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M&A会計の解説 第12回(最終回)

組織再編に関する開示

12回にわたり「M&A会計の解説」と題して、M&A会計のポイントをQ&A形式で解説します。最終回の今回は、組織再編に関する開示について留意事項を解説します。

組織再編に関する開示について、Q&A形式でまとめました。

追加情報- 一定の場合には必ず注記をしなければならない事項

Q:いよいよシリーズの最終回となります。本日は組織再編に関する開示について伺います。
まず、組織再編全般に関する開示の留意事項について伺います。

A(会計士):組織再編の開示に限ったことではありませんが、「追加情報」についてコメントします。有価証券報告書の開示規則である財務諸表等規則では、「この規則において特に定める注記のほか、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない。」と定めています。すなわち、投資家等が財務諸表を理解して適正な判断を行うために必要な情報は記載することが「望ましい」とか「記載することができる」ではなく、記載しないと法令違反になる、ということです。組織再編に関する開示との関係でいえば、組織再編のすべてのパターンを財務諸表等規則で網羅的に定めることは困難ですから、ある組織再編に関する開示をするかどうかを判断する場合には、関連する、あるいは類似する注記の趣旨を踏まえ慎重に対応することが必要と考えます。

Q:たとえば、100%子会社同士の合併が行われた場合の親会社の個別財務諸表での開示はどうなりますか。

A(会計士):親会社にとっては投資先の合併であり、親会社の個別財務諸表における開示は不要と考えます。ただ、親会社が業績の悪い子会社に対する債権に貸倒引当金を設定している、あるいは投資損失引当金を設定している場合で、当該子会社が業績の良い他の子会社と合併すると、業績の改善ではなく合併の結果として、親会社の個別財務諸表上、貸倒引当金や投資損失引当金の戻入益が発生することもありえます(複数の事業子会社が株式移転を行い、中間持株会社を設立した場合も同様のことがいえる)。このような場合には、親会社の損益計算書(特別損益の内容の注記)などで、注記の要否を検討することが必要だと考えます。
 

組織再編に関する注記と会社法

Q:会社法(会社計算規則)では、重要な後発事象など一部の事項を除き、企業結合・事業分離等に関する注記は特に求められていませんね。

A(会計士):はい。ただ、会社法は、非上場の企業も対象とした開示ルールを定めていますので、多数の利害関係者がいる上場会社においては、追加開示すべき情報がないかどうかを検討することが適当です。この場合の追加開示される注記は会社計算規則116条の「その他の注記」に該当します。
 

「取得」とされた企業結合の注記- プロフォーマ情報

Q:取得による企業結合が行われた場合、「企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額」(以下「プロフォーマ情報」という。)が求められる場合がありますね。

A(会計士):はい。この注記は、統合後の企業の業績推移の把握に役立つ情報を開示することが目的なので、【図表1】の「連結P/Lに反映されていない部分」の影響が大きい場合、すなわち、被取得企業の規模が大きい、あるいは年度末近くに買収が行われた場合には、その開示が必要となるケースが多くなります。なお、この注記は合併や株式交換により子会社化する場合のほか、株式を現金で取得して子会社化する場合にも当然に適用されますので、注記が漏れないように留意する必要があります。 

Q:連結損益計算書への影響の概算額はどのように算定するのですか。

A(会計士):この注記は、もし、企業結合が期首に実行されていたら当期の連結損益計算書はどのような概算数値になっていたのか、という仮定の数値です。このような計算方法の重要な前提条件の考え方と例示については適用指針に記載されています。たとえば、期首にさかのぼって被取得企業の資産・負債の時価を改めて算定する必要はない、被取得企業の期首から企業結合日までの収益及び期間損益を基礎とする、取得企業が通常の努力で入手可能な情報を使用する、企業結合のシナジー効果を期首にさかのぼって算定しない、などがあります。なお、この情報は会計監査が困難な場合もあり、その場合には、金商法上は監査されていない旨を連結財務諸表に注記するという対応が認められています。ただし、会社法監査においては、当該注記を監査証明の対象から除くことはできないので、そもそも計算書類には注記しないようにします(監査人の監査対象ではない事業報告に記載することはできる)。

 

事業分離における分離元企業の注記-分離事業に関する損益情報

Q:重要な事業分離が行われた場合、分離元企業の注記として、その年度の損益計算書に計上されている分離した事業に係る損益の概算額の注記が求められていますね。

A(会計士):はい。これは【図表2】の「連結P/Lに反映されている分離事業に係る損益」の概算額の開示で、分離元企業の業績推移の把握に役立つ情報の開示が目的です。この注記は、先ほどのプロフォーマ情報とは異なり、監査対象となることに留意する必要があります。 

Q:連結財務諸表を作成する会社の子会社が企業結合を行った結果、その会社が子会社に該当しなくなる場合(連結から除外)には、その年度において、分離事業に係る損益情報と同様、一定の事項の記載が求められますね。

A(会計士):はい。事業分離における分離元企業と、子会社を被結合企業とする企業結合における当該被結合企業の株主(親会社)とでは、経済的効果が実質的に同じであることから、両者の会計処理及び注記事項も整合的なものとしたためです。その注記がもれないように留意する必要がありますね。


以 上

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2016.12.19)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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