最新動向/市場予測

利上げ加速でリスク資産に黄信号:米国FRBの金融政策

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.83

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネージングディレクター
勝藤 史郎
 

米国FRBの金融政策が更にタカ派色を強めた。連邦公開市場委員会(FOMC)は6月の定例会合で、FF金利誘導目標レンジの0.75%引き上げを決定、更にFOMC委員による四半期経済予測における今後のFF金利予測中央値も上方シフトし、年内に3%半ばまで、来年には約4%まで引き上げることを示唆するものとなった。これは前回3月の同予測に比べ、年内の利上げ幅が1.5%、来年までの利上げ幅が1%拡大したことを意味する。当方では今年3月にFRB金融政策見通しを引き上げて以降も、さらにこれを徐々に上方修正し、6月FOMC直前時点では年末のFF金利を2.5%(FOMCの同予測における長期均衡金利)、来年はこれをやや上回る3%台半ばとしていた。しかしながら、6月FOMCの想定以上の利上げペース加速スタンスを反映してこれを更に上方修正した。

後付けながら、FRBの利上げペース加速の背景は、政策金利を可能な限り早期に中立以上の水準にまで引き上げる戦略にあると考えられる。テイラー・ルール公式1を用いた試算によれば、現在の需給ギャップ(米議会予算局推計による2022年の需給ギャップ:+0.1%)とインフレ率(4月時点の個人消費支出価格指数:前年同月比+6.3%)に対応する適正FF金利水準は約6%との計算になる。インフレ率が今後緩やかに低下して3%レベルになったとしても依然適正FF金利は4%台半ばが適正との計算になる。つまり現時点の経済環境は既に低めに見積もっても4%レベルのFF金利を正当化することになる。

利上げペースを決めるにあたり、新型コロナウイルス感染症再拡大リスクやウクライナ情勢の影響に配慮する場合は、利上げペースをより緩やかにすることが考えられる。しかしながら、パウエル議長自身が6月FOMC後の記者会見で述べたように、5月のFOMC定例会合以降インフレが「驚くほどに」急上昇し、一方経済は雇用を中心に過熱状態にある。こうした経済環境の変化背景に、FRBは適正な政策金利(中立水準を上回る)の適用が急務と判断したといえる。また、利上げペースを漸進的にした場合、インフレ率上昇がコントロール困難になる可能性、また利上げを徐々に進める間にウクライナ危機などの外部環境が急変して当初の金融政策シナリオが崩れるリスクも出てきている。結果、今回の利上げペース加速の判断は理にかなったものと考えられる。

他方、利上げペースの加速による弊害も考えられる。6月のFOMC直前に見られたような株式市場の急落を招くリスク(5月の当レポートご参照)、市中金利上昇による住宅ローンや自動車ローン、および企業設備投資への悪影響のリスク等である。さらに、米国の金融機関トップやエコノミストの間では、今後1年以内の米国の景気後退入りを見込む意見が増加しているとも聞く。当方では、利上げペース加速が実体経済を抑制する効果は、景気後退をもたらすほどのものではないと考えている。また株価指数などのリスク資産も、FRBのバランスシート縮小ペースが現状のFOMCの計画通りであれば、下落局面に転換することはないと考えている。しかしながら、NYダウ平均が、当方が上昇基調の中での下値のめどと考えている30,000ドルを一時割り込んだ(6月18日現在)ことは、株価急落はないとの当方見通しに、少なくともテクニカルには黄信号が灯ったと言わざるを得ない。

1 テイラー・ルール公式:(適正政策金利)=2%+(目標インフレ率)+0.5*〔(インフレ率)-(目標インフレ率)〕+0.5*(需給ギャップ)

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ マネージングディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

お役に立ちましたか?