サーキュラーエコノミー:「少資源国」から「再生資源大国」へ ブックマークが追加されました
近年、サーキュラーエコノミーに注目が集まっている。サーキュラーエコノミーとは、新規の天然資源を極力消費せず、既存資源を有効活用して再生産を拡大し、長くモノを利用し続ける循環経済システムのことだ。2020年の「循環経済ビジョン2020」を起点に、2023年の「成長志向型の資源自律経済戦略」の発表、そして「サーキュラーパートナーズ立ち上げ」と、国主導による政策検討が矢継ぎ早に進められている。
資源循環について、日本はペットボトルや段ボールの回収、家電リサイクルなどの分野で世界に先行して実績を上げてきた。しかし、資源枯渇や調達リスク、環境制約が高まる中で、これからは、こうした個別品目ごとの「廃棄物の回収・再利用」を通じた負の社会課題の解消だけで満足するのではなく、サーキュラーエコノミーを経済成長の起爆剤にするという発想が必要だ。
今後日本が目指すべきビジョンは、「少資源国」から「再生資源大国」への転換である。
日本の製造業や静脈産業等が築き上げてきた高い技術力と、日本が誇る「もったいない」という価値観を掛け合わせて、限られた資源を最大限に引き出し、二周目・三周目の価値を生み出す「再生資源大国」を目指すべきだ。
ただ、こうしたビジョンを実現する上で次のような壁が立ちはだかっている。
これらの壁を乗り越え、ビジョンを実現するには次のような3つの勝ち筋がある。
「地域間の縦割り」の壁を乗り越えるには、行政や産業の垣根を越えた資源循環の広域モデルへの転換が必要だ。広域モデルとは、都道府県など一定の広域地域に存在する複数の事業者や行政を、“横串”で連携する発想である。大規模・広域な経済圏で資源循環を実践することで、行政横断・業界横断で廃資源の量を安定的に確保できるため、規模の経済が働き、資源再生プロセス全体の効率化につながる。
企業間の「競争心理」の壁を乗り越えるには、二次流通市場拡大のために共通の仕組みを構築することが必要だ。そこでポイントとなるのが、各企業が情報連携に協力することが合理的となる環境をつくることだ。
具体的には、使用素材や販売後の使用履歴などの情報を共有し、製品の環境価値を証明することで、新品・中古品・再生品の販売増を促進していく。これにより、企業にとって情報連携は経済的に合理性があると判断し、情報連携が加速するという狙いだ。
また、情報(データ)の秘匿性を保証しつつ、製品の価値が正しく証明されるようなデータ連携の仕組みを構築することも必要だ。欧州の「デジタル製品パスポート」(DPP)の他にも、日本でも取り組みが始まっている。経済産業省が立ち上げた「ウラノス・エコシステム」プロジェクトにより、データ連携を目指す動きが進んでいる。この取り組みを通じて二次流通市場における成功パターンを作り上げ、それを海外諸国と連携可能なデータ流通基盤として発展させる。これが、日本がサーキュラーエコノミーにおいて世界をリードするための土台となるだろう。
「新品崇拝」の意識や思い込みの壁を超えるには、消費者に対し経済価値と環境価値の両面から訴求することも欠かせない。
例えば、製品のQRコードの読み取りなどを通じて、その製造から流通、使用などに関する情報を消費者に提供することで、製品の性能や価格の妥当性、環境価値を判断できるようにして、消費者の懸念を緩和させる。
また、リユースやリサイクルがしやすいエコデザイン品の経済価値(使用期間トータルでのコストの低さ)を訴求する取り組みも重要だ。
これらの取り組みにより、消費者がサーキュラーエコノミー対応型商品を購入する「きっかけ」が生まれ、サーキュラーエコノミー型の事業拡大が期待できる。最終的には、環境に良いものを買うことが当たり前の購買基準となることを目指すべきだ。
それぞれの勝ち筋については、書籍『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』で詳しく解説しているので参照いただきたい。
執筆者
吉原 博昭/Yoshihara Hiroaki
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター
企業・業界横断視点に基づく戦略立案から産業エコシステム形成、デジタル実装に至る一気通貫での企業変革を支援する数多くのプロジェクトに従事。製造DXを通じた社会実装に特に強みを持ち、関連テーマにおける外部講演も数多く経験。
橋本 寛/Hashimoto Hiroshi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー
業務・組織設計などのオペレーションに関わる汎用的な知見を中核に、ビジョンや戦略策定から現場業務変革まで、End to Endの支援を行う。最近ではサーキュラーエコノミーなどの新たなテーマやトレンドに対する企業・自治体の変革支援に多く携わる。