高成長企業の分析から見えた3つの成長パターンとは ブックマークが追加されました
2024年4月30日、デロイト トーマツ グループ横断で英知を結晶化させた書籍『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(以下、本書)を刊行した。
私たちアナリティクスの専門家チームDeloitte AnalyticsとDTI (Deloitte Tohmatsu Institute)では、人口減少下において成長する企業に求められることを探るために、「一人当たり付加価値の高成長企業」に関する分析を行った。その分析手法とともに、分析結果について概観する。
今後の日本にとって最も重要な課題は「1人当たり付加価値の向上」だ。人口減少局面においても、働き手一人ひとりが生み出す付加価値を増やしていくことで、個々人の所得向上につながるとともに、日本全体としても持続的な成長を実現することは十分可能だ。
日本全体が経済の長期停滞や人口減少にさいなまれるのをよそに、実は、就業者1人当たり付加価値の増加に成功してきた企業が少なからず存在する。そこで本書では、こうした企業とその他大勢とがどのように違うのか、どのように「壁」を乗り越えて価値循環を生み出し成長・発展してきたのかを分析した。
本書では、東京証券取引所の上場企業を対象に、以下の条件で1人当たり付加価値を持続的に高めている「高成長企業」を抽出した。
図1は付加価値CAGR、1人当たり付加価値CAGRを横軸と縦軸にとった散布図だ。上記の条件で抽出された高成長企業は19社で、右上のグレーの領域にマッピングされている。
その顔触れは電気機器や輸送用機器、金属製品、鉄鋼、化学などの分野で特徴ある製品・技術を核に事業成長を加速させる大手メーカーや、物流需要の増大・高度化に伴い業容拡大を図りながら業務効率改善を進めていると見られる海運業、陸運業などの大手企業が多く含まれている。一方で、小売業や消費者向け製品・サービスを主たる事業とするB2C企業は、1社のみという結果だった。
これらの高成長企業を分析したところ、3つの成長パターンが見えてきた。それは、「ライフライン化」、「アイコン化」、「コンシェルジュ化」だ。
「ライフライン化」は、特定分野で幅広い製品・サービスのラインアップをそろえ、それらを持続的・安定的に供給する体制を整えて顧客接点を拡大し、顧客の仕事や生活に「不可欠な存在」となることを目指すというものだ。「アイコン化」は、特定分野で圧倒的な技術知見や顧客に関するインサイトを蓄積し、それらに基づいて製品・サービスの独自性を高めて、顧客にとっての「唯一無二の拠り所」となることを目指す。「コンシェルジュ化」は、「ライフライン化」と「アイコン化」の両方の取り組みを融合しつつ、取引頻度と取引単価の両方を同時にバランスよく向上させて付加価値を高める成長パターンだ。
各企業は、自社を取り巻く顧客ニーズや市場環境などに即して、これらの間の最適なバランスを見極めることが求められる。
本書では、それぞれの成長パターンに該当する3社についてケーススタディを紹介している。また、3つの成長パターンの前提となる“戦略軸”についても解説している。
自分自身や組織の一人当たり付加価値を向上させたいと考えている方のヒントとして頂きたい。
執筆者
毛利 研/Ken Mori
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
デロイトアナリティクス シニアマネジャー
社会課題の解決と経済的利益の両立を目指すサステナビリティ領域において、AI人工知能・機械学習を用いたデータ分析活動の推進支援に関わる。ドローン含む次世代モビリティの最適化、風力発電をはじめとする環境問題への取り組み、人口減少、リスキリングなど幅広く調査・研究に邁進。
川中 彩美/Ayami Kawanaka
デロイト トーマツ グループ合同会社 マネジャー
国内系コンサルティングファームを経て現職。官公庁向け調査プロジェクトに従事する他、組織内のナレッジマネジメントシステム立ち上げや業務プロセス導入を経験。現在はデロイト トーマツ インスティテュート(DTI)において、幅広いテーマに関して官公庁・経済団体やマス向けの対外発信活動や調査業務に従事。