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M&A会計の解説 第9回

連結財務諸表における事業分離会計

12回にわたり「M&A会計の解説」と題して、M&A会計のポイントをQ&A形式で簡潔に解説します。第9回は、連結財務諸表における事業分離会計について解説します。

連結財務諸表における事業分離会計について、Q&A形式でまとめました。

分離元企業の会計処理-事業の移転の考え方(持分の交換-全部交換と部分交換)

Q:今月は連結財務諸表における事業分離会計を取り上げたいと思います。
まず、X社(分離元企業:分割会社)は、資本関係のないY社(分離先企業:承継会社)にS事業を移転します。移転するS事業の簿価は400、この事業を売却したときに得られる額、すなわち時価は1,000とします。Y社の組織再編前の時価(Y社株式の時価)は1,500、純資産の時価(のれん価値は含まない)は1,200とします。

X社は移転した事業の対価としてY社株式を400株受け取ります。Y社の組織再編前の発行済株式は600株だったので、組織再編後の発行済株式1,000株に対するX社の保有比率は40%となります。事業移転後のY社の時価は、単純合算で2,500(=1,500+1,000)になりますね。

【図表1】組織再編のイメージ

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

 

A(会計士):会計処理の考え方を理解するため、この取引の経済的な意味を2つの見方により確認してみましょう。
1つ目は、持分(事業)の全部を交換する取引と考えるもので、X社は時価1,000のS事業をY社に移転する代わりに1,000(=(1,500+1,000)×40%)のY社株式を受け取るというものです。

もう1つは、持分(事業)を部分的に交換する取引と考えるもので、以下の(1)と(2)の持分がX社とY社との間で部分的に交換されたと考えるわけです。

(1) S事業(移転事業)に対するX社(分離元企業)の持分60%の減少(100%→40%)
→ 移転事業の持分の売却(残りの40%はX社が引き続き保有)
(2) Y社(分離先企業)に対するX社(分離元企業)の持分40%の増加(0%→40%)
→ 分離先企業の持分の取得(残りの60%は第三者(非支配株主持分)が引き続き保有)
 

すなわち、X社はいったんS事業のすべてをY社に移転しますが、Y社株式を40%保有することになるので、その株式を通じて移転後もS事業の持分を40%保有し続けます。したがって、本当の意味で切り出した(売却した)S事業の持分は、時価ベースで600(=1,000×60%)であり、これと引き換えにY社株式600(=1,500×40%)を受け取ったと考えることができます。

 

持分の交換と会計基準の用語との関係

Q:これと会計処理とはどのような関係があるのですか。会計基準では難しい言葉を使っていて、何度読んでも意味が分からないというか、読む気がしなくなるというか。

A(会計士):私も同感です。ただ、会計基準で記載されている内容自体はあまり難しくないのです。先ほどの交換取引についての全部・部分の考え方でいうと、日本の事業分離等会計基準は、分離先企業Y社が子会社となる場合(支配継続)のほか、関連会社となる場合(支配喪失)も、持分の部分的な交換取引の考え方で作られています。 

【図表2】事業分離における持分の交換

※ 事業移転後の分離先企業が子会社となる場合には資本剰余金となり、関連会社となる場合には、持分変動差額(特別損益)となる。
注:交換される持分の時価(太枠部分)は等価であると考えられる。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

図表2は、先ほど見ました組織再編のイメージ図(図表1)を、事業分離等会計基準に従い、会計基準で使われている用語をア~エとして整理したものです。

持分の部分的な交換取引の考え方に従い、経済的には右上の点線太枠(イ:S事業の60%持分の時価(600))を移転する代わりに、左下の点線太枠(エ:Y社の40%持分の時価(600))を受領することになりますが、会計処理上は、イ(時価)に対応する帳簿価額(240)との差額(360)、言い換えれば移転事業に係る含み損益と、エ(時価)に対応する純資産の時価(480)との差額(120)をどのように処理するか、という点がポイントとなります。
 

事業分離後に分離先企業が子会社となる場合-のれんと資本剰余金の発生

Q:それでは、具体的にY社(分離先企業)がX社(分離元企業)の子会社となった場合(持分40%であるが他の要件で支配が成立しているものとみなす)の会計処理について伺います。

A(会計士):イの部分の差額(360)、つまりX社が保有していたS事業に対する含み損益に相当する部分ですが、これは事業がY社に移転しても支配が継続しているため、含み損益を実現させるのではなく、X社の資本剰余金を増減させることになります。これは平成25年改正で持分変動差額(損益取引)から資本剰余金(資本取引)に変更された点ですね。ちなみに、事業移転後も持分として保有する40%部分は、経済実態としては何も変わらないので帳簿価額のまま据え置くイメージとなります。

次に、エの部分ですが、X社(分離元企業)は、第三者であるY社の支配を獲得し、子会社としたわけですから、連結財務諸表上、Y社(分離先企業)に対する持分の増加についてパーチェス法を適用します。したがって、ウとエの差額(取得した事業の時価とこれに対応する識別可能資産・負債の時価との差額)(120)を、のれん(又は負ののれん)として処理します。

事業分離後に分離先企業が関連会社となる場合-のれんと持分変動差額(損益)の発生

Q:次にY社がX社の関連会社となった場合はどうなりますか。

A(会計士):この場合には、アの移転事業に対応する含み損益部分(360)が、資本剰余金ではなく持分変動差額(特別損益)となります。関連会社となった場合には支配を喪失したことになりますので、連結財務諸表上、移転された事業に対応する部分については、一部売却のイメージで持分変動損益(特別損益)に計上することになります。ちなみに、40%部分(事業移転後も連結B/S上、関連会社株式として計上される部分)は、投資の継続とみて簿価を継続(「連結財務諸表上の帳簿価額」を「持分法による評価額」として承継)することになります。

また、(2)のY社(分離先企業)に対する持分の増加により生じた差額(120)ですが、持分法が適用されるという違いはあるものの、子会社となる場合と同様、のれん(又は負ののれん)となります。
 

事業分離後に分離先企業が子会社・関連会社以外となる場合-事業の売却損益

Q:Y社(分離先企業)が子会社や関連会社以外となる場合はどうなりますか。

A(会計士):事業分離の対価として受け取ったY社株式がX社にとって「その他有価証券」として分類される場合ですね。この場合は単体財務諸表の場合と同様、「投資の清算」、すなわち事業の売却となり、X社の単体財務諸表上の会計処理を、連結財務諸表上もそのまま受け入れることになります。

 

国際会計基準との考え方の相違-分離先企業(Y社)が関連会社となる場合の残存持分

Q:先ほど日本の事業分離等会計基準では“持分の部分的な交換取引”として考える、とのことでしたが、国際会計基準は違うのですか。

A(会計士):国際会計基準では、Y社が子会社となる場合(支配継続)は日本と同様の会計処理となりますが、関連会社となる場合には、移転後も保有する残存持分40%は支配の喪失に伴い投資の性格が変わったものとして、40%部分も含めて一旦100%売却し、新たに40%を取得するという持分(事業)の全部交換取引と考えることになります。事業の移転の前後で40%部分は別の銘柄と考えるイメージですね。この結果、日本基準ではX社の計上する事業移転後の関連会社株式の帳簿価額は160(=400×40%)ですが、国際会計基準では400(=1,000×40%)となり、このケースでは、国際会計基準ベースの方が利益は240多く計上されます。
 

子会社に事業分離した場合(共通支配下の取引)-差額は資本剰余金で処理

Q:最後に、X社には子会社があり、その子会社に対して事業を移転した場合、すなわち、企業集団内で行われた事業分離の場合にはどうなりますか。

A(会計士):この取引は、共通支配下の取引となり、分離元企業の連結財務諸表上、以下の差額を資本剰余金として処理します。

(1) 移転した事業に係る分離元企業(親会社)の持分の減少額
(2) 追加取得により、子会社に係る分離元企業(親会社)の持分の増加額(追加取得持分)
 

連結B/S上、もともと親会社と子会社の資産・負債はすべて計上済で、この取引により変動するのは純資産の内訳である親会社持分と非支配株主持分だけとなります。平成25年改正では、事業分離の前後で支配が継続している以上、持分の変動から生じた差額は、資本剰余金として処理し、損益には一切反映させない、ということになりました。


本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2016.09.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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