Posted: 10 Mar. 2025 5 min. read

第3回 生成AIアバターのビジネスユースケース例

シリーズ:生成AIアバターがもたらすCX革新

本連載では、顧客接点を大きく変革していくポテンシャルを持つ生成AIアバターについて、登場の背景および近未来に実現が期待されるユースケース、さらには導入に向けた考え方について、技術的な側面を抑えながら紹介していきます。第3回の本記事では、生成AIアバターの活用として今後実現が期待される「近未来的なビジネスユースケース」として、二つの例を紹介します。

(1) 観光案内アバター

課題

観光大国としての地位を確立しつつある日本ですが、インバウンド需要の高まりにより「オーバーツーリズム」が深刻な社会問題となっています。具体的には、限られた地域や人気スポットに観光客が集中し、環境への負荷や地元住民との摩擦が生じていることが挙げられます。特に、外国人観光客の応対に関しては、多言語対応ができるガイド人材の不足も深刻であり、円滑な案内がままならないケースも多く見受けられます。

さらに、情報の非対称性も課題です。SNSやガイドブックに大きく取り上げられたスポットに観光客が長蛇の列をなして殺到する一方で、多くの魅力的なスポットが埋もれたままとなるなど、公共交通機関等の都市リソースの利用も都市全体でみると非効率になっています。

ユースケース

こうした課題に対し、駅やバス停、観光案内所などの観光客が多く集まる場所に設置されたデジタルサイネージやタッチパネル上で生成AIアバターが相談に乗る「観光案内アバター」が、有力な解決策になると考えています。

たとえば、アバターに「翌日は雨の予報だが、雨天でも楽しめる観光スポットはどこか」「”今”あまり混んでいない穴場スポットはどこ?」と尋ねると、生成AIアバターは交通機関のリアルタイムな混雑情報や、地元のおすすめスポット情報、口コミサイトのレビュー、そして天気予報の情報を統合した上で、最適なプランを提案します。多言語対応もできるので、外国人観光客でも問題なくやり取りができます。

また、混雑していない箇所をレコメンドすることで特定の箇所の混雑を回避し、都市全体で見ると限りある観光資源を効率的に利用することができます。

生成AIアバターならではの価値
  • 多言語対応
    LLMが学習している多言語モデルを活用し即時対応が可能。
  • 様々なデータソースにアクセス
    交通機関の混雑状況、天気やイベント情報などの外部データソースを参照しながら最適な提案を実施。
  • あらゆるデジタルタッチポイントで利用可能
    街中のデジタルサイネージやスマートフォンアプリなど、ユーザが触れやすい媒体を選んで対話が可能。
  • インセンティブやナッジを活用した行動変容の促進
    生成AIアバターがリアルタイムクーポンを発行する等のインセンティブを与えたり、都市の全体最適を考慮したアドバイスを行ったりするなど、ユーザの行動を自然に変化させる仕組みを提供。結果として都市全体の混雑緩和とビジネス価値向上に寄与。

観光案内アバターによる都市全体の最適化への寄与イメージ

 

(2) 目標への伴走型Buddy

課題

資格試験や受験勉強などの学習目標に取り組む際、絶えず努力し続けたとしても当初描いていた結果を出すことは難しく、高額な家庭教師や学習塾に通い詰めても途中で挫折することが少なくありません。また、日本では受験戦争が社会問題化しており、過度なストレスやプレッシャーがかかることでメンタルヘルスに影響を与えるケースも後を絶ちません。

ユースケース

そこで役立つのが、生成AIアバターを「伴走型Buddy」として活用する例です。ジムのトレーニングメニューを実施する際や、資格・入学試験の勉強を進める際に、目標達成に向けて適時適切なアドバイスを絶えず提供し続ける役割を生成AIアバターが担います。

たとえば学習に関連した用途を想定すると、単純な学習履歴だけでなく、スマートウォッチやスマートリングなどのウェアラブルデバイスから得られる日々の睡眠データや心拍数、歩数などのバイタル情報もデータソースとして活用し、これらのデータをLLMによる解析に組み合わせることで、「今日は睡眠が不足気味だから、無理なトレーニングは控えめにしよう」や「今週は学習ペースが良好なので、次は模擬試験を受けてみよう」など、ユーザの体調や学習進度に合わせたきめ細かな助言を行うことができます。また、雑談でも話しかけたら気軽に応じるなど、孤独な戦いにおける相談役としても有用で、メンタルケアにも役立つ可能性があります。

生成AIアバターならではの価値
  • 行動履歴や目標達成状況をリアルタイムに分析
    従来の学習塾の講師では難しかった多角的なデータ解析を常時行い、その結果を元にした的確なアドバイスを提供。
  • 身体的・精神的負荷の軽減とパフォーマンス最大化
    ウェアラブルデバイスから取得するバイタルデータ等も参照しながら、オーバーワークを回避し、適切な学習プログラムを生成。
  • 孤独の解消
    いつでも相談相手になってくれるバーチャルなBuddyの存在が、モチベーション維持やメンタルケアに大きく寄与。

次回は、実際に生成AIアバターを活用したサービスを企画・推進していくにあたり、先端技術ならではの進め方・考え方を踏まえたポイントについて解説します。

【執筆者】

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Customer Strategy Operation
マネジャー 土本 良樹

【監修者】

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Customer Strategy Operation
パートナー 原 裕之

プロフェッショナル

原 裕之/Hiroyuki Hara

原 裕之/Hiroyuki Hara

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

製造業(B2C、B2B共に)、小売業のお客様を中心に、コマースの専門家として戦略策定・企画構想から組織、オペレーション、システムの設計・導入、更には実行・改善までをEnd to Endで支援する。また、新規事業・サービスの立案から実行までの経験も多く有する。 近年はデジタルを起点とし業界の枠を超えた新規事業創出やDX(デジタルトランスフォーメーション)、従来の流通構造を変革するD2C(Direct to Consumer)やOMOの案件を数多く手がける。 また、全世界のデロイトのネットワークと連携し、教育・スキル開発・機会創出の3分野でポジティブなインパクトを及ぼすことを目指す「WorldClass」というデロイトトーマツの取り組みにも積極的に関与する。 執筆 ・ソーシャルコマース 日本の視点 取り組み事例 ・未来の動画コマースとは ・産学連携の教育活動 関連サービス ・カスタマー・マーケティング >> オンラインフォームよりお問い合わせ