Posted: 21 Jan. 2020 3 min. read

第4回 金融ビジネスにおけるDX事例から見える「これからの価値創造」

【シリーズ】DXの本質:インサイトドリブン経営をめざして

金融ビジネスはデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を最も早くに求められた業界である。それ故に、既存金融機関の取り組みは、他業種においても今後の参考となるだろう。そこで、今回はDX事例として英国系大手金融グループであるバークレイズの取り組みを紹介したい。

本稿は2019年11月20日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:DX発データ経営革命(4)外部活用し新金融サービス」を一部改訂したものです。

 

オープンバンキングというキーワードに代表されるように、昨今の金融ビジネスは事業構造自体が大きな変革を迫られている。オープンバンキングとは、顧客利便性の高い金融サービスを目的に、他の事業者が既存の銀行システムへアクセスできる仕組みである。この仕組みが、大手IT企業やスタートアップ企業の金融サービスへの参入を一段と加速させている。

欧州では2018年1月のEUによる「改訂版決済サービス指令」で、金融機関のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=外部システムと連携するための技術仕様)開放が義務付けられた。非金融事業者が既存の金融ビジネスモデルの創造的破壊(ディスラプト)を狙う中、伝統的な金融機関は非常に難しい局面を迎えている。

バークレイズは2014年からフィンテック関連スタートアップ企業の育成を支援するプログラムを開始した。対象企業は、バークレイズが拠出したファンドから出資を受けられる。現在、既に160を超える企業が選ばれ、その評価額は総額10億ドルを超える。暗号資産調査のチェイナリシス(Chainalysis)、個人向けオンライン住宅ローン仲介のモーティ(Morty)、スモールビジネス向け銀行プラットフォームのNOVO、個人向け銀行手数料交渉の自動化のハーベスト・プラットフォーム(Harvest Platform)などユニークな企業が新たな顧客価値を創出している。

戦略的な提携や出資を通じ、デジタルを活用したこれまでにない金融サービスを次々と作り出し、それらを自社グループのコアビジネスに統合してエコシステムを形成するその様相は研究開発の次世代の姿と言えよう。

バークレイズのこの事例は、デジタル変革が事業構造をも変えることを自覚し、積極的に推し進めることで新たな価値創造を実現した一例である。DXは単なるIT投資ではない。今後起こりうる社会や経営環境の変化を見据え、それらとどう向き合うべきかを検討し、自社のビジネスや顧客価値を再定義し、次なる一手を打つことが求められる。

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