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M&A会計の解説 第2回

取得の会計処理(1)-取得企業の決定 

12回にわたり「M&A会計の解説」と題して、M&A会計のポイントをQ&A形式で簡潔に解説します。第2 回は「取得の会計処理(1)-取得企業の決定」について解説します。

取得の会計処理‐取得企業の決定について、Q&A形式でまとめました。

事業と資産の購入取引の違い-のれんが発生するかどうか

Q:今月は第三者同士の企業結合に適用される「取得」の会計処理(パーチェス法)のうち、最初のステップである取得企業(買収者)の決定方法を伺います。その前に、そもそも企業結合会計基準が適用される「事業」とは何ですか。

A:会計基準では、「事業」とは「企業活動を行うために組織化され、有機的一体として機能する経営資源をいう」とされています。したがって、多くの場合、事業は、個々の資産の価値(時価)の単なる合計より、“組織化され有機的一体として機能”している分だけ価値があり、また人的資源を伴うことが一般的です。

Q:「事業」に該当すると企業結合会計基準が適用されますが、「事業」に該当しないときと比べて会計処理にはどのような違いがあるのですか。

A:細かい点はいくつかありますが、一番の違いは「のれん」が計上されるかどうかでしょう。事業を買う場合、購入者は個々の資産価値合計より多くの対価を支払っていると想定されますが、会計上は、資産価値合計より多く支払った部分を「のれん」として資産に計上します。時々、資産価値合計より少ない対価で事業を買える場合もありますが、そのときは割安購入益の性格を持つ「負ののれん」発生益として購入時の利益となります。

次に、取引の対象が、事業の定義を満たさないことから企業結合会計が適用されない場合には、「資産(又は資産グループ)の取得」として会計処理されます。この場合、資産(グループ)を購入した企業は、次のように会計処理します。

(1) 個々の資産(無形資産を含む。)・負債を識別する。
(2) 購入総額を、購入日における資産・負債の時価比率でそれぞれの資産・負債に配分する。

このように、取得原価の総額を受け入れた資産・負債にすべて配分するため、のれん(又は負ののれん)は生じないことになります。

なお、売り手側にとっては、売却の対象が事業であっても資産であっても、基本的に同様の会計処理となります。

 

第三者同士の企業結合-買収者を必ず決定する

Q:それでは、今月のメインテーマである取得企業(買収者)の決定方法について伺います。A社がB社を吸収合併するケースで考えてみましょう。一般に「対等の精神」で合併するとプレスリリースされているので、一方が他方を買収したと決めるのはどうかと思いますが。

A:ただ、会計の世界では、第三者同士の合併では、買収者(取得企業)を必ず1つ決め、他方を買収したというストーリーで会計処理を行います。少し固い表現ですが、「取得企業」とは、他の企業に対する「支配」を獲得する企業、そして「支配」とは、ある企業の財務及び経営方針を左右する能力を有していること、とされています。「対等の精神」と「財務及び経営方針を左右する能力」とは分けて考えることになります。

 

買収者の決定方法-いくつかの要素を総合判断

Q:では、A社がB社を吸収合併した場合には、どのように判定するのですか。

A:その合併で対価が現金であれば、A社はB社を買ったことが明白です。問題は、合併対価としてA社(存続会社)の株式をB社株主に交付したときです。

Q:A社がB社を吸収合併したのだから存続会社であるA社が買収者ではないのですか。

A:そうではありません。規模が小さいB社を法的には存続会社としつつ、経営の主導権は実質的にA社が握ることも可能です(これを「逆取得」という)。このため、法形式に関わらず、会計ルールでは、以下の【表】に示した要素(例示)を総合的に勘案して決定する、とされており、これは国際会計基準も同様です。

【表】合併の対価が株式の場合の買収者(取得企業)の決定要素

(1) 相対的な議決権比率(合併後会社に占めるA社株主及びB社株主の議決権比率)
(2) 最も大きな議決権比率を有する株主の存在
(3) 取締役を選解任できる株主の存在
(4) 取締役会の構成
(5) 株式の交換条件(プレミアムを支払っているか)
(6) 相対的な企業規模(総資産額、売上高、純利益)


Q:“
総合的”な判断をすると、どの項目に重きを置くかにより結論が変わりますね。

A:そうですね。(4)の合併後会社の取締役にA社関係者が多ければ、A社が「財務及び経営方針を左右する能力」があるといえるでしょう。判断の難しいケースとしては、(4)の取締役は同数で引き分け、企業規模に関係する(1)の相対的な議決権比率や(6)の相対的な企業規模はA社のポイント、ただB社にはオーナー経営者がいて、合併後も相当程度影響力がある場合など(2)の大株主はB社のポイント、という場合があります。どの項目に重きを置くべきか、という点はケースバイケースですが、先ほどの「支配」の定義に照らして判断することになります。このように取得企業の決定は、当事者の主観的要素も大きいので、会計基準では取得企業の決定の根拠を財務諸表に注記することを求めています。

取得企業の決定-関係者と協議し、速やかに決定

Q:取得企業がどちらになるかによって、実務上はどのような影響がありますか。

A:まず、取得企業の決定は、出来る限り、速やかに決める必要があります。会計処理をはじめさまざまな事項のスケジュールにも影響を与えますので。どちらの会社を存続会社とするか、取得企業とするかは経理部門だけで決められるものではないので、経営トップともよく協議し、また、後戻りが生じないよう両社の会計監査人ともよく協議しながら進めることが必要です。

 

のれん又は負ののれんの額-将来の利益計画への影響

Q:取得企業が決まったあとは、どのような会計処理が必要になりますか。 

A:取得の会計処理(パーチェス法)は、買収者(取得企業)が買収された会社(被取得企業)の個々の資産・負債を時価で受け入れ、支払対価(時価)との差額をのれん(又は負ののれん)として会計処理します。どちらの会社が取得企業となるかによって、のれん(又は負ののれん)の額が大きく変わり、ときにはA社が取得企業であればのれん、B社が取得企業になれば負ののれんが生じる、というケースもあります。のれんは20年以内の効果の及ぶ期間で償却しますので(負ののれんは一時の利益)、企業が投資家等に公表する将来の利益計画にも重要な影響を及ぼすことになります。

また、通常、デューデリジェンスにより被取得企業の主要な資産・負債を調査していますが、会計処理を行うに当たっては、重要な資産・負債を企業結合日の時価で改めて評価することになりますので、その方法や考え方など監査人とも協議しておく必要があります。

 

会計方針の統一-取得企業の方法に合わせることが一般的

Q:A社とB社で会計方針が相違するときは、そのままでも構わないのでしょうか。

A:合併後は会計方針を統一する必要があります。通常、同一業種であっても具体的な会計処理の方法は意外に違うものです。システム等の状況により異なるものの、企業結合前の簿価が継続される取得企業の会計方針に被取得企業が合わせることが一般的です。

 

事務処理の観点-逆取得を避けること

Q:最後に、実務的な観点から、合併で気をつけた方がよいことを教えてください。

A:事務負担の観点からは、合併であれば、存続会社が取得企業になることが適当です。消滅会社が取得企業になると(逆取得)、存続会社の資産・負債について時価(連結)と簿価(個別)の2つの帳簿を保持する必要があるなど、追加の事務負担が生じるためです。

 

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2016.02.24)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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