Posted: 21 Jan. 2020 3 min. read

第3回 DXによるヘルスケア産業の変革

【シリーズ】DXの本質:インサイトドリブン経営をめざして

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、ヘルスケア業界にも変革をもたらしている。AIやロボット工学、デジタルリアリティー(仮想現実・拡張現実・複合現実)、IoMT(医療機器のインターネット)、ブロックチェーンなどの革新は、人々への医療やケアの提供をより効率的にし、よりアクセスしやすくすることで、新しい価値の創造が期待されている。

本稿は2019年11月19日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:DX発データ経営革命(3)適切治療、アクセス容易に」を一部改訂したものです。

 

2020年のヘルスケア産業の市場規模は、日本が約26兆円、海外が311兆円と推計されている。海外では近年、最新テクノロジーとヘルスケアが交わる「デジタルヘルス」や「ヘルステック」分野への動きが盛んである。

GAFAの中ではグーグルが積極的に進出しており、診断やライフサイエンスの中心領域も含む幅広い分野に投資している。アップルはiPhoneやアップルウオッチを活用し、ユーザーの健康と脈拍や血圧といった「バイタル情報」を取得・一元管理するアプリ開発で注目を集めている。さらにアマゾンもオンライン薬局を買収しており、フェイスブックもコミュニティープラットフォームを利用して患者の闘病を支援するサービスの構想など、ヘルスケアに特化した動きを始めている。

海外スタートアップ企業の参入も活発だ。糖尿病患者向けアプリで初の米食品医薬品局(FDA)承認を取得した米ウェルドックをはじめ、独Sonormedの耳鳴り治療アプリやスウェーデンの避妊安全性表示アプリのほか、薬物使用障害者向けの治療支援アプリ、小児ADHD(注意欠陥多動性障害)向け認知障害治療支援など、様々なデジタル治療「デジタルセラピューティクス(DTx」」の開発とそれらの認証取得を目指す積極的な取り組みから目が離せない。

ただ、現状ではデータの精度と量の問題、各種データが分散され突合しにくい問題、データ所有権の問題、データプライバシー管理に関する法律と倫理基準の不一致の問題などから、多くが限定的な応用にとどまっている。目指すべき目標は、デジタル技術により、適切な治療やケアが、適切な時期に、適切な場所で、適切な人々に届くようにすることである。今後、すべての医療・ケア提供のステークホルダーが協力し、効果的かつ効率的に情報を伝達し利用できるようなヘルスエコシステムをいち早く構築することが求められる。

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金 英子/Yingzi Jin

金 英子/Yingzi Jin

デロイト トーマツ グループ マネージングディレクター

情報理工学博士。国内大学院や海外研究所での研究員職、IT事業会社や総合コンサルティングファームでの経験を経て、現職にいたる。現在は、幅広い業界・業種のクライアント向けに、顧客分析、知財分析、人事データ分析、介護・医療データ分析、異常検知など、データやデジタル技術を活用したデータドリブン経営のコンサルティングプロジェクトをリードしている。 対応可能な言語:日本語、英語、中国語、韓国語