Posted: 13 May 2024 6 min. read

人口減少下でも成長する地域経済の戦略発想

【シリーズ解説】人口減少下に“個が輝く”日本の未来図

2024年4月30日、デロイト トーマツ グループ横断で英知を結晶化させた書籍『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(以下、本書)を刊行した。

私たちアナリティクスの専門家チームDeloitte AnalyticsとDTI (Deloitte Tohmatsu Institute)では、人口減少下においても日本全体が成長する「勝ち筋」を探るために、「一人当たり付加価値の高成長地域」について分析を行った。本稿では、人口減少下でも成長する地域の分析結果の一部を紹介したい。



日本の最重要課題とは

今後の日本にとって最も重要な課題は「1人当たり付加価値の向上」だ。人口減少局面においては、働き手一人ひとりが生み出す付加価値を増やしていくことで、個々人の所得向上につなげるとともに、日本全体としても持続的な成長を実現することが重要だ。

実際に、日本全体が経済の長期停滞や人口減少に直面している一方で、就業者1人当たり付加価値の増加に成功してきた地域が存在する。私たちは、こうした地域とその他大勢がどのように違うのか、どのように「壁」を乗り越えて価値循環を生み出し成長・発展してきたのかを分析することで、将来の日本の「勝ち筋」を探った。


 

人口減でも高成長を実現する地域

最初に気になるのが、人口の変化と地域の経済には関係があるのかどうかだ。この問いに答えるため、総務省と経済産業省の「経済センサス活動調査」を基に初期的な分析を行った。そして、市区町村単位の「事業従事者一人当たり付加価値」と人口の二つにについて、2016年から2021年の5年間の変化を整理したのが図1のグラフだ。

この図より、人口が減少しながらも一人当たり付加価値を高めている地域があることがわかる。図の左上の「効率化」象限には、人口減だが一人当たり付加価値が増加している地域として、全体の約35%に当たる600余りの自治体が存在する。「経済成長は単に人口だけで決まるものではない」ということが伺える。人口が減少しても、やり方次第で経済成長できた地域があるというのは、日本全体の成長に対しても期待が持てる事実だ。


 

「高成長地域」の分析から見えてきた戦略発想

さらに、人口減でも成長する要因を分析するために、左上の「効率化」象限の中でも、とりわけ成長している地域を「高成長地域」として抽出し、定性的な分析を行った。

その結果、「高成長地域」の事例から、ある特定の戦略発想が見えてきた。それは、「差異化」と「共通化」、さらにこれら二つの組み合わせだ。「差異化」とは地域独自のリソースを活用することで付加価値を高めるものであり、「共通化」とは地域や組織の垣根を越えてリソースを効率よく活用することで付加価値を高めるものだ(図2)。これらは、地域におけるヒト・モノ・データ・カネの「4つのリソース」を活用することで人口減でも成長につなげる戦略発想といえるだろう。

「高成長地域」では、一見意外と思われる地域の要素を結合することで自らの「差異化」につながるイノベーションを推進していたり、自前主義や独りよがりに陥ることなく、多様なプレイヤーと協力した上で様々な仕組みを「共通化」して効率を高めたりすることで、独自に戦略発想を“実践”していた。

 

さらに、「高成長地域」ではリソースの活用のみならず、「4つの機会」に基づく新たな需要に向けて活用していることがわかった。ここでの「4つの機会」とは、「グローバル成長との連動」「リアル空間の活用・再発見」「仮想空間の拡大」「時間の蓄積が生み出す資産」であり、人口減少下でも市場拡大が見込まれる“新たな需要”のヒントと言えるものだ。

 

 

高成長地域から今後の日本の「勝ち筋」を探る

本稿では、本書の第3章「人口減少下でも成長する地域経済の戦略発想」の一部を紹介してきた。そこでの要点を概括すると、人口減少という課題に直面しながらも成長する地域では、「4つの機会」という市場変化に対応しながら、「共通化」と「差異化」という戦略発想で地域のリソースを活用する取り組みが実践されていた。これらに共通するのは、物理的・心理的・文化的な幾多の「壁」を乗り越えて、ヒト・モノ・データ・カネの循環を促して「価値循環」を戦略的に創り出しているということだ。まさにこのような「価値循環の成長戦略」こそが、今後の日本全体が成長する「勝ち筋」を考える上で非常に重要となるだろう。

 

本書では、さらに詳細にわたって3つの「高成長地域」を戦略発想の実践事例として解説している。自身の所属する地域や組織の一人当たり付加価値を向上させたいと考えている方のヒントにして頂ければと思う。

 

執筆者

毛利 研/Ken Mori
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
デロイトアナリティクス シニアマネジャー

社会課題の解決と経済的利益の両立を目指すサステナビリティ領域において、AI人工知能・機械学習を用いたデータ分析活動の推進支援に関わる。ドローン含む次世代モビリティの最適化、風力発電をはじめとする環境問題への取り組み、人口減少、リスキリングなど幅広く調査・研究に邁進。

 

渡邊 翔吾/Watanabe Shogo
デロイト トーマツ グループ合同会社
デロイトトーマツコンサルティング合同会社 M&Aユニット

外資系コンサルティングファームの自動車セクター、戦略部門を経て現職。モビリティー領域におけるCASE・MaaSなどの新規事業構想を数多く推進。現在はデロイト トーマツ インスティテュートにおいて政界、官公庁、財界への政策提言活動に注力(公共経営修士)。

書籍『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』

1人当たり付加価値の向上で日本を変革する