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M&A会計の解説 第4回

取得の会計処理(3)-のれんの償却等と国際会計基準との差異

12回にわたり「M&A会計の解説」と題して、M&A会計のポイントをQ&A形式で簡潔に解説します。第4回は前回に続き、取得の会計処理(パーチェス法)で生じる「のれん」について、のれんの償却等と国際会計基準(IFRS)との差異も含めて解説します。

取得の会計処理-のれんの償却等と国際会計基準との差異について、Q&A形式でまとめました。

のれんの会計処理-企業結合後に行う会計処理の検討事項

Q:今月は取得の会計処理(パーチェス法)で生じる「のれん」について伺います。

A(会計士):買収にいくら投資したのか(取得原価の算定)、買収先から受け入れた資産・負債はいくらか(取得原価の配分)を無形資産の扱いを含めしっかり計算していれば、のれんは両者の差額で計算されるため、総額そのものの把握は容易です。しかし、買収後の会計処理を行うときは、のれんをセグメント等に配分すること、そして償却期間を決めるという難しい問題が残されています。

のれんの配分

Q:のれんをセグメント等に配分するというのは、どういうことですか。

A(会計士):のれんは、通常、買収対象となった企業グループ全体で一括計算されますが、買収後の会計処理、たとえば買収した一部の事業を売却するときや減損テストを行うとき、のれんがどの事業(セグメント、会社、資産グループ)に関連しているのかを整理する必要があります。

Q:たとえばある会社がP社を吸収合併します。そして、そのP社は、異種事業を営む重要な子会社S社を有しているようなケースですね。

A(会計士):はい。この場合、減損判定の単位(資産のグルーピング)が異なると思いますので、のれんの配分はP社の事業とS社の事業(株式)に配分することになります。また、仮にP社とS社が同種事業であっても、合併後の単体財務諸表におけるのれんの償却負担額(P社事業関係)とS社株式の時価評価(S社事業関係)に影響を与えることになりますので、一定の整理が必要になります。通常、買収対価は買収対象となる企業グループ全体で算定されるので、のれんの発生原因をセグメント等に紐付けることは困難ですが、セグメントや会社ごとの収益力など(過去実績や将来見込み)を踏まえ、のれんの償却負担が合理的になるように配分することが考えられます。

 

のれんの償却期間

Q:のれんはその効果の及ぶ期間で償却しますが、具体的にはどうするのでしょうか。

A(会計士):償却期間の決定はとても難しい問題です。国際的な会計基準でのれんを非償却としている主な理由の1つです。日本の会計基準では、20年を上限としたうえで、「売却による回収額と利用による回収額が等しくなると考えられる時点までの期間」とか「実務上、投資の合理的な回収期間を参考にすることも可能」とされています。個人的には10年を超える期間を設定するときには、なぜ効果の及ぶ期間が10年より長いのか、という根拠(定性的な説明を含む)を特にしっかり説明することが必要だと思います。
償却期間の考え方については、平成26年に企業会計基準委員会(ASBJ)も関係したリサーチ・グループの見解として、企業は通常、以下の諸要因を考慮することになるとの考え方が紹介されており、これも参考になると思います。

【表】ASBJディスカッション・ペーパー「のれんはなお償却しなくてよいのか-のれんの会計処理および表示」を要約
  • 取得した事業が単独の事業としてより高い収益率を稼得すると取得企業が見込む予想期間
  • 取得企業と被取得企業の純資産及び事業の結合により生じるシナジーや他の便益が実現する期間
  • 企業結合に係る投資の予想回収期間(※1)
  • 主たる識別可能な長期性有形資産(無形資産を含む)である主要な資産の耐用年数(又は資産のグループの加重平均耐用年数)(※2)

(※1) 回収期間自体は償却期間の定義を満たさず、企業は償却期間を決定する際に適切な調整を行うことが必要となる。なお、企業は通常、投資回収期間に関して深い議論及び分析を行っており、これは超過収益力が減少する期間を見積るための良い出発点になる。
(※2) 取得した事業がある特定の資産に大きく依存し、超過収益力が消滅する期間と当該特定資産の耐用年数との間に合理的な相関関係がある場合にこれは特に有効になるかもしれない。

 

負ののれんの会計処理-資産・負債の時価をよく検討

Q:次に「負ののれん」が発生した場合の留意事項はありますか。

A(会計士):負ののれんは、被取得企業の価値が、個々の資産・負債の時価総額以下しかないという、いわば異常な状態です。したがって、資産の時価が適切か(資産の時価が被買収企業の将来の事業計画を基礎としている場合にはその達成見込みの程度や、本当にその値段で売買ができるのかなど)、負債は網羅的に把握されているか、を念入りにチェックする必要があります。買収対価が上場株式の場合には、負ののれんが生じるケースもあると思いますが、対価が現金の場合には、要注意です。

 

国際会計基準(IFRS)との相違-IFRSではのれんは非償却

Q:日本基準では、のれんは20年以内の期間で償却、IFRSではのれんは非償却、そうするとIFRS適用会社は償却負担が少ない分、有利ですね。

A(会計士):必ずしもそうとは限りません。


 

のれんの範囲-IFRSは非償却となるのれんの範囲が狭い

A(会計士):まず、のれんの範囲が違います。日本基準では、のれんも無形資産も償却されるので、無形資産として分類するかどうかのルールは海外と比べて緩いといえます(最低限、対価計算の基礎に含まれているものを区分)。他方、IFRSでは、両者の区分は償却・非償却の差となるので、市場関連資産(ブランド、販売権など)、顧客関連資産(顧客リスト、顧客基盤など)、技術関連資産(特許権、ソフトウェアなど)などを、時間とコストをかけてきちんと無形資産に分類します。また、無形資産は原則として償却され、耐用年数が5年など短いものもあります。つまり、日本の「のれん」はIFRSでも償却される無形資産を含んだ金額となっている可能性があり、IFRSを適用すれば日本でいうところの「のれん」すべてが非償却となる、と考えるのは誤解だと思います。

 

のれんの減損テスト-IFRSは減損の機会が多い

A(会計士):それから、減損テストについて、日本基準では関連する営業損益が継続して赤字となるなど兆候がある場合にチェックすればよいのですが、IFRSでは兆候の有無にかかわらず毎年「減損テスト」を実施しなければなりません。さらに、のれんの減損が必要かどうかは買収した事業などから得られる予想キャッシュフローの総額によって決まりますが、その総額の計算において、日本基準では現在価値に割引しませんが、IFRSでは割り引きます。買収事業は長期のキャッシュフローを予想することが多いので、その差は大きくなることがしばしばです。このように、IFRSは日本基準より減損しなければならない機会が多いので、減損損失が計上されやすいといえます。

Q:確かに単純にはIFRS適用会社が有利とはいえないわけですね。

 

のれんの会計処理に関する国際会計基準審議会(IASB)の動向

Q:最近、IFRSを作るIASBは、のれんの会計処理の見直しを検討しているようですね。

A(会計士):現在の方法だと減損のタイミングが遅れ気味だとか、のれんは競争により価値が消滅するので償却すべきではとか、減損テストが複雑であるとか、さまざまな意見があります。

Q:今後、IFRSでは、のれんを償却するルールに改正されるのでしょうか。

A(会計士): IASBでは、今後、(1)のれんを償却する方法と、(2)のれんは非償却とするが、減損テストを改善(簡素化を含む)する方法を中心に調査研究を進める予定です。仮に会計基準が改正されるとしても、現時点ではその方向性は分かりません。


本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2016.04.26)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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