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M&A会計の解説 第1回

組織再編会計の総論 

今回から12回にわたり「M&A会計の解説」と題して、M&A会計のポイントをQ&A形式で簡潔に解説します。第1回は「組織再編会計の総論」の取扱いについて解説します。

組織再編会計の考え方や会計処理について、Q&A形式でまとめました。

組織再編会計の考え方-「経済的実質」

Q:企業結合会計基準、事業分離等会計基準、そしてその適用指針など組織再編の会計ルールは、数ある会計基準の中でもボリュームはあるし、特に難解なルールだと思います。

A:そうですね。組織再編会計には、企業(または事業)と企業(または事業)が統合されるときの会計処理を定める企業結合会計と、分離されるときの会計処理を定める事業分離会計があります。そして、組織再編の登場人物は、結合企業(分離先企業)、分離元企業、それぞれの株主の4者になりますので、会計基準でもそれぞれの会計処理を定めています。会計処理の考え方は、合併・会社分割・株式交換・株式移転・株式の現金買収などの法形式ではなく、経済的な実質に基づいています。

Q:でも会計ルールでは、合併・株式交換など法形式ごとに規定がありますよね。

A:会計基準の規定が法形式ごとに定められているのは、その方が実務で使いやすいとの産業界からの要請によるものです。その根っこにある会計の考え方は、経済的実質に依拠しています。

 

企業結合会計の考え方-「第三者間取引は“支配”」

Q:それでは企業結合会計の考え方はどのようなものですか。

A:企業結合会計では、グループ内の企業結合を扱う「共通支配下の取引」の会計処理があります。これらは連結財務諸表には基本的に影響を与えない取引として簿価により会計処理します。それ以外の企業結合は第三者間の取引として「取得」という区分に分類されます(1)。「取得」に該当すると取得企業(買収者)を1つ決め、それ以外を被取得企業としたうえで、取得企業は被取得企業から受け入れる資産・負債、そして支払った対価をすべて時価で処理することになります。この結果、貸借差額が生じますが、これがのれん(または負ののれん)です。ここでは“支配”という概念がキーワードになります。

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(1) このほか、一定の要件を満たした合弁会社の設立に適用される「共同支配企業の形成」という分類がある。合弁会社の個別F/Sでは簿価を基礎とした会計処理が行われる。

 

事業分離会計の考え方-「投資の継続」と「投資の清算」

Q:事業分離会計の考え方はどうですか。

A:事業分離会計のキーワードは「投資の継続」と「投資の清算」です。例えば、現在保有している事業を第三者に移転し、受領した対価が「子会社株式」または「関連会社株式」の場合(事業分離後の分離先企業が分離元企業の子会社、または関連会社となる場合)には、移転された事業は株式を通じて分離元企業が依然として重要な関与をし続けているので(移転事業に対する投資は継続)、分離元企業で移転損益を認識するのは適当ではないとされています。他方で、受取対価が現金や株式であっても、「その他有価証券」に該当する場合には、移転された事業を売却したもの(移転事業に対する投資は清算)として移転損益を認識します(2)

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(2) 会計基準を開発する際に特に議論されたのが、受領した対価が「関連会社株式」となる場合には「投資の継続」とするか「投資の清算」とするかという点である。移転事業に対する支配は喪失したとはいえ、分離元企業が分離先企業の筆頭株主となる場合や、分離先企業との取引量や出向関係など分離元企業と密接な関係を保っている場合も想定される。検討の結果、日本の会計基準の体系も踏まえると、事業分離後の分離先企業が関連会社に該当する場合も、「投資の継続」の会計処理を行うこととされた。
 

企業結合会計と会社法(会社計算規則)-「会計基準がベース」

Q:組織再編関係に関連する会社計算規則の規定も分かりづらいですね。例えば、規則11条では、「会社は、吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができる。」とあります。そもそも「適正な額」とは何か、「できる」ということはのれんを計上しなくてもよいのでしょうか。

A:実は会社計算規則はその規定だけを読んでもわからない仕組みになっています。そのカギは規則3条の会計慣行のしん酌規定(会社計算規則の解釈に当たっては「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない。」と強制されている。)にあります。したがって、少なくとも大会社は、企業結合会計基準の適用を受けるのですから、先ほどの「適正な額」や「できる」というのは、企業結合会計基準に照らして解釈する必要があるわけです。すなわち、「会社法に違反していませんか」ではなく、「まず会計基準に従っていますか」となるわけです。

 

企業結合会計と税法-「適格」と「非適格」

Q:法人税法と企業結合会計基準はどのような関係になっていますか。

A:一般に税法は確定決算主義によるので会計をベースに税法が規定されていますが、組織再編に関する部分について両者は完全に別の体系ができています。たとえば会計では、取得は時価、共通支配下の取引は簿価で処理しますが、税法では一定の要件(3)を満たした場合は「適格」として簿価(非課税取引)、それ以外は「非適格」(課税取引)として時価で処理します。この結果、会計:取得(時価)=税務:「適格」(簿価)、会計:「共通支配下の取引」(簿価)=税務:「非適格」(時価)という組合せも実務ではよくあることです。このため、両者の差額を扱う税効果会計のルールも合わせて理解しておく必要がありますね。

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(3) 適格要件はグループ内再編(これには100%関係と50%超100%未満関係があり、それぞれ要件が異なる)と共同事業再編がある。例えば、会計上は「取得」(時価処理)となる第三者同士の合併であっても、対価として存続会社の株式のみが交付され、主要な事業を引き継ぎ(合併後直ちに事業を廃止しない)、概ね80%以上の従業者の引継ぎ、規模が概ね同等(1:5以内)といった適格要件を満たせば、税務上の簿価による処理が行われ、課税は繰り延べられることになる。

 

企業結合会計に関する日本基準と国際会計基準-「取り扱い範囲」

Q:最後に国際会計基準(IFRS3号「企業結合」)とは体系に違いがあるのでしょうか。

A:IFRS3号は、個別財務諸表ではなく連結財務諸表を対象とした規定であること、共通支配下の取引の会計処理は取り扱っていないことなど、日本の企業結合会計基準と比べ、取り扱われている範囲は狭いといえます。また、国際会計基準はあらゆる国の制度に対応する必要があるため、法形式ごとの定めもありません。


なお、会計処理の内容の相違(のれんの償却・非償却などの相違)の説明は別の機会に譲りたいと思います。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2016.01.27)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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