Posted: 21 Jan. 2020 3 min. read

第1回 DXの本質=データ×分析技術×ビジネス機能

【シリーズ】DXの本質:インサイトドリブン経営をめざして

AI・IoT・ブロックチェーンなどのデジタル技術で個人の嗜好にあわせた商品の推薦、需給に応じた価格設定、暗号資産での決済、シェアリングなど新たな顧客体験が提供されている。このようなデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革をデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ぶ。

本稿は2019年11月15日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:DX発データ経営革命(1)情報発掘し新たな価値創造」を一部改訂したものです。

 

DXは単に最新ITで既存システムを入れ替えることではない。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)により既存業務プロセスを効率化するだけのものでもない。顧客接点の多様化、業務プロセス、サービス提供方法、課金モデルまでビジネス全体を大きく変革することだ。

欧米・中国企業がDXで先行するのに対し、日本企業は遅れが目立つ。これは日本に米国のGAFAや中国のBATのような企業がないからではない。一番の要因は、日本企業が既存の最適化された業種構造にしがみつき、新しいデジタル技術を活用したビジネスへの参入にためらっていたことだ。

今、自動車や金融などあらゆる業界で、業種の垣根が取り払われている。既存の大企業のビジネスが機能ごとに分解され、デジタル技術と再結合して新たなビジネスモデルが生まれている。これは既存の業種構造を保持しようとする立場では脅威だが、逆にチャンスでもある。日本企業は、これを早期に認識することが第一歩だ。

DXで創出される新しいビジネス価値の図

AIなどのデジタル技術が誰でも簡単に使えるようになる中で、差別化要素は「データ」だ。自社が保有する他社にないデータの価値を徹底的に再考し、その品質を高めることが重要だ。あるパソコンメーカーでは、品質管理の目的で収集していた初期起動データを利用し、どの機種がいつどこで売れたのかをリアルタイムで把握することができるようになった。これにより、部材の調達コストを最適化することができた。

さらに、そのデータを分析し他のビジネス機能と結合させることで、新たな価値が得られる。例えば、電気事業者が持つ日中の電気使用量を分析し在宅時間を推定する。それを宅配ビジネスに適用することで配達時間を調整し再配達コストを削減することができる。

このように、DXの本質は差別化された品質の高いデータと分析技術、さらに他のビジネス機能を結合させ業種の垣根を越えて新たなビジネスモデルを生み出すことと言える。

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神津 友武/Tomotake Kozu

神津 友武/Tomotake Kozu

デロイト トーマツ グループ パートナー

有限責任監査法人トーマツ パートナー。物理学の研究員、コンサルティング会社を経て、2002 年から有限責任監査法人トーマツに勤務。 金融機関、商社やエネルギー会社を中心にデリバティブ・証券化商品の時価評価、定量的リスク分析、株式価値評価等の領域で、数理統計分析を用いた会計監査補助業務とコンサルティング業務に多数従事。 現在は金融、エネルギー、製造、小売、医薬、公共等の領域で、デロイト トーマツ グループが提供する監査およびコンサルティングサービスへのアナリティクス活用を推進すると共に、データ分析基礎技術開発を行う研究開発部門をリードしている。 東京工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科技術経営専攻 客員准教授