSNSで使われる「自分の代理となるキャラクター」を連想する方も多いかもしれません。ビジネス利用としては、人間の姿を模したアバターを通じて、遠隔での接客対応など、物理的な空間の制約を越えてコミュニケーションを行う手段として使われてきました。
従来のアバターは「人間の操作」によって動き、対話内容も人間が入力する形で行われていました。ここにコンテンツを自動生成できる生成AIが統合されることで、単純な遠隔対応の枠を超えた無人での応対、さらに回答の質においても「人間の知識・スキルの限界すらも解放する」可能性が生まれます。たとえば、大規模言語モデル(LLM)をバックエンドに持つアバターであれば、ユーザからの多種多様な問いかけに対して、さまざまな情報源からの最新データや企業独自の知見が統合されたより付加価値の高い応答を自律的に生成することができます。
生成AIアバターを端的に表現すると、外見は人間やキャラクターに近い形で視覚・音声的なインタラクションが可能であり、裏側では生成AIの核となるLLMや各種データソースがつながっており、ユーザの高水準な要求に応えられる存在です。主な特徴を挙げると、以下のようになります。
現在日本が直面している少子高齢化やインバウンド需要拡大に伴う人材不足などの社会問題は、必要な労働力の確保と効率的な運営の両面で大きな課題となっています。従来、人間が対応していた顧客窓口業務や観光案内、接客などの対面コミュニケーションを生成AIアバターに代替することができれば人手不足への対応策となり、また、観光においては地域の特産品や穴場スポット等、広く観光客に知られていない情報を案内することで、特定のスポットに観光客が集中する「オーバーツーリズム」の緩和にも寄与できる可能性があります。
生成AIアバターを単に人件費を抑えるための人間の代替ではなく、「人々の知識や対話力を拡張する手段」として活用することで、様々な産業における顧客接点を変革させる可能性があります。
デロイト トーマツでは、NVIDIA社との強力なアライアンス関係のもと、NVIDIA社が開発する生成AIアバター開発エンジンであるNVIDIA ACE(Avatar Cloud Engine)を活用したアプリケーション開発にいち早く取り組んでおり、日本で最初となる導入事例を公開しています(参考: NVIDIA ACEに関するプレスリリース記事)。NVIDIA ACEは、リアルタイムの音声合成や自然言語理解など、生成AIアバターに必要なコア技術群をクラウド上でスケーラブルに提供するプラットフォームであり、このプラットフォームには生成AIアバターを開発する上で必要となる機能群が一式揃っており、より柔軟かつ迅速に個々のユースケースを実装しやすくなります。
デロイト トーマツが実装を進める背景には、企業のDX戦略/生成AI活用戦略の一環としての「生成AIアバターを活用した新たな顧客体験」を、プロトタイプ開発を通してクイックに検証する目的があります。たとえば、小売での店頭の会話や、金融業におけるコンタクトセンター等、人と人とのコミュニケーションが重視される業界へのソリューションとして、生成AIアバターを活用することが想定されています。
デロイト トーマツが開発したデモアプリケーションである観光案内生成AIアバターは、2024年秋時点では以下の機能を実装しており、様々な企業とのディスカッションを通して日々改良を行っています。
また、サンプルアプリケーション開発を通して、生成AIアバターに必要となる技術的な機能のリファレンス・アーキテクチャも検討・整備をしています。生成AIアバターは技術的には大きくユーザインタフェース層とバックエンド&生成AI層にわけることができ、前者は画面表示・3Dアバターの動作・音声処理からなり、後者はLLMとの接続のほか、様々なデータソースとの接続やそれらをとりまとめるオーケストレーション機能ともいえる会話制御機能(チャットボット機能)からなります。リファレンス・アーキテクチャを検討することで、特定のソリューションに依存することなく、ユースケースに合わせて最適な組み合わせを選択することを可能にします。
サンプルアプリケーションの概要
サンプルアプリケーションの技術アーキテクチャ(2024年時点での実装)
今後の生成AIアバターの技術的な発展の方向性はいくつか考えられます。一つは、「不気味の谷」を超えたフォトリアルなアバターで、人間の顔や表情を精巧に再現できる3Dモデルを追求し、あたかも本当の人間かのように対話できるようになることです。一方で、リアルを追求するためには高いコンピューティングリソースが要求されて導入のハードルが高くなる懸念や、「本物の人間との見分けがつかないほどのリアルなアバター」が社会的に受け入れられる等、いくつか懸念も考えられます。
もう一つの方向性として、様々な情報を瞬時に統合・解析することで回答の質を高めることも考えられます。また、一個人では持ちえない圧倒的な知識量を自然なコミュニケーションで返すアバターであれば、あえてキャラクターデザインや声の質に“バーチャル感”を残すほうが親しみやすいかもしれません。
また、昨今急激に注目を浴びつつある「AIエージェント」の実現においても、生成AIアバターはもっとも顧客に近いインタフェースとして注目を浴びることでしょう。
第1回:生成AIの登場と顧客接点領域への期待
第2回:生成AIアバターの特徴とサンプルアプリケーション
第3回: 生成AIアバターのビジネスユースケース例
第4回: 生成AIアバターを活用したサービス設計におけるポイント
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Customer Strategy Operation
マネジャー 土本 良樹
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Customer Strategy Operation
パートナー 原 裕之
製造業(B2C、B2B共に)、小売業のお客様を中心に、コマースの専門家として戦略策定・企画構想から組織、オペレーション、システムの設計・導入、更には実行・改善までをEnd to Endで支援する。また、新規事業・サービスの立案から実行までの経験も多く有する。 近年はデジタルを起点とし業界の枠を超えた新規事業創出やDX(デジタルトランスフォーメーション)、従来の流通構造を変革するD2C(Direct to Consumer)やOMOの案件を数多く手がける。 また、全世界のデロイトのネットワークと連携し…