Posted: 10 Jun. 2024 4 min. read

メディア・エンタメ:コスモポリタン・エンターテインメントの追求

【シリーズ解説】人口減少下に“個が輝く”日本の未来図

2024年4月、政府の「新しい資本主義実現会議」*1にて著名映画監督らがコンテンツ産業支援を求めたことが話題になった。日本のコンテンツ産業の活性化のために、クリエーターの労働環境の改善、海外展開に関する支援強化、官民一体で業界を支える仕組みづくりなどを政府に求めた。

マンガやアニメ、ゲームなどに代表される日本のコンテンツ産業は世界的にも幅広く支持され、米国、中国に続いて世界第3位の規模*2を誇る。現在コンテンツ消費の中心が旧来型のマスメディアからインターネットに移り、グローバル化が一層加速している中でコンテンツ産業が成功するには、日本市場で成果を上げたのちに海外展開するという従来型のモデルではなく、新たなモデルが必要になっている。



ビジョン:コスモポリタン・エンターテインメントの追求

これから日本のメディア・エンターテインメント業界が目指すべきビジョンは、「コスモポリタン・エンターテインメントの追求」である。これは、コスモポリタン(世界的な視野を持つ)という語が意味するように、最初からグローバル展開を視野に入れて制作・流通を含めビジネスの仕組みを構築していくことを指す。

 

立ちはだかる3つの壁

しかし、こうしたビジョンを実現するにあたり、以下のような3つの壁が立ちはだかっている。

  • グローバル化の壁:海外展開を阻む「国内中心主義」
  • 組織間の壁:組織戦への移行を阻む「天才依存」
  • 短期思考の壁:長期目線での「資金調達力・リスクテイク不足」

 

3つの勝ち筋

これらの壁を乗り越え、ビジョンを実現するには次のような3つの勝ち筋がある。

勝ち筋①:グローバル展開を加速させるディストリビューターへの業態転換

「国内中心主義」の壁を越えてグローバル展開を成功させるには、「連合型のディストリビューション体制」の構築が必要だ。具体的には、放送局や制作会社・新規参入の異業種が共同でディストリビューター企業を作るなど、日本のプレーヤーが主体的に海外市場に進出するための体制を整えていく。ディストリビューターの役割は、海外マーケット向けのパッケージング、ライツ契約管理・権利許諾、市場開拓のための人材・ノウハウの提供、マーケティング、プロモーション、流通などを一手に担うというもので、この存在が不可欠だ。

 

勝ち筋②:業界大連合でグローバル組織戦への挑戦

グローバル競争を勝ち抜くには、企業間の垣根を越えて「コンテンツの発見可能性を高めてヒットを生み出す仕組み」を整備することも必要だ。例えばマンガであれば出版社同士が連合したプラットフォーム上で、統合した世界市場をターゲットにコンテンツを多数ラインナップすることが有効だ。その結果、数多ある作品の中からヒット作品の発見可能性を高め、それがコスモポリタンIPとなり、組織的にコンテンツを発展させ収益を拡大させることすることにつながる。

更に、従来の業種・業界の垣根を越え、プリントメディア・映像からマーチャンダイジングまで総合的なコンテンツ展開の実施を前提に、資金力・海外展開力のある商社などと企画段階から連携するというアイデアも考え得る。

 

勝ち筋③:IPホルダーのビジネスモデル大転換による投資の呼び込み

コスモポリタンIPを生み出すためには、IPホルダーがビジネスモデルを大転換して、積極的に投資を呼び込むことも欠かせない。制作投資を受けるための企画とプロモーションを行い、新旧の複数のIPに対する投資を継続的に呼び込み、新しいコンテンツを生み出すサイクルを作ることが必要だ。これは、日本のIPホルダーにとって従来型のビジネスモデルからの転換を意味し、単発の作品制作による短期的なビジネスではなく、「多量のコンテンツをラインナップ化してポートフォリオを充実させて長期的な収益力を重視する方向」へのシフトが求められる。その一方で、政策面での支援も必要で、国際共同制作時の費用(作品制作以外も含む)に対する税制優遇などの方策を検討する余地がある。

勝ち筋①②③の詳細や具体例については書籍『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』を参照いただきたい。
 

このような勝ち筋を実践することで、コンテンツ単体の“点”ではなく、総合的な“面”の戦い方へと転換することが可能だ。日本のコンテンツ産業がコスモポリタンIPを生み出し、将来的には、日本にグローバルからコンテンツ関連の人材・商品・投資が集まって循環し、さらなる産業発展が実現することを期待する。

 

出所:

*1 「新しい資本主義実現会議(第26回)」(2024年4月17日)
*2 内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「基礎資料(10月25日の第23回新しい資本主義実現会議の基礎資料の再編・改訂・追加版」(2024年4月17日)

※外部サイトにリンクします

 

執筆者

清水 武/Takeshi Shimizu
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
パートナー

国内大手IT事業者、国内コンサルティングファーム、ベンチャー企業経営などを経て現職。メディア業界向けに、企業ビジョン/戦略策定、経営管理、プライバシーなどの各種法制度対応などを含む幅広い領域でのコンサルティングサービスを多く手掛ける。

 

越智 隆之/Takayuki Ochi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター

大手通信キャリアの海外M&A部門を経て現職。テレコム・メディア・ハイテクメーカー向けにAI・5G・メタバースなどのEmerging Technology領域を中心とした新規事業戦略立案・M&A関連のプロジェクトに従事。特にクロスボーダー案件に強みを持つ。

 

書籍『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』

1人当たり付加価値の向上で日本を変革する